6-9
◆ゼクス
ゼクスの貴族街に向かう途中、私はアルドーさんたち冒険者パーティと相対していました。
私の目的はここを押し通り貴族街にいるオーベさんのもとにたどり着くことです。
アルドーさんの目的は私たちを倒すこと。
当然その目的が両立することなどありません。
私は殺されるわけにはいかないからです。
ならば私はアルドーさんたちを倒します。
その決意を固め私は口を開きます。
「行きます!!」
「来い!!」
その掛け声とともに私は触手を伸ばします。
まずは面倒な魔法使いから倒します。
それを察知したのかアルドーさんは剣を振るいました。
いえ、アルドさんだけではありません。
アルドーさんの傍らに控えていた槍使い、斧使い、短剣使いも彼と同じように私の攻撃が後衛に行くのを防ぎます。
私は触手の数を増やして彼らの攻撃を掻い潜ろうとします。
「………【フレイムランス】!!」
「………【ウィンドランス】!!」
そうこうしている間に魔法使いが詠唱を完了しました。
彼らの放った炎の槍と風の槍が私目掛けて飛んできます。
ここまでの経験から直撃を受けても大したダメージ出ないことは分かっています。
だからと言って黙って受けるわけにはいきません。
私は横に飛んでその魔法を回避します。
私の攻撃はいまだ魔法使いに届きません。
これは目標を変更したほうがいいかもしれませんね。
私は伸ばしている触手の一部を最も鈍重な斧使いに差し向けました。
「ぬ!!」
斧使いの両腕を絡め捕った触手は全身へと伸びていきます。
身動きを捕れなくなった斧使いに他のパーティメンバーがフォローに入ります。
しかし、私はそれを触手で牽制します。
そうこうしている間に斧使いを絡め捕った触手に力を籠めます。
「ぐぅうううう!!」
斧使いも必死に全身に力を込めて抵抗します。
しかし、残念ながら彼のSTRは人間種のそれです。
例えドワーフと言う人間種の中ではSTRに優れた種族であっても魔物種の中でもステータスに秀でたショゴスのSTRには叶いませんでした。
彼は無残な肉片となって路地に飛び散りました。
数舜の時間を経て光の欠片となって消える彼を確認することなく私は次の得物に向けて触手を伸ばします。
次は先ほどから動きに精彩を欠いている槍使いです。
「くっそ!!次は俺か!!」
槍使いは必死に槍を振るい私の触手が近づいてくるのを防ぎます。
しかし、彼は重度の「恐怖」「狂気」に陥っているのでしょう。
その動きは明らかに悪く、とても私の触手をすべてさばききることはできません。
私の触手は瞬く間に彼の全身を覆いつくすと有り余る力をもって彼の体をバラバラにしてしまいます。
「く!!アルドー!!僕が時間を稼ぐ!!あれの準備をしろ!!」
短剣使いがそう言いながら私に向かって走ってきました。
何を考えているか分かりませんがいいでしょう。
彼の思惑に乗ることにします。
私はミスリルナイフを取り出して彼のナイフを受け止めます。
そして、動きの止まった彼を捕えようと触手を縦横無尽に伸ばします。
しかし、彼はAGIに秀でていたのかそれらの触手をギリギリで回避します。
手を抜いたつもりはありませんでしたがよく避けたものです。
彼は私に向けて何度もナイフを振るいます。
私はその攻撃をナイフで受けながらも彼に触手を伸ばします。
何度も何度も攻撃は繰り返されます。
このままでは埒が明きません。
私は彼が振るったナイフを体で受け止めます。
そしてそのまま彼の腕を絡め捕ります。
「な!?」
彼が驚きの声を上げます。
私はそれを聞きながら彼の全身を飲み込みます。
彼の全身を絞るように締め上げ体を押しつぶしていきます。
ボキリと言う嫌な音を最後に彼は光の欠片へと姿を変えてしまいました。
私はそれを確認してアルドーさんに目を向けます。
「待たせたな。」
アルドーさんは静かにそう言いました。
彼の姿は先ほどまでと変わっています。
彼の全身はキラキラと輝く炎に包まれていたのです。
「………そう言えばアルドーさんは自己強化のできる魔法剣士でしたね。」
「ああ。闘技大会の時と一緒と思うなよ!!」
「分かっていますよ。油断はしません。」
彼の言う通り闘技大会の時は武器に炎を宿すだけでした。
それが今では全身に及んでいます。
それに炎の雰囲気も以前までと異なります。
闘技大会の時は普通の炎でしたが今では輝いています。
絶対に何かあります。
私は警戒心を最大限にしながら彼の行動を待ちました。
アルドーさんは剣を構えると一呼吸おいて私目掛けて駆けてきました。
私は彼の足を止めるため触手を伸ばして牽制します。
私の触手目掛けてアルドーさんは剣を振るいます。
その瞬間………。
―ブチ、ブチブチ
触手が切り払われたのです。
今までどのような攻撃でも傷を負うことは無かった私の体が確かにアルドーさんの攻撃で傷を受けました。
私はとっさにアルドーさんから離れるために大きく後ろに飛びます。
アルドーさんはそれを追うようにしてさらに地を蹴ります。
私は攻撃は覚悟のうえで再度触手を伸ばします。
アルドーさんの剣が2度、3度と振るわれます。
その度に私の触手は切り払われそれ相応にHPも削られます。
そうです。
削られるHPはあくまで触手が切り払われた程度のものなのです。
私自身の体が大きく損なわれたわけではありません。
膨大なショゴスのHPからすれば僅かと言っていいほどです。
当然【HP自動回復】のスキルでもってすぐさま回復可能です。
このまま距離を取っていれば負けることは無いでしょう。
何よりアルドーさんの剣が私に届くことはありません。
アルドーさんのAGIよりも私のAGIの方が高いからです。
鬼ごっこをするだけなら私に分があります。
私とアルドーさんは互いに決め手に欠ける中攻撃し合いました。
しかし、その拮抗状態はすぐに崩れ去ります。
「………【フレイムウォール】!!」
「………【ウィンドランス】!!」
アルドーさんの後ろに残っていた魔法使いが魔法を放ってきたのです。
その魔法は周囲の家屋を壊し私の行く手を阻みます。
私は逃げられる範囲が狭まれた中でアルドーさんから距離を捕ろうと地を駆けました。
しかし、それも長くは続きません。
魔法使いをこのまま生かしておけばすぐに逃げ道を塞がれることでしょう。
私は触手を魔法使いに向けて伸ばしました。
彼らは私の触手が眼前へと迫る中魔法を放ち続けます。
遂に私が彼らの体を捕えたその時、私の行く手を阻む包囲網が完成しました。
私は魔法使いたちにとどめをさしながらその状況に目を向けます。
私とアルドーさんを除きこの場には誰も残っていません。
周囲は瓦礫の山が出来上がり逃げられるスペースは限られてしまいました。
「はぁ。」
私はため息を吐きながらこの後の行動を考えます。
敵は私を傷つける術を持っています。
逃げることはできません。
だからどうしたというのでしょう?
普通に戦って倒せばいいだけです。
私はゆっくりとアルドーさんの目の前に歩いていきます。
アルドーさんも私がもう逃げないとわかると足を止めてそれを待ってくれました。
「では、決着と行こう。」
「はい。」
その声をかけた次の瞬間………私とアルドーさんは同時に動きました。
彼の振るった剣を掻い潜り背後へと回ります。
そして体を大きく広げて彼を飲み込みます。
これで決着です!!
その瞬間、違和感に気が付きました。
力を込めてアルドーさんの体を押しつぶそうとしたとき視界の端に移った私のHPに目が行きました。
そこには物凄いスピードで削られていく私のHPが表示されていました。
そう、彼の全身を覆う炎に晒されて私は継続ダメージを受けてしまっていたのです。
そのスピードはスキル【HP自動回復】の回復量を上回っています。
このままでは私がアルドーさんに止めをさすより先に私のHPが0になってしまうでしょう。
私はとっさにアルドーさんから距離を取りました。
「あ、危ないです。」
「どうした?止めをささないのか?」
アルドーさんはそんな余裕ともとれる声色で私に問いを投げかけてきました。
「その炎は何ですか?普通の炎ならこんなにダメージを受けることなどありません。」
「ふむ。この炎は特殊な魔法の炎でな。一部の魔物に対する特効があるのだよ。」
「な!?」
魔物特効。
だから私はあんなにもダメージを受けたのですか?
だとしたら危険です。
彼の言う一部の魔物がどこまでをさすかは分かりません。
最悪の場合、魔物種だけで組んでいる私たちのパーティが全滅してしまう恐れがあります。
私は彼の危険性を上方修正して必ずここで始末すると決意するのでした。
「おしゃべりはここまでだ。いくぞ!!」
アルドーさんはそう言うと私目掛けて駆けてきました。
眼前まで迫ると炎を纏った剣を振るいます。
私は彼の攻撃を右に左にと回避します。
しかし、困りました。
彼に触れられないとなると攻撃する手段がありません。
他に何か手はないものでしょうか………。
私は持っているスキルを頭の中に思い浮かべました。
1つ1つ考えてはこの状況では使えないと頭を振るいます。
そんな中、ふと使えるか使えないか分からないスキルを思いつきます。
これならば行けるのではないですか?
私は触手を伸ばしアルドーさんの体を突き飛ばします。
その隙をついて大きく後ろに下がります。
「距離を取って何のつもりだ?リン、お前の攻撃は私には効かないぞ。」
「それはどうでしょうか?」
私はアルドーさんの言葉を聞きながらスキルの説明画面を表示します。
これならいけます!
私の雰囲気に良からぬものを感じ取ったのかアルドーさんは剣を正面に構えて私の動向を注視します。
私はその状況をほくそ笑みながら口を開きました。
「………【神の見えざる腕】!!」
その瞬間アルドーさんの体が見えない何かに掴まれたように締め上げられました。
驚くことではありません。
これが私の使った魔法の効果なのです。
呪文【神の見えざる腕】。
この魔法は所謂サイコキネシスと呼ばれるものです。
対象を見えない魔法の腕で掴むことができます。
その魔法の腕の大きさや距離は込めたMPに依存し、握る力の強さは使用者のSTRに依存します。
そうです。
この魔法は珍しいことにINT依存ではない魔法なのです。
だからこそ私でも使うことができます。
そんなことを考えている間もアルドーさんを掴む腕に私は力を込めていきます。
みしりみしりと彼の体がきしむ音が響きます。
その音は次第にぼきぼきと骨が折れる音へと変わり、ついには彼の体を潰してしまいます。
私の眼前で光の欠片となるアルドーさんに目を向けながら私は勝利の余韻に浸ります。
しかし、まだ終わっていません。
私は再び貴族街に向けて歩を進め始めました。
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