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◆アイン 中央広場
「あ、来た来た。こっち!」
アキが私の姿を見つけるとと大声でそう口にしました。
先ほど盗賊のチュートリアルが完了したので犯罪者ギルドを後にするときにアキに連絡を入れておいたのです。
「おまたせ。」
私はアキの目の前に来てそう言います。
アキは満面の笑みを浮かべて私の言葉に答えます。
「全然待ってないから平気だよ。どうだった?チュートリアルは。」
「なんて言うか………色々あった………。」
「どういうこと?」
私はかいつまんでアキに事の経緯を説明しました。
最初はまじめに聞いていたアキも話終えることには爆笑してしまっていました。
「ははは。リン、忍び込む家間違えたって。はっはは。苦しいぃ。」
「もう、そんなに笑わないでもいいじゃない。」
「ごめんごめん。ははは。」
「はぁ。」
私自身、自分の方向音痴は知っていたがまさかここまで大きく間違えるとは思いませんでした。
他人事なら私だって笑っていただろうと思います。
だからこそ素直にアキが落ち着くのを待ちました。
「ふう、落ち着いた。で、チュートリアル以上のことをしたってことは経験値も結構入ったの?」
「え?経験値?」
「そうそう。職業レベルの方は種族レベルと違って戦闘以外でも経験値が入るからね。」
アキにそう言われて私はステータスを確認しました。
====================
名前 :リン / 累計レベル6
種族:スライム レベル3
職業:盗賊 レベル3
ステータス割振:
STR:9
ATK:33(18+15)
VIT:62
DEF:38
INT:8
RES:28
DEX:23(7+11+5)
AGI:39(10+14+15)
ボーナスポイント余り:5ポイント
====================
「ほんとだレベル上がってる。」
確かにアキの言う通り職業レベルが上がっていました。
それを見て私は思うのでした。
このゲームって結構レベル上がりやすいのですか?
「その通りだね。」
「もしかして声に出てた?」
「うん。」
心の中で思っていたことが声に出てしまっていたようです。
少し恥ずかしい思いをして私は耳が赤くなるような気がしました。
スライムに耳なんてありませんけど………。
「レベルだけどね。このゲーム種族レベルも職業レベルも結構上がりやすいのよ。」
「そうなの?」
「うん。ちなみに今トップは41だったはずよ。」
レベル41。
それが高いのか低いのか分かりません。
種族も職業も両方とも20くらいってことですよね?
私の7倍くらい………。
そんな感想しか出てきません。
「ちなみにアキのレベルはいくつなの?」
「私?」
「うん。アキもサービス開始日からプレイしているんでしょ?」
「私は今38ね。種族も職業もレベル19。」
「って、トップとそう変わらないじゃない。」
私は呆れた目でアキを見ます。
それが分かってかアキは右手頭を掻きながら目を反らします。
それを見て私はため息をつくのでした。
「はぁ。ゲームばかりやって成績落ちても知らないからね。」
「もう、お母さんみたいなこと言わないでよ。」
そんなことを話しながら2人並んで歩き出します。
どこに行くかは聞いていないがとりあえずアキについていけば何とかなるでしょう。
--
「で、どこに行こうとしているの?」
しばらく歩いて私はアキにそう聞きました。
「知らずについてきていたの?」
「そもそも説明されてない。」
「あれ?そうだっけ?まあ、いいや。これから町の外に出てモンスターを狩ろうと思ってるけどリンはそれでいい?」
モンスター狩り。
まあ、RPGなら定番ですよね。
私は問題が無いことを伝えるために口を開きました。
「大丈夫。狩りって難しい?」
「この辺の狩場は弱い敵しか出ないからレベルが低くても大丈夫だよ。」
「弱い敵って具体的には何が出るの?」
「えっとね。兎とか小動物、あとスライム。」
スライム………。
え?
同族が出るのですか?
「………。」
「やっぱり自分と同じ姿をしているモンスターは狩りにくい?」
私が黙っているとアキが少し笑いながらそう聞いてきました。
「大丈夫。ちょっとかわいそうだなって思っただけ。」
「それなら良いんだけど。」
そんな会話をしながら町の外門を潜りました。
町の外は見渡す限りの草原になっています。
地平線のずっと先まで続く緑の絨毯を見て私はきれいだと思いました。
そんな草原にぽつりぽつりと人影があります。
あれは私たちと同じくここのモンスターを狩っているプレイヤーの人たちでしょうか?
そんなことを考えているとアキはすたすたと先に進んでいってしまいました。
私も遅れないように彼女の後に続きます。
しばらく歩くとアキが立ち止まりました。
どうしたのかと顔を見上げると彼女は草原の一点を見つめていました。
私もそこをじっと見つめます。
しばらくすると草木が動いたのが分かりました。
何かいる様です。
「リンはここで待ってて。お手本を見せてあげる。」
そう言うとアキは腰からロングソードを抜き放ちました。
真正面に構え、草木の影から何かが出てくるのをじっと待ちます。
しばらくするとそこから1匹の兎が飛び出してきました。
いや、普通の兎ではない額には立派な1本角を持った兎でした。
「はぁあああああ!!」
兎の姿を確認するとアキは剣を上段に持ち上げ、大きく踏み込みます。
アキの姿を確認した兎はすぐさま戦闘態勢を取ろうとするもアキの方が早いです。
一息で間合いを詰めたアキはそのまま剣を真下に振り下ろしました。
その剣は兎の体を両断し、光のかけらを作りました。
生み出された光のかけらはさらさらと虚空に溶けるようにして消えていきました。
「どやぁ。」
アキはそんなことを言いながらこちらに振り返ります。
その様子を見て私は呆れるのでした。
兎程度で何を自信満々にしているのですか。
あなたさっき自分のレベル行っていたでしょう?
そんな私の考えは知らずにアキはこちらに戻ってきました。
「どう?こんな感じでやれば簡単だよ。」
「いや、種族も武器も違うんだから参考にならないよ。」
私は至極当然のことを言いました。
アキは今気づいたことのように驚いています。
それを見て私は再び呆れるのでした。
そんな時でした………。
―ガサゴソ
再び草木が揺れました。
また何かが近づいてきたようです。
「次はリンがやってみたら。」
アキはそう言うと剣を鞘に納めてしまいました。
私は仕方なくナイフを取り出し、音の主を探します。
それは先ほどと同じ兎でした。
いや、先ほどとは違いました。
この兎は私たちがここにいるとわかって近寄ってきたのです。
当然、臨戦態勢は万全。
目を爛々と輝かせて私たちを見る兎を前にして私は………。
地を駆けました。
兎が攻撃できる体勢なのは百も承知で突っ込んだのです。
当然私目掛けて兎も体当たりをしようと飛び跳ねます。
私はスライムの流動的な体を駆使してその攻撃を避けます。
空中で交差するようにして互いの位置が変わります。
地に着地した私はすぐさま兎に向かって飛びつきます。
兎は先ほどの攻撃が避けられるとは思ってもいなかったのか少し姿勢を崩していました。
その隙に近づいた私は装備したナイフを兎の首目掛けて振るうのでした。
その攻撃は兎の肉を深々と切り裂きます。
肉を断つ嫌な感触を感じるも手を緩めたりはしません。
そのナイフをねじるようにしてさらに差し込みました。
その攻撃が致命傷となったのか、兎は光のかけらとなって消えてしまいました。
私は兎がきれいさっぱり消えたのを確認してナイフをしまいます。
そしてアキのもとに戻るのでした。
「終わったよ。」
「うん、見てたよ。問題なさそうだね。」
「うん。」
そう言葉を交わして再び獲物を探しに草原を歩き回るのでした。
--
「ねえ、アキはここにいていいの?」
何匹目かの獲物を討伐した時に不意に私はアキにそう聞いていました。
「いていいってどういうこと?」
「アキのレベルならもっと先で戦った方が効率良いんでしょ?」
「そうだね。」
「なら私に合わせる必要なんてないよ。」
私のその言葉は純粋に好意からくるものでした。
それがわかっているからこそアキも少し困ったような表情をして答えるのでした。
「それでも、リンをこのゲームに誘ったのは私だからね。リンが慣れるまではこうして一緒に行動するつもりだよ。」
「そうだったんだ。ありがとう。でも、今日一日付き合ってもらえれば十分だよ。」
「そう?」
「うん。アキはアキのやりたいようにやればいいよ。大丈夫。すぐに追いつくからさ。」
私がそう言うとアキは少し嬉しそうなそれでいて寂しそうな複雑な表情をしました。
「そう言うなら明日からは私は元の狩場に戻るね。」
「うん。ちなみにアキは今どこの狩場で活動しているの?」
「私はドライって言う3つ目の町を拠点にして活動しているよ。」
「3つ目………。」
私はすぐに追いついてやると意気込むのでした。
大丈夫。
この調子ならすぐに追いつけると思います。
まあ、レベルばかりが追い付いてもしょうがないのかもしれませんが………。
「そう言えばドライってどんな町なの?」
「そうね、ついでだからアインとツヴァイについても説明しておくね。」
「うん。よろしく。」
「アインはリンも知っていると思うけどプレイヤーが一番最初に訪れるはじまりの町。町としての規模は大きいく、周りのモンスターも危険の少ないものが多いわ。」
「うんうん。」
「ツヴァイはアインの次の町ね。ここは鉱山が近くて鍛冶が盛んな町よ。鍛冶以外の生産で必要な素材の多くもツヴァイの周辺で入手することが可能よ。だから、今のところ殆どの生産職はここを拠点にしているね。」
ツヴァイは生産の町と。
そうすると装備を整えるのはツヴァイに行ってからの方がいいでしょうか?
スライムって装備ってどうなるのでしょうか。
武器は問題なく使えるけど、防具をつけても意味がないような気がします………。
私がそんなことを考えているとアキが話を続けました。
「最後はドライ。ここは港町ね。漁港があって魚料理が有名な町ね。そしてここから先の町に行くには海を渡る必要があるの。その海で出る魔物が強くてプレイヤーは足止めを食らっているわ。」
「海に出る魔物?」
「そう。単純な強さだけでなく戦いにくさがあるからね。そのせいで海が越えられないのよ。」
ドライは港町でその先に行くには海を越える必要があると………。
あれ?
「海を越える以外の道は無いの?」
「そうみたい。これはNPCに聞いた話なんだけど海の向こうにはフィーアと言う町があるんだって。そこには海を越えていくしかないそうだよ。」
「そうなんだ。」
「ええ。一応ドライの近くには漁村があるみたいだけど町と呼べるのはそのフィーアなんだってさ。」
「なるほど。」
私はとりあえずはドライに向かうことを目標にしてレベルを上げしましょう。
そう考えながら草むらから飛び出してきた兎を狩るのでした。
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