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5-9


◆フュンフ


「………と言うわけです。」


私とハーロウさんはパーティの皆さんのもとに戻り先ほどティーナさんから説明された作戦の概要を説明いたしました。

皆さんは静かにそれを聞いてくださいます。


「それで、僕たちはどの部隊になったのかな?」


「はい。部隊Cです。」


「連絡要員は誰が担当するのじゃ?」


「私は前衛で戦うことになると思うのでハーロウさんにお願いしたいと思っています。ハーロウさんどうでしょうか?」


「大丈夫ですよ。本部の連絡要員の方はまだ見えていませんよね?」


「はい。これからこちらに来る予定です。」


私たちはそう言いながら各自の役割を明確にしていきました。

しばらくそうして話していると不意に私に話しかける人がいました。


「リン殿。」


エスペランサさんです。

私は突然来た彼に驚きながらも話を聞きます。


「エスペランサさん、どうしたのですか?」


「なに、私がリン殿のパーティ担当の連絡要員となったのでなその顔合わせのために来たのだ。」


「そうだったのですね。私たちのパーティではハーロウさんが連絡要員となります。」


「そうなのか。ハーロウ殿、よろしく頼む。」


「はい。こちらこそよろしくお願いいたします。」


その後、エスペランサさんから既に敵魔物軍隊が目視できる距離に来ていること、NPCの冒険者部隊は配置についていることを教えられました。

そのためプレイヤー部隊も順次フュンフ外壁の外に移動し戦闘開始まで待機するようにと指示を受けます。

私たちはそれに従い町の外に向かって歩きはじめました。


--


「「「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」


開戦の火ぶたが切られました。

NPC冒険者部隊が一丸となって敵の前衛に切りかかります。

私たちはそれを後方の作戦本部近くから眺めていました。


「それではプレイヤー部隊も動きます。部隊A、部隊Bに連絡をお願いします。敵側面から入り込み上位種の討伐を目指してください。」


ティーナさんがそう口にします。

すぐさま作戦本部に詰めていた連絡要員たちが一斉に部隊に指示を届けます。

私たちが所属する部隊Cは今しばらく待機です。


私はすぐにも駆け出したい気持ちを抑えて戦場の様子を眺めています。

当初の見通しの通り数の上では魔物の方が優勢です。

しかし、現状の戦況は決してフュンフ側が劣勢と言うわけではありません。

むしろNPC冒険者は敵を押し込んでいるように見えます。


NPC冒険者部隊が奮起しているのかそれともプレイヤー部隊の後方かく乱が旨く行っているのか、それは私にはわかりませんでした。

それでもフュンフ側優勢であるということは喜ばしいことです。

私は胸躍らせながら戦場を眺めていました。


「奇妙ですね。」


私がこの状況を喜んでいますと横でハーロウさんがそのように呟きました。


「奇妙ですか?」


「はい。通常上位種が混じった魔物の群れは上位種が統制を取ります。しかし、あの軍勢は上位種も一緒になって突撃しています。こんな行動は今まで見たことがありません。」


ハーロウさんに言われて私は再び戦場を眺めます。

彼の言う通り上位種もゴブリンと一緒になって冒険者に向かっています。

その際にゴブリンたちを指揮したりはしていません。

あくまで一緒に突撃だけをしているのです。


当然、正面から突撃だけするのであれば驚異ではありません。

そうして来る敵を冒険者たちは巧みに孤立させ集団で屠っていきます。

確かにこの光景は妙です。

一見すると冒険者の動きが巧みなように見えますが実情は魔物側の稚拙さに助けられているのです。

何か理由があるのでしょうか?

しかし、考えても答えは出てきません。

それはハーロウさんも同じなのか先ほどからずっと考え込んでしまっています。


「どうかしましたか?」


私たちがそんな風に悩んでいると不意に声をかける人がいました。

ユリアさんです。

彼女は首を傾げながらこちらを心配そうな表情で見つめてきます。

いけません。

リーダーとサブリーダーが一緒になって思案顔していてはメンバーに不安を与えてしまいますね。

私は何でもないことの様に装って彼女に返答します。


「大丈夫です。なんでもありませんよ。」


「ハーロウさんの様子を見ると何でもないということは無いと思うのですが………。何か戦場で不安なことがあるのでしょうか?私に相談し見てはいかがでしょうか?口に出して見れば何か見えてくるかもしれません。」


彼女はそう言って薄く微笑みます。

確かに彼女の言う通りなのかもしれません。

私は意を決して口を開きました。


「実は戦場の上位種の動きがおかしいのです。下位のゴブリンと一緒になって突撃をするだけで軍団を指揮したりはしていないのです。」


「なるほど。」


彼女は私の話を聞くとそう呟いて戦場に目を向けます。


「確かに突撃ばかりを繰り返していますね。上位種、下位種関係なしに群全体でそれを行っています。数が多いからそれでも驚異ですが確かにこれはおかしいですね。」


「やっぱりそうですか?」


「はい。」


彼女の返答を聞いて私は再び不安になります。

まだ、戦場には私たちが見えていない危険が潜んでいるのではないでしょうか?

そう思えてしまうのです。

私がそんな不安に駆られているとユリアさんが口を開きました。


「これはあれかもしれません。」


「何か心当たりがあるのですか?」


私は彼女に期待を込めた目を向けました。

彼女はゆっくりとその考えを語ってくれます。


「今見えている上位種以上の存在がいる可能性があります。その存在にとってはゴブリンだろうとトロール等の上位種だろうと同じなのかもしれません。だからこそ皆を同じように扱っているのではないでしょうか?」


「私たちが見ている上位種以上の存在がいる?」


「はい。そして、その上位種は細かく軍団を動かせる位置にいないのではないでしょうか?だからこそ軍団は突撃ばかりを繰り返しているのです。」


「その存在に心当たりがあるのですか?」


「残念ながらこの状況だけではわかりません。」


「そうですよね。」


私の質問にユリアさんは首を振ってそう言いました。

その返答を残念に思いながらも私は今の状態では仕方がないのだと諦めるのでした。

そして再び戦場へと目を向けます。

ここで戦っている以上の存在がもしも現れたら戦線は崩壊するのではないか?

そんな不安を胸に抱くのでした。


--


「まもなく部隊Aを下げて部隊Cに出てもらいます。部隊Cの方は準備をお願いします。」


ティーナさんがそう叫びました。

私たちは戦闘準備を整え配置に着きます。

そしてその時を今か今かと待つのでした。


「作戦本部から連絡がきました。敵左翼より接敵し上位種の討伐を行います。リンさん。」


「はい。皆さん突撃します。付いてきてください。」


私はそう言うと敵の左翼目掛けて突撃しました。

皆がそれに続いてきます。

NPC冒険者部隊が支えている防衛線を越えて敵の真っただ中まで浸透します。

そして手近に迫ったオークを捕食して殺します。


「皆さんここを中心に敵上位種の殲滅を行います。ハーロウさんとユリアさんは魔法での援護をお願いします。前衛は各自散って上位種を攻撃。必要があれば各自フォローをお願いします。」


私は皆に聞こえる声でそう言いました。

その言葉を聞いてまず動いたのはハーロウさんとユリアさんです。

2人は魔法で数々の魔物を召喚していきます。

それらは敵の下位種を倒しながら上位種の動きを牽制します。

その隙をついてラインハルトさんが動きました。

スケルトンに囲まれ身動きの取れないオーガに近づくと渾身の力をもってその剣を振るいます。

オーガのただやられているだけではありません。

攻撃の主であるラインハルトさん目掛けて反撃をしようとします。

しかし、その攻撃はスケルトンたちに阻まれてしまいます。

その隙にラインハルトさんは2撃目、3撃目の攻撃を放ちます。

何度目かの攻撃ののちにオーガは光の欠片となって消えてしまいました。


「私も負けてられないなー!」


「妾もじゃ!!」


アキとユキナさんがそう言って敵に攻撃を仕掛けます。

2人とも上位種相手に1人で十分に戦えています。

その様子を見て私は一先ず安心するのでした。

さて、私も負けてられませんね。

私は自分の得物を探して当りを見回しました。

その時、異変に気が付きました。


「あれ?」


「どうかしたかい?」


私の呟きを耳聡く聞きつけたラインハルトさんがそう聞いてきました。

私は感じた違和感を簡潔に伝えます。


「おかしいのです。私のスキルの影響を受けていないみたいなんです。」


「スキル?」


「はい。通常なら私に敵対するものは「恐怖」と「狂気」に陥るはずです。しかし、この魔物の軍勢はその影響を受けていないように見えます。」


「確かにそうだね。それはおかしい。」


2人して訝し気に魔物の軍勢を見ます。

しかし、今はそんなことを気にしている場合ではありません。

私はすぐさまその疑問を頭の端に追いやると敵に向かって駆け出しました。


こうして私たちは敵を1匹、また1匹と倒していきました。

それは部隊Cに撤退の合図がくるまで続きました。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『開戦の火ぶたが切って落とされました』とありましたが、ただしくは『火ぶたが切られた』もしくは『幕が切って落とされた』だと思います
[一言] 恐怖と狂気の状態異常が入らないと言うことはこの突撃するモンスターには自我的な考える力がない?洗脳とか催眠とかされて割と無理やり突撃させられてるのかなぁ?
[気になる点] 可笑しいではなく、おかしいではないでしょうか? 私が間違っていたら、すみません。
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