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5-8


◆フュンフ


「魔物だ!!魔物の集団が来ているぞ!!」


フュンフの中央広場じゅうに響き渡る声でその剣士の男性は言いました。

彼の表情は悲壮感漂うそれであり、とても焦っていることが分かります。

彼だけではありません。

彼のパーティメンバーらしき人たちも一様に危機感を露わにした表情を示していました。


「何がどうしたんだよ。」


彼らにほど近いプレイヤーらしき男性が声を駆けました。


「この町、フュンフに向かって魔物の軍勢が押し寄せてきているんだ!!」


剣士は声高にそれを口にします。

その横にいる盾戦士らしき男性が彼の言葉を補足しました。


どうやら1万を超える魔物の軍勢が見事な隊列を組んでこのフュンフに向かっているようです。

軍勢を構成する魔物の多くはゴブリンだが中には上位種が混じっているといいます。

他にもオークやオーガ、トロールなどの大型の魔物も確認されたそうです。

それらの魔物が早ければ1両日中にはこのフュンフにたどり着くそうです。


私には彼らが必死になる理由が思い浮かびません。

確かに1万という数は多いですが私はその魔物を知らないからです。

だからこそ私は傍らにいるハーロウさんにそのことを聞いてみました。


「ハーロウさん。彼らの語ることは皆一様に顔を青くするような出来事なのでしょうか?」


「そうですね。ゴブリンだけならそうではないのですが上位種やオーク、オーガ、トロールがいるとなると話は別です。簡潔に言ってフュンフと言う町の存続の危機です。」


「それほどですか?」


「はい。この世界の冒険者を基準に話をします。ゴブリン種だけなら1匹に対して1人の冒険者で十分事足ります。しかし、オーク、オーガ、トロールは通常冒険者がパーティを組んで倒す魔物です。」


ハーロウさんはどれほど今の状況が絶望的であるかを懇切丁寧に説明してくれます。

私はそれを黙って聞いていました。


「これらの魔物が1万います。一方でフュンフの町にいる冒険者と衛兵の数はいいとこ3,000から4,000と言ったところでしょう。これはプレイヤーも含めた人数です。単純な数で倍以上の開きがあります。戦力比較ではそれ以上の差があるでしょう。」


「では、フュンフの町はどうなるのでしょう?」


「それはフュンフの町に住む人々が決めることです。」


ハーロウさんは無慈悲にそう口にしました。

フュンフの町の人が決めること。

それはフュンフの町を捨てて逃げ延びるのか、それともここで魔物の軍勢と戦うのかと言うことなのでしょう。


もしも、町の人が逃げることを選択すればこの町は地図から消えて、後に残るのは瓦礫の山となるのでしょう。

ここで暮らす人々にとってそれがどれほど忌避すべきことなのか私には想像できません。

しかし、決して望まれているものではないことは確かです。


ならば戦うのでしょうか?


戦えば命の危険があります。

例えこの町が瓦礫の山となっても命があればやり直すことができるかもしれません。

しかし、その可能性を捨ててでもこの町が大切なのだと思えば彼らは戦うのでしょう。


果たしてフュンフの町に住む人々はどのような選択をするのでしょう。

私は複雑な気持ちで声高に魔物の到来を知らせる彼の言葉に耳を傾けていました。


そんな時、中央広場に1人の老紳士がやってきました。


「ギルドマスターじゃ。」


すぐ近くにいたユキナさんがそんな言葉を漏らしました。

私はとっさに聞き返します。


「ギルドマスター?」


「ああ。あの老紳士はフュンフの冒険者ギルドのギルドマスターなのじゃ。」


ユキナさんの言葉に耳を傾けながらその老紳士に視線を送ります。

彼は先ほど危険を知らせてくれた剣士たち一行に近づき口を開きました。


「このフュンフの危機を知らせていただきありがとうございます。あなた方がもたらした情報は他の冒険者の方からも聞いています。この情報を受け取り町の有力者で協議を行いました。戦うのか、逃げるのか。」


ざわざわと騒がしい広場にあっても彼の言葉は自然と耳に届きました。

その声を聴いて1人、また1人と口を噤みます。


「協議の結果、我々フュンフに住まう者たちはこの度の危機を前にして戦う決意を固めました!」


彼がそう宣言すると広場は沸き立ちました。

ある者は拳を掲げ、あるものは雄叫びを上げ、そうして勢いついた空気は皆が戦いを前にお互いを鼓舞する様でした。

興奮に満ちた人々をギルドマスターは手で制します。

それを見て皆は口を噤み彼の次の言葉を待ちます。


「当然、冒険者ギルドはこの戦いに全面協力します。緊急クエストの発令をここに宣言いたします!!」


「緊急クエスト?」


そう言うギルドマスターの話に聞きなれない言葉があったので私は不意にそう呟いていました。


「緊急クエストは町の存続を左右するような重大な事柄に対処するために冒険者が強制的に受けさせられるクエストです。今回の場合では魔物の軍勢の討伐が強制クエストの内容となるのでしょう。」


私の呟きにハーロウさんが親切に答えてくれました。


「それはハーロウさんたちも戦いに参加するということですか?」


「はい。そうなりますね。リンさんはどうしますか?確か冒険者ではありませんでしたよね?」


「皆さんが参加するのであれば私も参加しようと思います。」


「そうですか。」


私たちがそんな会話をしている間もギルドマスターの話は続きました。


「敵は強大です。しかし、冒険者と衛兵の力を合わせればこれに勝てないとは思えません。必ず勝利を手にしましょう!」


彼のその言葉でまたも広場は喧騒に包まれました。

皆戦いに向けて意気込んでいます。


--


「えっと、私はこの度フュンフ防衛戦のプレイヤー指揮担当となりました。ティーナと言います。」


中央広場の一角に設置された舞台の上から彼女はそう声をかけました。

広場には作戦に参加することを決意したプレイヤー、およそ300人が集まっていました。


ギルドマスターの宣言の後、急ピッチで対策本部が設けられました。

今回の作戦名はフュンフ防衛戦。

その名の通り魔物の軍勢からフュンフの町を守ることが目的です。


防衛戦の部隊は大きく分けて3つに分けられます。

NPCで構成される冒険者部隊、NPCで構成される衛兵部隊、そして私たちプレイヤーで構成される冒険者部隊です。

今回プレイヤーの冒険者部隊の部隊長には長らくこのフュンフで活動していて実績十分なティーナさんが選ばれました。

こうして彼女は檀上から皆に声をかけることになったのです。


「皆さん、思うところはあると思いますが是非協力をお願いいたします。」


彼女はそう言って頭を下げます。

何処か頼りない感じはしますがそれでも歴戦の冒険者なのでしょう。

彼女の使う武器や防具はしっかりと使い込まれていました。


「さて、作戦本部で話し合ったフュンフ防衛線における各部隊の役割を通達いたします。」


皆が彼女の声に耳を傾けます。

彼女は少し緊張した面持ちでゆっくりと語り始めました。


「まず敵戦力と真っ向から対峙し戦線維持を担当するのはNPCから構成される冒険者部隊です。彼らは3部隊の中で一番数が多いです。そのためこの役割となりました。次に衛兵部隊についてですが、彼らは町の外での戦闘経験が不足しています。そのため彼らは街中に魔物が侵入した場合の対処をいたします。」


ゆっくりとではあったが丁寧にそう説明する彼女の言葉をその場に集まった皆は静かに聞いていました。

皆その表情は真剣そのものです。

誰1人として騒ぎ立てる人がいないことを私は内心で驚いていました。


「最後に私たちプレイヤー部隊は遊撃です。戦場に広がって敵戦力で特に強いものを潰していきます。そのため、私たちの部隊はパーティ単位で動いてもらうことになります。また、不測の事態が起こった時も私たちプレイヤー部隊が動きます。そのため、一部のパーティには予備選力としてフュンフ近くに待機してもらうことになります。」


なるほど。

パーティ単位ならばいつもの戦闘と何も変わりはありませんね。

連携の訓練などしている暇はないでしょうしその方が良いでしょう。


「戦闘に参加されないプレイヤーの方は補給と連絡のお手伝いをお願いします。前線で戦っているプレイヤーには彼らからプレイヤーの連絡機能を使って指示を飛ばします。」


彼女はそこで一度言葉を区切りました。

そして改めて全員を見回して。

再び口を開きます。


「それではこの後、詳細の説明をさせていただきます。各パーティのリーダーとサブリーダーは残ってください。」


彼女にそう言われて皆は散っていきます。

その場には各パーティのリーダーとサブリーダーが残ります。


私たちのクランからは私、アキ、ラインハルトさん、ハーロウさん、ユリアさん、ユキナさんが戦闘に参加します。

この6人でパーティを組みました。

自然とリーダーとサブリーダーはクランと同じく私とハーロウさんがやることになりました。

なので私とハーロウさんはその場に残り他の皆さんには戦闘の準備をお願いしました。


各パーティのリーダーとサブリーダーが集まったのを確認したティーナさんが口を開きます。


「先ほども説明した通り私たちプレイヤーは遊撃として動きます。詳しくは次の通りです。まず、部隊を3つに分割します。これを仮に部隊A、部隊B、部隊Cと呼称します。部隊Aと部隊Bが攻撃時は部隊Cは補給及び不測の事態に備えた予備部隊となります。ある程度戦闘が進んだら部隊Aを下げて部隊Cを前線に出します。そしたら次は部隊Aが補給及び予備部隊となります。このように3部隊をローテーションさせていきます。」


彼女の説明を静かに聞きます。

それは皆も同じです。

先ほどと同じように誰一人としてふざけるようなことはしません。


「各部隊の撤退のタイミングはこちらから連絡を入れます。その連絡を受けたら速やかに撤退してください。前線に出る時も同じです。何か質問はありますか?」


「その部隊は固まって動いた方が良いのか?」


「いえ、部隊の中はさらにパーティ毎に分割します。動く際はパーティ単位でお願いします。必ずしも他のパーティと一緒に動く必要はありません。」


「戦場で不測の事態があった場合にこちらから連絡をするのはありか?」


「はい。それは是非してください。こちらの作戦本部でも戦場を監視していますがそれでも限度があります。もしも戦場で何かわかることがあればすぐに連絡をください。」


そうやって皆は質問や意見を交わしていきました。

少しずつ作戦が形となっていきます。

しばらくして質問が途切れると再びティーナさんが口を開きました。


「それでは最後に………私たちの手でフュンフを守りましょう!」


彼女のその号令を聞いて皆は沸き立ちました。

手を掲げてその決意を胸にするのです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 雑魚が発狂しそうなんだけど…
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