5-7
◆フュンフ近くの草原
>>Side:とあるプレイヤー
俺たちのパーティはフュンフの北東に広がる草原で魔物を狩っていた。
「よっしゃ、倒したぞー!」
俺は暴れまわる猪に最後の一撃を食らわせそう叫んだ。
その様子を周りにいる仲間たちは嬉しそうに眺めている。
彼らの方も無事に戦闘が終わっていたようだ。
「レベルはどうだ?」
俺は仲間に問われてステータスを確認した。
「レベル62だな。そろそろ次の町を目指しても良いんじゃないか?」
「確かになー。」
俺の発言に槍使いはそう言って同意を示した。
「いや、ゼクスに行ったアルドー達はレベル70を超えているらしい。アハトの方もそれに近い。もう少しレベルを上げてからじゃないとボスにやられるだけだろう。」
慎重な盾戦士がそう口にした。
彼の言い分もわかる。
下手にボスに挑んで死に戻ったらかなりのロスになるだろう。
ならば入念に準備したいというのもわかる。
しかし、そう言ってすでに1週間はフュンフ近くでレベル上げに勤しんでいる。
そろそろ飽きてきてしまった。
「なあ、じゃあ少しは気分を変えて別の狩場に行かないか?」
「ここの狩場以上に美味しい所は無いだろ?」
「そうだけどもよなんか飽きてきちゃったんだよ。」
「私も賛成。この辺の魔物は経験値は美味しいんだけど魔法が効きにくいから戦っていて面白くない。」
続いて俺の言葉に賛成を示したのは魔法使いだ。
彼の言う通り、この辺で出てくる魔物は軒並み魔法に対する耐性が高い。
辛うじて大鷲は魔法が無いと戦えないから魔法使いの出番はその時だけだろう。
「じゃあ、どこか候補があるのか?」
「フュンフ北西の森はどうだ?あそこなら魔物の種類ががらりと変わって良いんじゃないか?」
「あそこの魔物は毒持ちが多いぞ。アイテムの損耗が激しくなる。ますます、他の町行きが遅れることになるから却下だ。」
「じゃあ、南側の岩山は?」
「遠い。行くだけで2日かかるぞ。狩りをするなら近場の方が良いだろ。」
俺の案は悉く却下される。
それは俺自身もわかっているさ。
この場所以上に旨い狩場がこの近くにないことぐらいな。
「はー、じゃあ冒険者ギルドで何か依頼でも受けて見るか?その依頼次第ではここ以外の場所に行くこともあるだろう。」
盾戦士はため息を吐きながらそう口にした。
その顔は呆れとも諦めともとれる表情をしていた。
「それ良いな。よし、それで決まりだ。」
俺は彼の言葉を名案だと思う。
そうだよ気分を変えるならギルドでクエストを受けたっていいじゃないか。
「そうと決まれば今日のところは我慢して狩りに専念するんだな。」
「おう。わかってるよ。」
盾戦士にそう言われ俺は元気よくそう答えた。
先ほどまでのけだるさが嘘のようだ。
今はその依頼が楽しみで仕方が無かった。
「なあ、俺たちってこの後どこを目指すんだ?」
俺と盾戦士の会話がひと段落すると唐突に槍使いがそう口にした。
「どこって………今日はここで狩りをするんじゃないのか?」
「そうじゃ無くてさレベルが十分に上がった後さ。ゼクスに行くのか?アハトに行くのか?それともズィーベンに行くのか?」
「そうだな。どこが良いと思う?」
槍使いの疑問に回答を保留して俺は盾戦士にそう聞いた。
彼は思案顔をしながら口を開く。
「ズィーベンはどんなところか分からないから選択肢から外してもいいだろう。装備を強化するならゼクス、冒険者として活動するならアハトかな?」
「どっちが良いんだ?」
「俺個人としてはゼクスに行ってからアハトで良いと思う。ただ、時間がたてばフュンフでもアハトでも上位の装備が手に入るようになると思うから直接アハトに行くのも悪くはないな。」
盾戦士はゼクス行きを推していると。
しかし、アハト行きにも反対ではない。
「私は今の装備に不満は無いし直接アハトに1票。魔導書も気になるし。」
魔法使いはアハト行きを推している。
もうこの時点で2人の意見が対立したぞ。
俺は「おまえはどうなんだ?」という視線を槍使いに向けた。
「俺もアハト行きで良いぜ。武器を作るにしても金が必要だろ?金儲けならアハトの方が良いって言うしな。」
槍使いも魔法使い同様にアハト行きを推している。
こうなると盾戦士には悪いがアハト行きになるのかな?
「じゃあ、アハトに行くことにするか?」
「別に構わない。しかし、俺たちだけで決めていいことでもないだろう。」
盾戦士の言う通り。
俺たちにはあと弓使いと神官の仲間がいる。
彼らにも話を聞いてみないといけないだろう。
しかし、弓使いはともかく神官の方はアハト行きを推しそうだな………。
「それにしてもあいつら遅いな。」
「そうだな。魔物の索敵にしては時間をかけすぎている気がする。」
「連絡入れてみるか?」
「何か問題があれば向こうから連絡来るんじゃない?ほっとこうよ。」
俺たちがそんな話をしていると遠くから神官の男が戻ってきた。
どこか焦っているような雰囲気だ。
彼が近づいてきてその異変を俺たちは知ることになる。
彼は1人で戻ってきたのだ。
弓使いはどうしたんだ?
俺たちは訝し気に思いながら神官の男から話を聞くことにした。
「大変だ!!」
神官は第一声から焦っていることがありありとわかる声色でそう言った。
「落ち着け。おまえ1人か?」
「あ、ああ。あいつは現場に残っている。」
「現場って何のだ?いや、それより何があった?」
神官は肩で息をしながら呼吸を整える。
そして焦りを多分に含んだ口調で話し始めた。
「魔物の大群がいるんだ!!」
彼のその言葉からはあまり危機感を抱けなかった。
魔物の大群?
だからどうしたの?
別に勝てないほどの魔物なら逃げれば良いんじゃないかな?
今までだってそうしていたし。
そんな感想しか浮かんでこなかった。
「おまえのその言葉だけじゃどれだけ大変なのか分からない。もう少し詳細の説明をしてくれ。」
「だから、見渡す限りの魔物の大群がいるんだ!!それがフュンフの町に向けて進んでいるんだよ!!」
見渡す限りとくると確かにそれは多いのかもしれないな。
しかし、フュンフの町に行っているならそっちで対処するだろう?
何をそんなに焦る必要があるんだ?
「良いから来てくれ!見ればわかる!!あの魔物たちは異常だ!!」
神官はそう言って俺たちの手を引く。
俺たちは渋々と彼の言葉に従いその魔物の大群が見えるという丘に向かうのだった。
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「やべぇ。」
「ああ、やべぇ。」
丘かから魔物の大群を見て俺たちはそんな感想を口にしていた。
「な、言った通りだろ!!」
それを聞いて神官が声高らかにそう言う。
「静かにしろ。離れているとは言え見つかる可能性だってあるんだ。」
そしてそれを弓使いが窘めた。
そう、俺たちは今魔物の大群から遠く離れた丘の上にいた。
そしてそこから魔物の大群を見ていたのだ。
いや、大群なんて言葉は適当ではないのかもしれない。
その魔物はまさに軍勢だった。
上位者によって指揮をとられ規則正しく隊列を組んだそれは軍隊だ。
多くはこの辺で見かけないゴブリン種だろうか?
そのほかにもオークやオーガ、普段は群れないトロールなんて魔物の姿も見える。
そんな魔物たちが推定で1万程いるのだ。
魔物は皆一様にフュンフの町目指して歩いている。
この光景は確かに異常だとわかる。
このまま放置すればフュンフの町は魔物たちに蹂躙されることは目に見えていた。
いかにフュンフの町の衛兵が屈強だろうと、いかにフュンフの町にいる冒険者が精強だろうと変わらない。
「すぐに知らせよう。」
僅かに持ち合わせていた正義感から俺はそう口にしていた。
皆から反対意見は出ない。
「俺はここで見張りを続ける。」
「分かった。何かあったら連絡を頼む。」
弓使い1人を残して俺たちはフュンフの町へ向かって走りだした。
早くこの異常事態を知らせなくては。
その一心だった。
>>Side:とあるプレイヤー End
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