5-3
◆フィーア=フュンフ街道
「そう言えばリン殿。」
フュンフへの旅路の途中、唐突にエスペランサさんが話しかけてきました。
その表情から特に重要なことと言うわけではないようです。
私は落ち着いて彼の次の言葉を待ちます。
「以前受け取った魔術書の解読が終わったぞ。」
「魔術書ですか?」
はて、そんなものを渡していましたっけ?
私には心当たりがありませんでした。
「何をとぼけているのだ。ほらツヴァイの鉱山で見つけたと言っていただろう。」
「あ!」
そう言えばツヴァイの鉱山施設で見つけた魔術書らしき本と資料をエスペランサさんに渡していました。
私には読むことができませんでしたがエスペランサさんにはそれが読めたのですね。
「一応、現代語に訳したものを作っておいた。読んでおくといい。使えるかは分からんが呪文を手に入れることができるぞ。」
エスペランサさんはそう言って私にアイテムを1つ渡してきました。
そのアイテムは「不完全な無名祭祀書(写本)」となっていました。
………確かに魔術書です。
それも、相当にやばいものです。
私がそのアイテム名に慄いているとエスペランサさんが声をかけてきます。
「やっぱりアイテム名に心当たりがあるのだな。」
「エスペランサさんもですか?」
「ああ。私も最初見たときは驚いたものさ。」
エスペランサさんのその言葉を聞きながら私はその魔術書を開きました。
その瞬間、システムメッセージが届きます。
<呪文【神器の創造】を取得。>
<呪文【位階の昇華】を取得。>
<呪文【悪魔の召喚/退散】を取得。>
<呪文【大悪魔の召喚/退散】を取得。>
<呪文【悪魔王の召喚/退散】を取得。>
<呪文【ミ=ゴの召喚/退散】を取得。>
<スキル【神代知識Ⅰ】を取得。>
え?
なんか、魔法とスキルを取得しました………。
こんな簡単に手に入るものなんですか?
「その様子を見るに呪文を手に入れたようだな。」
「はい。」
「なるほど。やはり訳したものでも呪文を取得することができるのか。」
エスペランサさんはそう言うと考え込むようなしぐさをします。
それを見ながら私は本をインベントリにしまうのでした。
「どうしましょう。呪文を持っていてもショゴスのINTは低いので使えるかどうか。」
「そうなのか?まあ、あれだけの肉体性能を持っていれば魔法系は低いのは当たり前か。それでいても持っていて悪いものではないだろう。特に召喚系はINTで威力が変わったりしないからな。」
「はい。」
私はそう聞きながら先ほど取得した魔法を確認します。
確かにミ=ゴ、そして悪魔の召喚呪文を取得しています。
「召喚と言うと普段ハーロウさんがスケルトンを召喚しているようなやつですか?」
「ん?ああ、普段ハーロウ殿がやっている召喚は一時召喚だ。先ほどの書物で手に入ったのは完全召喚だから別物だな。」
ん?
一時召喚と完全召喚?
どう違うのでしょう?
「その感じだとリン殿は魔法に関しては疎いのかな?」
「はい。お恥ずかしながら………。」
「よい。簡単に説明すると魔法を使って一時的に召喚するのを一時召喚。対して召喚後ずっとその場に留まるのを完全召喚と呼んでいる。一時召喚の方がコストも少なく取得しやすいのに対して完全召喚はコストが重く、取得にはレベル以外の要素が必要となる。」
「おや、魔法の話ですか?」
私たちがそんな話をしているとハーロウさんが耳聡く近づいてきました。
「先ほどエスペランサさんが説明した通り完全召喚を取得するためには単純な魔法使い職業のレベル以外の要素が必要となります。ちなみに私は先日進化したことでアンデッドの完全召喚を取得しました。恐らくですがリッチと言う種族がそれを成したのだと考えています。」
そう言うハーロウさんの声色はどこか誇らし気でした。
それほどに完全召喚を取得するということは特別なことなのでしょう。
しかし、それを私は本を開くだけで取得してしまいました。
少し気が引けてしまいます。
私がそんなことを考えているとエスペランサさんから声がかかりました。
「分かったと思うが完全召喚を取得するということはすごいことなのだ。だからこそリン殿が持ってきた書物が普通ではないと言えるだろう。」
「はい。」
「だからと言って萎縮する必要はないぞ。魔法はあくまで手段でしかない。それを使って何を成すかが重要なのだ。」
エスペランサさんにそう言われて少し気持ちが軽くなります。
魔法は手段。
その通りですね。
私はすごい力を手に入れてしまい途方に暮れていましたがそれで私のやることが変わるわけではありません。
むしろ手段が増えたことを喜ぶべきなのでしょう。
「御2人の話を聞いていると何やら魔法を取得する本………魔導書が見つかったのですか?」
私とエスペランサさんの話に途中から入ってきたハーロウさんは話若干話についてこれていませんでした。
私は彼に説明するためにインベントリから先ほどの本を取り出して口を開きました。
「この魔導書を読んで先ほど話に上がっていた完全召喚を取得することができたのです。」
「なるほど。私にも見せていただけませんか?」
「はい。」
私はその本をハーロウさんに渡します。
ハーロウさんはその本を開くと驚きの表情を見せました。
「まさか、本当にこれだけで魔法が取得できるとは………それほど、高位の魔導書と言うことなのでしょうね。」
「そうだろうな。」
ハーロウさんの呟きにエスペランサさんが相槌を打ちます。
「私も色々情報を集めているがこれ程高位の魔導書は目にしたことはおろか聞いたことさえないよ。」
そうなのですね。
エスペランサさんがそう言うということは余程のことなのでしょう。
まあ、そんな魔導書がそう易々と手に入ってしまっては危ないというのもあるでしょう。
あれ?
でも………。
「そう言えば、先日のクエスト報酬でいくつか魔導書を手に入れていました。」
「本当か!?」
「え!?」
私の呟きにエスペランサさんだけでなく一緒にクエストをこなしたハーロウさんも驚きました。
「ハーロウさんは魔導書を手に入れていないのですか?」
「はい。私もラインハルトも魔導書は手に入れていないですね。」
私はインベントリの中を確認しました。
そこには確かに「秘匿された知識の紙片」「ルルイエ異本(写本)」「不完全な無名祭祀書(写本)」「クタート・アクアディンゲン」の文字がありました。
私はそれらを取り出し開きます。
<呪文【コンバートHPtoMP】を取得。>
<呪文【コンバートMPtoHP】を取得。>
<呪文【リンク・マス・スペルキャスター】を取得。>
<呪文【夢の呪い】を取得。>
<呪文【沈黙の呪い】を取得。>
<呪文【水の呪い】を取得。>
<呪文【神の見えざる腕】を取得。>
<呪文【水生生物との意思疎通】を取得。>
<呪文【水生生物の召喚/退散】を取得。>
<呪文【水面歩行】を取得。>
<呪文【水中呼吸】を取得。>
中身の大半はやはりよくは分かりませんでしたがそれでも多くの魔法を取得しました。
間違いなく魔導書です。
「それが魔導書なのか?」
「はい。残念ながら中身は殆ど分かりませんがそれでも魔法を取得できました。間違いなく魔導書です。」
「お借りしてもいいかな?」
エスペランサさんにそう言われて私はそれらの魔導書を彼に渡しました。
彼は1冊を手に持ち開きます。
「おお!!」
驚きとも喜びとも取れる声を上げました。
私はそれを見てやっぱりすごい魔導書なのだと実感するのでした。
「リン殿!しばらくこれを借りてもいいかな!?」
「はい、大丈夫ですよ。できましたら、それも翻訳していただけないでしょうか?」
「ああ、もちろんだとも。」
私のお願いにエスペランサさんは快く承諾してくれました。
「翻訳出来たら私にも見せてもらえないかな?」
「はい、もちろんです。」
私たちの会話を聞いていたハーロウさんも興奮した様子でそう口にします。
私はそれを快諾すると彼はますます喜びの色を見せます。
それを見てやっぱりこれらの魔導書は珍しいものなのだと実感するのでした。
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