5-2
◆フィーア
学校から帰宅した私は早速リースリングの世界へと旅立ちました。
ゲームの世界はアップデート明けともあって賑わっていました。
皆口々にクランについて話しています。
アップデートも終わってもう半日以上が経過しました。
既にクランを立ち上げている人もいるのでしょうか?
そんなことを考えながらラインハルトさんたちに連絡を入れます。
彼らはすでにゲームにログインしていたため返信はすぐに返ってきました。
指定された集合場所に急ぎましょう。
--
「お待たせしました。」
私が集合場所に行くとそこにはフィーアに来た時のメンバーがそろっていました。
私の姿を確認したハーロウさんが私に歩み寄り話しかけてきます。
「リンさん、こんにちは。大丈夫ですよ。私たちも今しがた集まったばっかりです。」
そう言うハーロウさんの姿はどこか昨日までと異なっていました。
彼の体を構成する骨が黒みを帯びているのです。
それはハーロウさんだけではありませんでした。
「あれ、ハーロウさん、そしてラインハルトさん。何か昨日までと違いますか?」
「おや、お気づきになりましたか。実は私もラインハルトも先日の戦闘を経て進化することができました。」
「そうなのですね。おめでとうございます。それでなんという種族になったのですか?」
「私はリッチになりました。」
私とハーロウさんが自分の話をしていると聞きつけたラインハルトさんもこちらに近寄ってきました。
彼の鎧は美しい銀色を放っていました。
「僕たちの話かな?」
「はい。私たちが進化したという話をしていました。」
「ラインハルトさんはどのような種族になったのですか?」
「僕はリビング・ミスリルアーマーだね。ハーロウと違って特殊進化は出なかったよ。」
そう言って彼は残念そうな声を出します。
「ハーロウさんのリッチは特殊進化なのですか?」
「恐らくはそうですね。リッチ以外にもエンシェント・スケルトンと言うのもありましたから。」
「そうなのですね。何が特殊進化のトリガーになったのでしょうか?」
「これも想像になってしまうのですが、先日のクエストで手に入れた「支配者の王杖」が関係しているのではないかと思っています。」
確かに先日のWDクエストでハーロウさんはMVP報酬として「支配者の王杖」を手に入れていました。
MVP報酬と言うこともあって相当なものだったのでしょう。
それこそ種族進化で特殊進化を果たせるほどに………。
「この話はまた後程しましょうか。」
そう言うとハーロウさんは皆の方に向き直りました。
「さて、フュンフに着いてからも話し合おうと思っていますが先んじてここのメンバーの意思統一をしておきたいと思います。」
ハーロウさんがそう言うと皆の注目が集まります。
ミケルさんたちは何の話だと訝しげな視線を送ります。
「先日、リンさんの方からクランの設立を相談されました。詳細を聞くと前々から私たちが設立しようとしていたクランと目的が大きく外れるものではありませんでした。そこで、私とラインハルトとしては以前まで進めていたクランの話を一度白紙に戻し、リンさんのクランに参加しても良いと思っています。」
ハーロウさんはそう言うと皆の顔を見回しました。
そして意を決したような表情をして話を続けます。
「皆さんの意見を聞かせていただけないでしょうか?」
ミケルさんたちは「なんだそんなことか。」と思っているのか安堵したような表情をしていました。
それを見て強い反発が無かったことを私は内心で喜びます。
「3点ほど質問させてもらっても良いか?」
そんな中、エスペランサさんが冷静にそう口にしました。
私は緊張した面持ちでその言葉を待ちます。
「なんでしょう?」
ハーロウさんが矢面に立ちそう聞き返しました。
「私が聞きたい相手はリン殿だ。まず、1つ目。現在、魔物系プレイヤーは迫害されている状況にある。私たちが目指したクランはその魔物系プレイヤー間で助け合いをすることを目的としていたのだがリン殿のクランも同じなのか?」
それは、先日もハーロウさんに聞かれたことでした。
私の中で答えは決まっています。
私は落ち着いた声色で返答を返します。
「助け合いをするという点については間違いなく同じです。しかし、それは魔物系プレイヤーの迫害だけに留まりません。クエストの進行やアイテムの採取など、個人で対処が難しいことに対してクランと言う組織で対応できるようになればと思っています。」
「なるほど。王道のクランだな。続いて2つ目だ。私たちが勧めていたクランにはあと何人かの魔物系プレイヤーが参加する予定であった。リン殿は面識が無かったと思うが彼らがリン殿のクランに参加するのは納得しているのか?」
「はい。その点も先日ハーロウさんに聞いています。その方たちが納得してくださるのであれば私としては拒む理由はありません。」
「わかった。彼らとはフィフスで落ち合う手はずとなっている。その時に判断しよう。再度の質問だ。リン殿の方でも他にクランに誘いたい人がいるのではないか?その人は我々が入ることを納得しているのか?」
「確かに私の方でもアキ………友達を1人クランに誘おうと思っています。その人も魔物系プレイヤーのため他のメンバーが魔物系プレイヤーとなることは問題ないとのことです。こちらについても詳しくはフュンフで落ち合うこととなっていますのでその時に話し合えればと思っています。」
「なるほど、わかった。質問に答えてくれてありがとう。私としてもリン殿のクランに参加するのは喜ばしいことだ。是非とも参加させてくれ。」
エスペランサさんがそう言うと私は胸を撫でおろしました。
彼の言葉を皮切りに周りで行く末を見守っていたミケルさんたちも参加を表明してくださいます。
それを聞いて私は安堵を覚えるのでした。
そんな時におずおずとラインハルトさんが手を上げました。
「俺の方からも質問いいかな?」
「はい。何でしょう?」
「リンちゃんのクランに関することじゃないんだけど、さっきリンちゃんが言っていたアキちゃんって子だけど闘技大会で僕と戦った子だよね?彼女って人間だったと思うけど魔物だったの?」
確かに闘技大会の決勝トーナメントででアキはラインハルトさんと戦っていました。
その時のことを覚えていたようです。
「はい。あの時アキは人間でしたが何かのクエストで魔物になったと本人は言っていました。」
「なんと!人間から魔物になる術が見つかったのか!?」
私の回答にエスペランサさんが驚きの声を上げます。
他の方々も皆一様に驚きの声を上げていました。
「えっと、聞いた話なので詳しくは知らないのですが………なんでも、吸血鬼に受けた攻撃が元で自分も吸血鬼になってしまったらしいです。」
私の回答にますます皆さんは興奮を露にします。
それほどすごい情報だったのでしょうか?
「うむ、興味深い。これは是非とも本人に確認してみなくては!」
エスペランサさんがそう息巻いています。
その勢いを見て少しアキに申し訳なく思います。
私たちの会話が脱線していることを悟ったハーロウさんは手を叩きながら皆に冷静になるように伝えます。
それを聞いて皆は落ち着きを取り戻します。
「さて、色々と聞きたいことはあると思いますが、まずはフュンフに向かいましょう。」
その言葉を聞いて皆は真剣な表情を取り戻します。
それを見たハーロウさんは続けて話始めます。
「フュンフへの道のりは陸路です。これ自体はさしたる問題も無いでしょう。続いてボスについてですが………フィーア=フュンフの間にいるボスはグレートランページビッグボア。暴れまわる大猪です。」
皆はハーロウさんの話を静かに聞きます。
「アイン=ツヴァイ街道にいた狼と同じように群れを成しています。基本的には狼の時と同じで周りの猪を殺してからボス討伐と言う流れですが、狼と違うのは周りを狩っている間も大猪は暴れまわります。それに注意してください。」
確かにアイン=ツヴァイ街道にいた狼………グレートハードウルフリーダーは周りのグレートハードウルフが全滅するまでは指揮に徹して攻撃はしてきませんでした。
それが今回はそうではないということでしょう。
少しめんどくさいと感じますがこのメンバーならきっとできると確信しています。
「何か質問はありますか?」
ハーロウさんがそう言って皆の顔を見回します。
皆は特に質問は無いのか頷き返します。
それを確認したハーロウさんは再び口を開きました。
「それでは出発しましょう。」
その言葉を聞いて皆は歩きはじめます。
目指すはフュンフの町です。
よろしければブックマーク登録と評価をお願いいたします<(_ _)>




