5-1
◆フィーア
「御2人もクランに参加していただけないでしょうか?」
真っ白な満月が天高く昇る頃。
フィーアの路地にて私はラインハルトさんとハーロウさんに向けてそう口にしました。
2人の反応は少し思案するような面持ちです。
しかし、困っているという感じは受けませんでした。
しばらく彼らの返答を待っているとハーロウさんが口を開きました。
「クランへのお誘いありがとうございます。それ自体は大変喜ばしいことです。しかし、返答する前に何点か聞いてもいいでしょうか?」
「はい。もちろんです。」
「では。リンさんが目指すクランとはどういうものなのでしょうか?」
ハーロウさんの質問は核心に迫るものでした。
どのようなクランを作るのか。
それについて私は明確な答えを持っていません。
しかし、嘘や誤魔化しをしようとは思えませんでした。
だからこそ正直に答えます。
「私は自分が作るクランに明確な目的を未だ見いだせてはいません。しかし、こうありたいという願望ならあります。」
私の言葉をハーロウさんは静かに聞いてくれます。
私はそのまま言葉を続けました。
「今回の事件は私1人の力では解決することはできませんでした。そう言う事件に今後も直面することがあることでしょう。その時に一緒に動いてくれる仲間が欲しいのです。」
「なるほど。そのためのクランですね。と言うことはクランの目的は一緒にクエストをこなすということなのでしょうか?」
「いいえ、クエストに限った話ではありません。クエスト以外でも一緒に手を取り合って解決に導けるものがあると思っています。例えば魔物系プレイヤーを迫害するものへの対応などです。それらをすべて含めて対応できる仲間が欲しいのです。」
私の回答にハーロウさんはまたも思案顔で黙りこくってしまいました。
私は静かに彼の言葉を待ちます。
しばらく待っていると静かにハーロウさんが話始めました。
「私とラインハルトはクランシステムが導入されたらクランを立ち上げようと考えていました。そのクランは魔物系プレイヤーの互助組織のようなものにする予定でした。」
ハーロウさんが語るクランはまさしく私が目指していたもののように思えました。
だからこそ私は色よい返事がいただけるのではないかと期待していたのです。
「リンさんの言うクランが実現できるのであれば私どもも是非参加させていただきたいと思います。」
「では………。」
私が喜び勇んで言葉をかけようとするのをハーロウさんは手で制しました。
そして落ち着いた口調で言葉を続けます。
「しかし、元々クランを立てようとしていたのは私とラインハルトだけではありません。他の魔物系プレイヤーもいます。彼らの了承も無しにリンさんのクランに参加することはできません。」
ハーロウさんのその返答に私は少し気落ちしてしまいます。
その一方で決して望みが無いわけではないと知り安堵もしていました。
「その魔物系プレイヤーはミケルさんたちでしょうか?それなら彼らも一緒にクランに入っていただければ良いのですか?」
「リンさんの知らないプレイヤーも何人かいます。そうですね、今度会って話をしてみますか?」
「そうだね。リンちゃんも僕たち以外にクランに誘いたい人がいるだろう?そちらも集めて一度話し合いの場を設ける方が良いかもね。」
黙って聞いていたラインハルトさんがそう言いました。
確かに私としても誘いたい人は他にもいます。
彼らの提案は渡りに船でした。
「はい。集まるのはフィーアで良いのでしょうか?」
「僕たちはクラン結成までにフュンフに行く予定だったんだ。だから問題ないようならフュンフにしよう。」
「分かりました。」
「フュンフ行きについては明日にしましょうか。今日はもう遅いですから。」
「はい。」
私たちはその後フュンフ行きの予定を組んで解散いたしました。
私はクラン設立を夢見て心が躍るのでした。
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朝の陽ざしを受けながら私は学校の自席にて1限目の準備をしていました。
そこに明菜が着ます。
「涼音ぇ、説明して!昨日のアナウンスは何!?」
彼女の勢いに気圧されます。
私は心当たりが無く聞き返したしまいました。
「アナウンスって何?」
「とぼけないで。あのWDクエストクリアのアナウンスだよ。」
明菜に言われてそこで初めてリースリングの話なのだと理解しました。
確かに私たちは昨日WDクエストをクリアしました。
「えっと、確かにWDクエストはクリアしたよ。何で明菜がそれを知っているの?」
「それはワールドアナウンスとしてプレイヤー全体に通知が言っていたからだよ。」
まさかの答えでした。
まさか1クエストのクリアをプレイヤー全体にアナウンスしているとは思いませんでした。
別に隠し立てするようなことではないのですが自分の行動が筒抜けになっていると考えるとあまりいい気持ちはしません。
「明菜が何で知っているかは分かったよ。それで何が聞きたいの?」
私の質問に対して明菜は少し落ち着きを取り戻して考え込みます。
しばらくして私の方に向き直り口を開きました。
「WDクエストってどんなクエストなの?」
「普通のクエストだったよ。敵が少し強いというか特殊だったけど。」
「特殊?」
「うん。フィーアのギルドマスターの話では神に近しいほどの力を持った存在だったみたい。」
私の話を聞いて明菜は驚きの表情を浮かべます。
「じゃあ、涼音は神様倒しちゃったの!?」
「倒してはいないよ。召喚されたそれを送り返しただけ。」
「へー。でも、それでWDクエストなのね。その神様が世界滅亡の原因になる可能性があったのかな?」
明菜のその言葉に私は疑問を覚えます。
「世界滅亡って何?」
私は首を傾げながらそう言いました。
「WDクエストって言うのは世界滅亡シナリオをどうにかするって言うクエストらしいよ。涼音、Tips読んでない?」
「そう言えばTipsに追加されましたってメッセージが出ていた気がする。それどころでは無かったので忘れてた。」
「涼音らしいね。それでWDクエストクリアして何が手に入ったの?」
明菜はなおも興奮した様子を崩さずにそう聞いてきます。
「ごめん。そっちも確認していないや。何か色々とアイテムとか称号が手に入ったみたいだけど細かくは見ていない。」
「むー、つまんな―い。」
そう言いながら明菜は口を尖らせます。
その百面相が面白くて少し笑ってしまいました。
「ふふふ。でも、仕方ないのよ。クエストの後も事後処理やらなんやらで色々忙しかったのだから。」
そう、クエストをクリアした後も子供たちの死体を運び出し、フィーアに戻りその報告をしていました。
その後もそしてクラン設立についてラインハルトさん、ハーロウさんに相談したりしていました。
………そうだ。
「明菜に相談があるんだけどいいかな?」
「なに?」
「実は知り合いの魔物系プレイヤーの人とクランを設立しようと思っているんだけど明菜も一緒にどうかなと思ってね。」
私のその言葉を聞いて明菜は機嫌を直します。
そして興味津々と言った表情をして口を開きました。
「へー、どんなクランなの?」
「特別何かに特化したクランと言うわけでは無くてあくまで仲間内で助け合うクランを目指しているよ。予定では大半のメンバーが魔物系プレイヤーになるから明菜は居心地悪いかもしれないけど………。」
「それなら大丈夫だよ。私も最近魔物になったから。」
「え?」
あっけからんと言う明菜の言葉に一瞬何を言っているのか分かりませんでした。
私が間抜けな顔を晒していると明菜が微笑みながら説明してくれます。
「最近クエストで吸血鬼を討伐してねその際に受けた攻撃が原因で私も吸血鬼になっちゃったんだー。」
「攻撃が原因って………、それって大丈夫なの?」
「うん。特に行動には問題ないかな。むしろステータスとか今までよりも高くなっていてお得だよ。」
そう言う明菜の表情は明るいものでした。
心の底からそう思っていることが伺えます。
「それでクランについてだけど………。」
「うん。私も参加させてもらうよ。」
明菜のその言葉に私は安堵し、胸を撫でおろしました。
「良かった。実は今日フュンフで顔合わせをしようという話になっているんだけど明菜も来れる?」
「フュンフなら大丈夫だよ。後で時間と場所送ってー。」
「うん。」
明菜のその言葉に私は笑みを浮かべてそう返しました。
それを見て明菜も笑みを浮かべます。
私は今日の顔合わせがますます楽しみになってきました。
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