4-10 とある運営のお話3
◆リースリング・オンライン運営会社
>>Side:とあるゲーム開発者
私たちはリースリング・オンラインの監視AIが発したアラートによってその事態を知ることになった。
このアラートを聞き私たちはそのシナリオの成り行きを見守っていた。
WDシナリオ。
それは世界崩壊を起こすシナリオだ。
このシナリオ自体は当初想定されていたもののため特別焦るようなことではない。
単にそのシナリオの始まりだけでは監視AIはアラートを鳴らすようなことはしない。
では、何故監視AIがアラートを鳴らしたのか?
それはこのWDシナリオにプレイヤーが関わりだしたからだ。
「ほい。」
同僚がコーヒーを両手に持ちながらこちらに来た。
そして、片方を私に手渡しながらそう口にした。
「ありがと。」
私はそれを受け取って再び画面に目を向ける。
同僚も一緒になって画面を覗き込んだ。
「調子はどうだ?」
「分からんが、このままいけばWDクエストの最短クリアになるかもしれない。」
「マジか!人数は………3人!?」
同僚はそう言って大げさに驚く。
それも当然である。
本来WDクエストはそのシナリオの特性上プレイヤーが一丸となって解決に動く必要がある。
それをたったの3人でこなそうとしているのだ。
驚くなと言う方が難しい。
「本来ならこのシナリオってどうなる予定なんだ?」
「少し待ってろ。」
同僚にそう言われて私はデータを確認する。
「深きものどもの狂信者がダゴンとハイドラを招来したのちに都市ルルイエの浮上とともにクトゥルフが目覚めるはずだった。そして目覚めたクトゥルフは信奉者の願いを叶え大陸すべてを海に沈めるというものだな。」
「なるほどな。プレイヤーが関わるのは本来どのタイミングだ?」
「深きものの工作がもう少し進むとさすがに都市の権力者も異常を把握する。その時、改めて冒険者全員に依頼が出される手はずだった。ちょうど、ダゴンとハイドラを招来するくらいのタイミングでプレイヤーはその漁村の存在を知ることになるな。」
「それが今のまま行くとどうなるんだ?」
「深きものたちはダゴンとハイドラの招来は諦めてクトゥルフを直接招来しようとするだろう。しかし、深きものに伝わるクトゥルフの招来の方法は不完全だ。良くて体の一部がその場に現れるだけだろう。」
そう、このままプレイヤーが関わればWDシナリオの最悪の状況は間違いなく起こらない。
招来したクトゥルフの一部も簡単な手段で退散させることができてしまうのだ。
私たちがそんな会話をしている間に件のプレイヤーは漁村へとたどり着いた。
漁村の雰囲気に呑まれているようではあるが、そこで引き返そうとはしない。
ここまでくればもう結末は見えている。
「急いでTipsの用意をしよう。」
私がそう言いながら席を立とうとすると同僚が手で制した。
「そっちはやっておいたよ。」
「そうか。ありがとう。」
「ああ。だから後はこの結末を見守ることにしようじゃないか。」
そう言いながら同僚はコーヒー片手に画面に集中し始めた。
その画面には巨大な触手が表示されていた。
>>Side:とあるゲーム開発者 End
>>Tips:WDクエスト
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▽WDクエスト
World destruction クエスト。
つまりは世界滅亡を引き起こす事件を解決するためのクエストです。
世界滅亡を引き起こす要因は多々あります。
人類が死ぬことも、社会が死ぬことも、星そのものが死ぬことも。
それらをすべて含めてWDシナリオと呼びます。
このWDシナリオの結末を阻止するクエストがWDクエストです。
そのWDシナリオを阻止したものには英雄としての名誉以外にも多くの報酬が与えられることでしょう。
当然です。
彼らは世界の滅亡を阻止したのですから。
もしもそれが成せずに世界滅亡してしまった場合、後に残るのは………
それはなってみてからのお楽しみです。
プレイヤーの皆さんには是非このWDクエストの攻略を目指していただきたいと思っております。
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>>Tips:WDクエスト End
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