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◆フィーア北の漁村


―ドン、ドーン


魚人の狂信者たちが召喚した巨大な触手は私の目の前で暴れまわっています。

幸いなのは触手は教会があった場所から動けないのかそこを中心に手の届く範囲にしか被害を出していないことです。

しかし、それでもその被害は絶大です。

巨大な触手が手の届く範囲は既に形を残したものが存在しないほどに壊れ果ててしまっていました。


私はそれを眺めながら抱えていたマリサさんの様子を確認します。

どうやらマリサさんは投げ出された際の衝撃で気絶してしまったようです。

その方が良いでしょう。

きっと、あれを見れば正気ではいられないはずです。

そうなるくらいなら気絶している方が全然ましです。


「リンさん無事ですか?」


ハーロウさんがこちらによってきて私の無事を聞きます。

傍らにはラインハルトさんもいました。


「はい。私は大丈夫です。マリサさんは気絶してしまっていますが外傷はありません。」


「それは良かったです。あれについて相談させていただいてもいいですか?」


ハーロウさんはそう言うと目の前の触手を手で示しました。

私はそれを見ながら頷きます。


「はい。」


「魚人たちの儀式に呼ばれたあれは彼らの呪文からおそらくクトゥルフでしょう。残念ながら私はこの世界でのクトゥルフの立ち位置を知らないのですが、たやすく倒せる敵ではないのは確かです。」


私もその意見には賛成です。

目の前で暴れまわる触手は今まで戦った魔物よりも大きいのです。

その大きさはクラーケンすらも霞むほどの大きさです。

だからこそメタ知識を無しにしても目の前の触手を簡単に倒せるとは思えませんでした。


「放置して解決するような問題であれば無視するのも良いのですがそれでは弟さんの安否を確認できません。」


推定クトゥルフは教会に現れました。

マリサさんの弟が無事なのかどうかを確認するためには瓦礫となった教会に近寄る必要があります。

しかし、そのためにはあの触手を何とかしなくてはいけません。


「何より問題なのはあの触手が徐々に数を増やしていることです。」


「え?」


ハーロウさんに言われて私は目を凝らします。

確かに、最初に現れていた数以上の触手が暴れまわっています。


「あれは恐らくですがクトゥルフが徐々にこちら側に来ようとしているのだと思います。放置すればいずれ完全なクトゥルフが招来することでしょう。」


「まずいですよね?」


「立ち位置によるとは思いますが、こうして触手が暴れまわっていることを考えると友好的とは言えないのではないかと思います。」


ハーロウさんはそう言いながら触手をの方に目を向けます。

私もつられてそちらを見ます。

彼の言う通り完全にクトゥルフがこの地に来たら被害はこの町だけでは済まないのではないかと思わせるような光景だった。


「倒せない。放置もできない。と、なれば残された手は1つです。帰ってもらうのです。」


「退散させるということですか?」


「はい。」


そう自信満々に言うハーロウさんに私は期待の目を向けます。


「ハーロウさんはその魔法を使えるのでしょうか?」


「いいえ、残念ながら私は退散の魔法を知っているわけではありません。」


ハーロウさんの言葉を聞いて私は落胆の色を示します。

それでは退散させることさえできないでは無いですか?

そう思うも口に出すより先にハーロウさんが言葉を続けました。


「しかし、魔法の知識ならあります。魚人たちが行った儀式は召喚魔法に類するものです。召喚魔法は対象を召喚するうえで必ず触媒が必要になります。その触媒を破壊すれば魔法は停止し、クトゥルフもここからいなくなるはずです。」


ハーロウさんは自信をもってそう断言しました。

私はそれを聞いて疑問を覚えるのです。

触媒とは何でしょうか?


「えっと、この場合の触媒とは何ですか?部屋にあった魔法陣でしょうか?」


「あれは魔法の一部ですね。触媒ではありません。」


「では、さらわれた子供たちですか?」


「いえ、それも触媒ではありません。魔法を使っていた時の様子からおそらく魚人たちだけではMPを賄えないから子供たちを生贄にしていたのでしょう。」


「じゃあ、何なのでしょうか?」


「儀式を行っていた部屋の様子からおそらくは姿を模して造られた像が今回の触媒です。」


像………。

言われて思い出します。

確かにあの部屋には崇め奉られていた像が安置されていました。

あの像が触媒なのですね。

しかし………。


「触手がこれだけ暴れているということはすでに壊れているのではないですか?」


「いえ、触手自身もあの像が触媒だと気が付いています。そのためそれを壊さないように動いているはずです。」


言われて私は先ほどまで教会があった場所に目をやります。

しかしその場所はがれきの山となっており中の様子をうかがい知ることはできませんでした。

それはつまるところ像が壊れているのか壊れていないのか分からないということです。

ハーロウさんの予想では像は壊れずにあそこに残っているのでしょう。


「その像を壊せばこの騒動も収まるのですね?」


「ええ。聞いての通りです、ラインハルト。」


ハーロウさんは私の疑問に頷き答えると傍らに控えていたラインハルトさんに声をかけました。


「うん。2人の会話はよくわからなかったけどさっきの部屋にあった像を壊せば良いんだね?」


「はい。」


「で、どうする?」


ラインハルトさんの言葉を聞いて皆黙ってしまいます。

暴れまわっている触手の攻撃は激しく、1撃でも受ければ死にかねないほどでした。

その攻撃を掻い潜り瓦礫の下に埋まった像を破壊するのは困難であると皆が分かっているのだ。

しかし、それをやらなけばなりません。


「私が囮となりましょうか?ショゴスならば防御力もHPも高いので多少攻撃を受けても大丈夫だと思います。」


「いえ、この中で一番AGIが高いのがリンさんなのでリンさんには突入して像を破壊する役をしてもらいたいと思っています。囮は私が行いましょう。大量にスケルトンを召喚すれば多少の時間稼ぎはできると思います。」


「なるほど。僕はどうしたらいい?」


「ラインハルトはマリサさんの護衛をお願いします。未だここは敵地です。周りに魚人や魚面の村民がいる中で彼女をここに放置するわけにもいきませんからね。」


「わかった。任された。」


「それでは行きましょう。」


ハーロウさんの号令を聞いて皆は動き出しました。

まず最初に動いたのはハーロウさんです。

大量のスケルトンを召喚して、触手を取り囲んでいきます。


「リンさんは私が攻撃し始めたら突入をお願いします。」


そう言いながらもハーロウさんは次々とスケルトンを召喚していきます。

私は彼の動きに注意しながらその時を待ちました。


「攻撃を開始します!!」


ハーロウさんがそう言うと弓持ちのスケルトンの一団が触手に向かって矢を放ちました。

続けて槍や剣を持ったスケルトンが触手に向かって突撃していきます。

それらは触手が1振りするとたちまち粉々に散ってしまいましたが数はまだまだいます。

続けて第2陣、第3陣とスケルトンを投入して波状攻撃を仕掛けていきます。

さて、この隙に私は瓦礫の山に侵入しなくてはなりません。

私は地面を強く蹴って教会跡地に目掛けて駆けます。

触手はスケルトンの相手をしていて私の接近を感知していません。

程なくして瓦礫の山にたどり着きました。


「さて、ここからあの像を探して壊さなくてはいけないのでしたね。」


私はそう言うと体を細く伸ばして瓦礫の隙間に入り込みます。


「確かこの辺があの部屋のあった場所なのですが………」


そう言いながら私が像を探していたその時でした。


―ドン


がれきの中から新たに触手が現れました。

それは先ほどまで暴れまわっていた触手よりも小さな触手でしたがその色や形から明らかに同じ生物の物だと確信します。

その触手が勢いよく私に降りかかります。

私は寸でのところで回避しました。


「つっ!!」


―ドン、ドン、ドン


触手は1本だけではありませんでした。

無数の触手がその場に映えてきました。

まるで私の接近を知っていたかのようです。


「あ!!」


そして、私は目にします。

その触手の1体が私が探していた像を抱えていることを………。

私はすぐさまその触手に近づこうと地を蹴ります。


「くっ!!」


しかし、私の行く手を阻むようにして他の触手が勢いよく地面を叩きつけました。

それに呼応するかのように無数の触手たちは私に殺到します。

私はその攻撃を必死に避けます。

これでは近寄ることができません。

何とかして突破口を開こうと辺りを見回します。

しかし、そこにあるのは瓦礫の山だけでした。

何1つとして打開する策は転がっていません。


「こうなったらダメージ覚悟で攻撃する!」


そう決意を口にしたときでした………。


―ガラガラガラ


瓦礫の一部が崩れそれが顔を出します。


「!!」


それは檻でした。

魚人たちが多くの子供を捕えていた檻が瓦礫の中から出てきたのです。

その檻の中には血の気の失せた子供たちがぐったりと倒れ伏していました。


「あぁああああああああああああああああああ!!」


私は攻撃を受けることをものともせずにその檻に駆け寄りました。

そして恐る恐る細く伸ばした体をその子供たちに差しだします。

冷たい。

既にそこに生命の暖かさは感じられませんでした。


「あぁああ………」


言葉になりません。

慟哭を漏らしながらも私はゆっくりと子供たちから手を放しました。

もう容赦はしません。

攻撃を受けるとか受けないとか関係ありません。

一刻も早くこの事態を解決します。


そう決意すると私は強く地を蹴りました。

触手が殺到しますが私はそれを回避しません。

みるみるうちにHPは削られていきます。

決して少なくないダメージを受けますが良いのです。

そうしてダメージを受けながらも像を持った触手に接敵すると、渾身の力を込めてその像に殴り掛かります。

触手は必死に像を守ろうとしますがショゴスの力の前にその像は脆すぎました。

粉々に砕け散った像を後目に見ながら私は触手たちに目を向けます。

変化は突然でした。

まるで巻き戻しをするかのような形で触手たちは地面へと引きずり込まれていくのです。

いえ、地面ではありません。

地面に描かれた魔法陣が触手たちを吸い込んでいるのでした。

私はそれを見ながら虚しさを覚えるのでした。


--


<ワールドアナウンス>

<WDクエスト「*****の呼び声」をクリアしました。>

<クエストクリアプレイヤー………ラインハルト、ハーロウ、リン。>

………

<初めてのWDクエストのクリアを確認。>

<TipsにWDクエストが追加されます。>


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[一言] 伏せててもまんまcoc…
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