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◆フィーア 旧港
反魔物同盟を撃退した私たちはマリサさんの話に合った旧港に訪れていました。
そこは見るからにさびれており人の通りの少ない港でした。
「ここがそうかい?」
「はい。ここで弟を見たという方がいました。」
彼女はそうは言うものの人の少ないここで弟さんの足取りを追うのは難しいのではないかと私は感じます。
しかし、ハーロウさんはそうではないのか港全体を見回しながら考え事をしていました。
「とりあえず聞き込みをしましょう。弟さんの姿を見たかと言うこと以外にこの周辺で最近見慣れないものを目撃しなかったかと言うことも確認してください。」
ハーロウさんに言われて私たちは散り散りになって捜索を開始します。
私も早速行きましょう。
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改めて港の様子を見て回りましたが寂れた港と言う以上の情報は出てきませんでした。
使われなくなった桟橋は所々が腐り果てて崩れておりショゴスの身で乗ってしまえば崩れてしまいそうです。
港に併設されている建物の多くは船の荷を収めておくための倉庫なのか広々としたものでした。
しかし、長年の雨風に晒されて所々天井が抜けておりそこから侵入したのであろう砂ぼこりやごみで中は荒れてしまっていました。
それでも建物としての機能は残っているからか、所謂貧民層の方々が雨風をしのぐためにそこを住処としていました。
彼らに話を聞きこむも魔物の見た目が災いしてか上手く情報を聞き出すことができません。
私がそんな風に情報収集に四苦八苦しているとハーロウさんから連絡が着ました。
『重要そうな情報を得たので集まってほしい。』
彼のその言葉を聞いて私はすぐさまその場に向かいました。
時間にして数分でしたが私が一番最後のようです。
ハーロウさんのもとにはすでにラインハルトさん、マリサさんが来ていました。
そしてもう一人、薄汚い恰好をした老人が立っていました。
「リンさんも来ましたね。」
ハーロウさんはそう言うと老人に向き直り再び口を開きます。
「先ほどの話をもう一度聞いてもいいですか?」
「ああ、いいともよ。」
「では、改めまして。最近、この港付近で見慣れぬものを目撃したことはありますか?」
「ああ、あれは3、4日ほど前じゃ。この辺では見慣れぬ人が集団でこの港に出入りしているのを見たのじゃ。」
老人ははっきりととした口調でそう言いました。
それをハーロウさんは静かに聞きます。
私も彼に倣って老人の言葉に耳を傾けます。
「魚面した奇妙な連中での。そいつらがちょうどその辺でこそこそと話し合っているのを見かけたのじゃ。わしの姿を見たらすぐさまいなくなってしまったから話の内容までは知らないがな。」
「なるほど、ありがとうございます。」
ハーロウさんはそう言って老人に何かを手渡します。
それはお金のように見えました。
老人はそれを受け取ると頭を下げてその場から離れて行ってしまいました。
「さて、皆さん聞いての通りです。先ほどの情報は老人以外の方からも聞くことができました。そのため、情報の信憑性については間違いないかと思います。」
「えーっと、つまりどういうことなんだ?」
「弟さんがいなくなった3日前に目撃されていた怪しげな集団。彼らが行方不明事件に関連しているのではないかと私は考えています。」
ハーロウさんはまじめな顔でそう断言します。
それを見ながら私たちは困惑の色を示しました。
「その根拠は?」
「根拠はありません。でも、それでいいと思っています。もしも違うならばまた初心に帰って情報収集から始めるだけです。」
ハーロウさんはそう言って一度言葉を区切りました。
そして私たちの顔を見回して話を続けました。
「今問題なのは何も有力な情報が無いことです。ならば、一見して関係の無いところに原因があるのだと思われます。ならば、根拠のあるなしは無視してこれを調べるべきなのです。」
自信満々にそう断言する彼に私もそうなのだろうなと思ってしまいます。
実際問題ここで今の証言の捜査を打ち切っても次に何ができるわけではありません。
ならば藁にも縋る思い出これを調べてみるのが良いかもしれません。
「わかったよ。それで次は何をすればいいんだ?魚面の集団について聞いて回ればいいのか?」
「それももちろんやるべきなのですが、それより先にこの町の外門に行きましょう。魚面の集団が今もこの町にいるかは分かりません。町を出ていないか衛兵に確認しましょう。」
ハーロウさんの言葉を聞いて私たちは移動し始めました。
次の目的地はフィーアの外門です。
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フィーアの外門は活気に満ちていました。
行きかう人々は笑みを浮かべながら幸せそうに日々を謳歌しています。
彼らを眺めながら私たちは外門を守る衛兵のもとへと近づきました。
「すみません。」
「ん?おお!!」
ハーロウさんが衛兵の1人に声をかけると彼は大業に驚きながら踏鞴を踏みました。
そして手に持った槍を構えようとするも、それをハーロウさんは手で制しました。
「大丈夫です。冒険者です。」
「そ、そうなのか?」
「はい。」
ハーロウさんがそう言うと衛兵は矛を収めました。
そして不安そうな顔をしながらも私たちに問いかけます。
「それで、何か用かな?」
「はい。少々聞きたいことがあるのです。実は私たちは今彼女、マリサさんの弟さんを探す依頼を受けています。」
ハーロウさんはそう言ってマリサさんを手で示します。
衛兵は魔物集団に囲まれた少女を心配そうに見ながらもハーロウさんの言葉に耳を傾けました。
「捜査の中で魚面した怪しい集団の目撃情報がありまして、その集団がこの外門を通らなかったか話を聞きたいと思いここに来ました。」
「魚面の集団と言うとフィーア北の漁村のことか?」
「フィーア北の漁村ですか?」
ハーロウさんがそう問いかけると衛兵はその漁村について説明をし始めました。
「ああ。この外門を出て街道を外れて北に2日ほど行った先に小さな漁村があるんだ。そこの漁村の住民は魚面の者が多くいると聞いたことがある。」
「なるほど。その漁村の方はよくフィーアに来るのですか?」
「いいや。基本的に自給自足をしているらしく殆どフィーアには来ない。稀に農具等を買い付けに来るぐらいだな。」
「フィーアの住人でその漁村に詳しい方はいますか?」
「恐らくいないだろう。その漁村では以前より酷い皮膚病が流行っていると聞く。それもあってフィーアの住人はその漁村に近寄ろうとしないんだ。」
完全に孤立した漁村。
何故だかその漁村が怪しく感じてきました。
何より魚面、皮膚病と聞くと嫌でもあれを想像してしまいます。
もしも原作通りならば非道な集団と言うことも考えられます。
「それで話は戻りますがその漁村の方々が最近この外門を通ったりしませんでしたか?」
「俺もずっとここにいるわけではないからな………。少し待ってろ。」
そう言うと衛兵はその場を離れました。
そして何やら建物に入っていきます。
しばらくするとその建物から戻ってきました。
「仲間たちに聞いてきた。どうも3日前の夕刻にここを出ていったとのことだ。夕刻に出るなんて怪しいということで覚えていた奴がいたよ。」
「ここを出たのは徒歩でですか?」
「いや、馬車らしい。彼らはいつもそうだぞ。農具等を買って帰る都合上、荷物が増えるからな。」
「そうですか。ありがとうございます。」
ハーロウさんはそう言うと頭を下げて衛兵のもとを離れます。
そして道の端により私たちは話し合います。
「皆さん、聞いての通りです。魚面の集団はおそらくここを立った後です。」
「あの、魚面、皮膚病と聞いて私は嫌な予感がするのですが………」
私は先ほど感じた不安を皆に打ち明けます。
この世界の住人であるマリサさんは知らないと思いますがハーロウさんとラインハルトさんはどうでしょう?
知っていてくださると話は楽なのですが………。
「リンさんの懸念はもっともです。私自身もその予想はしています。しかし、今は言っても仕方ありません。」
「2人が何を言っているかは分からないけど、今はその漁村に行くかどうかが問題だよな?」
「はい。私はすぐにでもその漁村に向かうべきだと思います。」
「私も同意見です。」
ハーロウさんの意見に私も追従しました。
もしも予想通りなら弟さんが良い扱いを受けているとは思えません。
すぐにでも助けに行くべきでしょう。
「2人がそう言うなら何かしらの確信があるんだね。マリサちゃんもそれでいい?」
「は、はい。今まで全く手掛かりがありませんでした。なので今は藁にもすがる思いです。その村に弟がいるかはわかりません。それでも何かしらの手掛かりになるなら私は行きたいです。」
「うん。じゃあ、その漁村に向かおう。」
ラインハルトさんがそうまとめると私たちはフィーア北の漁村に向けて出発するのでした。
私の胸中には嫌な予感が渦巻いています。
どうかこの予想が外れていてくれることを願います。
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