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◆フィーア 路地裏
「お願いします!弟を探すのを手伝ってください!」
フィーアの路地裏は空高くに上る太陽の日も満足に届きません。
そんな場所で少女は頭を下げて私たちにそう言いました。
それを私とラインハルトさん、そしてハーロウさんは見つめていました。
どうしてこんなことになってしまったのでしょうか?
話は私たちがフィーアにたどり着いたところまで戻ります。
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「着いたねー。」
「はい。」
フィーアの港に船をつけて私たちは上陸しました。
皆到着したことの喜びを隠せぬ様子で騒ぎ立てます。
私もマテリーネさんと一緒に喜び合っていました。
そんな中でハーロウさんが口を開きました。
「皆さんお疲れ様です。これにてフィーアへの旅は終わりとなります。」
その声を聴いてまたも歓声が上がります。
皆嬉しいのです。
それも当然でしょう。
ここまでの旅は決して楽なものではありませんでした。
それを思い歓喜に震えているのです。
そんな皆を見ながらハーロウさんの言葉は続きます。
「パーティはこれで解散しますが一応注意を呼び掛けておきます。どうやら反魔物同盟の人間がこのフィーアにいるようです。絡まれたりしないように注意してください。もしも、絡まれた場合はお声掛けください。」
その言葉に私は疑問を持ちます。
反魔物同盟とは何なのでしょう?
そんな同盟は初めて聞きました。
字面からして私の敵のような気がします。
「それでは解散します。皆さんくれぐれも気を付けてください。」
そうハーロウさんが言うと皆は散り散りになりました。
私はハーロウさんに近寄り先ほどの言葉の真意を聞こうと思います。
「ハーロウさん少しいいですか?」
「はい。」
「先ほどの話に上がっていた反魔物同盟とは何なのですか?」
「リンさんは知らなかったのですね。」
「当人が知らないとは………。」
聞き耳を立てていたラインハルトさんが呆れたような声を上げます。
しかし、それを無視してハーロウさんは説明をしてくれました。
「反魔物同盟とはその名の通り魔物系プレイヤーを排斥しようと動いている者たちです。さきのイベントで私たちが上位に入り込んだのが気に食わないのか掲示板で堂々とPK宣言をしています。」
「PK宣言!?そんな魔物系プレイヤーってだけで!?」
「はい。特に私とラインハルト、そして優勝したリンさんが筆頭の標的となっています。リンさんもくれぐれも注意してください。」
「はい。」
「いや、そんなに気負わなくてもいいと思うよ。」
私が緊張した面持ちでハーロウさんに返答するとラインハルトさんが肩をすくめながらそう言いました。
「反魔物同盟って言っても結局はイベントでリンちゃんに勝てなかった連中だ。不意打ちでもしない限りはリンちゃんが負けることは無いよ。不意打ちでも勝てるとは思えないけど………」
「連中がどれほどのグループなのか分かっていないのですよ。それなのに無責任では無いですか?」
「いや、そうは言ってもハーロウだって負ける気はしないだろ?優勝したリンちゃんならなおさらさ。」
私のことを置いてハーロウさんとラインハルトさんが言い合いだしてしまいました。
私は黙って彼らの会話の行く末を見守ります。
「私やラインハルトが大丈夫だと思っていても敵はそれ以上の策を考えているかもしれません。それは私たちを脅かすものかもしれない。私たちのことならいいですがそれでリンさんが不利益をこうむるのはまずいと私は思います。」
「策と言ってもたかが知れているだろ?PKすると宣言している以上は結局のところ力比べだよ。その力比べなら何をされたところで俺は負けるとは思えないね。」
「貴女と言う人は………」
「何より敵は前線を離れてフィーアに留まっているんだ。それなら敵の強さは前線のプレイヤーよりも落ちるだろ?」
「私たちだって今日フィーアに着いたばかりなんですよ。」
「それでも、前線で戦っているやつらを倒して俺もハーロウも闘技大会で準優勝、3位入賞を果たしたんだ。つまりは闘技大会の戦いよりも楽勝の相手と言うことさ。」
「もういいですよ。」
ハーロウさんは疲れたような声色でそう言って会話を終わらせました。
それを見た私は2人に声をかけます。
「それなら3人で行動しませんか?」
「ん?」
「はい?」
「もし、御2人に予定が無いのでしたら今日だけでも3人で行動しませんか?そうすれば敵が襲ってきたときも安心です。」
「んー。」
「そうだね、それはいいアイデアだよ。」
私の提案にラインハルトさんは好色を示しました。
ハーロウさんは少し悩むような表情をしていますが悪い感じはしません。
「そうですね。今日だけでも一緒にいましょうか。どうせ御2人とも今日はフィーアの町を見て回るだけですよね?」
「はい。」
「うん。」
「では、好都合ですね。」
ハーロウさんのその言葉を聞いて私たちは3人で行動することにしました。
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「ここは中央広場みたいですね。」
ハーロウさんの言葉通りそこは今まで見てきた町にもあった広場でした。
そこには数多くの露店が軒を連ねております。
プレイヤーとNPCとの割合は半々といったところでしょうか?
その事からもこの町に多くのプレイヤーがいることが伺えます。
「目新しいものは何かありますかね………」
そう言いながらハーロウさんは周りの露店を見て回ります。
私も彼についていくつかの露店で売られている商品を見ていきました。
プレイヤーの露店では武器や防具などの装備類が多いです。
そしてNPCの露店はドライの町にあったような鮮魚を売っている店が目立っていました。
同じ海に面する港町と言うこともあって品ぞろえもドライの町とそう大差はありませんでした。
「なんか珍しいものでもあった?」
ラインハルトさんが不意に話しかけてきました。
「いえ、NPCのお店はドライと大差ありませんでした。」
「そうだよね。プレイヤーの方の店も同じさ。皮系の防具を扱っている店が唯一この辺の魔物からとれる素材を使っていたくらいだね。」
そんな話をしているとハーロウさんも戻ってきました。
「ハーロウ。そっちは何か収穫はあった?」
「いえ、特に目新しいものはありませんでした。フィーア周辺は海を除けば草原しかありませんからね。こうなることは分かっていたのであまり落胆はありません。」
そう言う彼の声色は平静でした。
その事からも彼の言葉に嘘は無いことが感じ取れます。
「じゃあ、次に行くか。」
ラインハルトさんがそう言うと私たちはまたもフィーアの町を探索するために歩きはじめました。
その足取りは次第に路地裏へと向かっていきました。
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「お願いします!冒険者様!!どうか弟を一緒に探してください!!」
「俺たちは忙しいんだ!!他を当たってくれ!!」
「そうだ!!お前しつこいぞ!!」
そんな怒声とも取れる声が路地裏に響き渡っていました。
私たちはそれが気になりその声の主を確かめるべく歩を進めます。
そこには2人のプレイヤーらしき冒険者の男たちと1人の町娘がいました。
少女が必死に冒険者を足止めして拝み倒しています。
「お願いします!お願いします!!」
そう言う少女のことを鬱陶しそうに見つめる冒険者の顔には苛立ちの色が浮かんでいました。
「だから、しつこいんだよ!!」
「きゃっ!!」
遂に我慢ができなくなった冒険者が少女を突き飛ばしました。
その瞬間私の中で何かがはじけ飛びます。
「何をしているの!!」
私は素早く少女と冒険者の間に入って彼らを睨みつけます。
「こんなか弱い少女を突き飛ばして恥ずかしくはないの!?」
「何だとおまえ!!」
冒険者の1人が私にそう言いながら怒りをあらわにします。
「お、おい。こいつ………」
もう1人は冷静に何やら怒った彼に耳打ちします。
その直後………。
「ちっ!」
舌打ちをして彼らはその場を離れていきました。
謝罪も無く離れていった彼らに苛立ちを覚えましたがそれよりも少女のことが心配でした。
「大丈夫?」
私は触手で少女を助け起こすとそう呟きました。
「え、えっと。」
少女は私の見た目を見て困惑しているようです。
「私はリンと言います。あなたのお名前を伺ってもいいでしょうか?」
「は、はい。私はマリサといいます。」
「マリサさん。失礼ですが先ほど何やら彼らと言い合っていたようなのですが、それを聞いてもいいでしょうか?」
私がマリサさんとそんな会話をしていいるとラインハルトさんとハーロウさんがやってきました。
それを見たマリサさんはまたも驚いた顔をします。
魔物が目の前にこれだけ現れたら驚くでしょう。
それは仕方のないことです。
「心配しないでください。彼らも私の仲間です。マリサさんに危害を加えたりはしません。」
「そ、そうですか。」
「それで先ほどのことの経緯を教えていただけないでしょうか?」
「は、はい。あの、皆さまは冒険者の方なのでしょうか?」
私の質問にマリサさんはそう聞き返してきました。
その返答に私は迷います。
私は冒険者ギルドで登録した冒険者では無く犯罪者だからです。
しかし、それを正直に言うのも憚れます。
そんな風に私が返事に迷っているとハーロウさんが助け舟を出してくれました。
「はい。私たちは冒険者ギルドに登録しているれっきとした冒険者ですよ。」
それを聞いたマリサさんの表情はみるみるうちに変わっていった。
それは何かを懇願するような表情でした。
そして彼女は口を開きます。
「お願いします!弟を探すのを手伝ってください!」
マリサさんはそう言いながら薄暗い路地裏で頭を下げました。
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