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4-2


◆ドライ=フィーア海路


「のどかですね………」


「そーだね………」


私は大海原を眺めながらマテリーネさんとそんな会話をしていました。

2人と気の抜けたような空気を醸し出しています。

それもそのはずです。

航海を開始してからかれこれ3時間が経過しますがこれまで戦闘は1度しか起きていません。

魔物の襲撃が多い道中だと聞いていましたが些か拍子抜けです。

私たち以外の皆さんも皆思い思いに過ごしています。

それを後目に見ながら私はマテリーネさんと会話をしていました。


「そう言えば、マテリーネさんは錬金術師とおっしゃっていましたがどのようなご職業なのですか?」


「そーだね、簡単に言うと薬を作る職業だねー。」


「薬ですか?」


「うん。錬金術師の下位の薬師は薬草を調合して薬を作るのに対して錬金術師は魔法で薬を作るって違いがあるね。」


彼女はそう言いながらインベントリから1つの薬瓶を取り出しました。


「これが錬金術で作った魔法薬だよー。効果は一定時間武器の威力を上げるというものなの。武器に振りかけることで効果を発揮するんだけど、普通の薬ならそんなことってありえないよね?」


確かに彼女の言う通り普通の薬を武器に振りかけても何も反応は無いでしょう。

良いとこ武器が壊れるとかでしょうか?

しかし、彼女の手に持つ薬はそれができると言っています。

つまりは………。


「つまり、本来の薬にあるような化学反応とは違った原理で働く薬と言うことでしょうか?」


「そーだね。原理的には魔法が関わっているみたい。フレーバーだからあまり詳しいことは知らないけどね。」


そう言って彼女はその薬をしまいました。


「錬金術には薬を作る以外にも色々できるみたいだけど、そっちはまだ手を付けてないな。」


「色々と言うのは例えば何でしょうか?」


「例えばホムンクルスを作るとかね。」


ホムンクルス………。

錬金術では有名な生命の想像です。

フラスコの中の小さな人を意味するそれは言葉の通り小人を作り出すということなのでしょうか?

それとも人間を作れるということなのでしょうか?

どちらにしても物凄く難しいことを話しているように感じます。


「凄いですね。錬金術と言うのは。」


だからこそそんな感想しか出てきませんでした。


「うん。すっごいんだよ。錬金術は。」


彼女は胸を張ってそう口にしました。

その声色から錬金術師と言う職業に誇りを持っているように感じられます。


「リンさんここにいたんですね。」


私とマテリーネさんがそんな会話をしているとハーロウさんがやってきました。

何やら私に用事があるようです。


「ハーロウさん何か御用でしょうか?」


「はい。先ほど聞いたのですがリンさんはショゴスと言う種族になっているとか?」


「はい。確かに私は今ショゴスと言う種族ですよ。」


「なるほど。それは特殊進化の末になったということでしょうか?」


特殊進化?

その言葉は初めて聞きます。


「特殊進化とは何ですか?」


「ああ、これは失礼しました。少々説明を省きすぎましたね。」


そう言いながらハーロウさんは頭を下げます。

別に責めているわけではないのでそこまでする必要は無いのですが………

私は彼の次の言葉を待ちます。


「進化とは通常種族の系統樹に沿って行われます。リンさんの場合は元々スライムでしたのでスライムと言う系統樹に沿った種族………つまりは、○○スライムとなるはずです。しかし、稀にそれから外れた進化をするものがいます。これらを特殊進化と我々は呼んでいるのですよ。」


なるほど。

確かにショゴスは見た目こそスライムのような粘性生物ではあるが本質は全くの別物です。


「確かにその説明の通りであれば私のショゴスと言う種族は特殊進化によるものになります。」


「やっぱりそうなのですね。特殊進化するためには何かしらのアイテム、称号、もしくは行動が必要であると私たちは考えていいます。リンさんもそうなのでしょうか?」


ハーロウさんは私の言葉に少し興奮気味にそう返してきました。

私は気圧されながらもショゴスに進化した時のことを思い未だします。

確かあの時は「玉虫色の薬液」と言うアイテムを摂取したら進化先が拡張されたとアナウンスが出ました。

多分それがハーロウさんの言うところのアイテムなのでしょう。


「確かにショゴスに進化する前に「玉虫色の薬液」と言うアイテムを使いました。それにより種族進化先が拡張されましたとシステムメッセージが出たことを覚えています。」


「なるほど。アイテムで特殊進化先が解放されたのですね。」


私の回答に納得した声を返すハーロウさんに私はおずおずと質問を投げかけます。


「あの、何故そのようなことを気にするのですか?」


「はい。特殊進化と言うのは通常の進化に比べてステータスの伸びが大きい傾向があります。そのため、私としては是非ともその特殊進化をしたいと考えているのですよ。いえ、私だけではないのかもしれません。ゲームである以上皆が強くありたいと願っていることでしょう。」


そう言いながらハーロウさんは船の中を見回しました。

きっとそこにいる仲間たちのことを言っているのでしょう。


「特殊進化と言うのはやはり珍しいのですか?」


「そうですね。私の知り合いにも2人程特殊進化をした方がいます。しかし、知っているのはリンさんとその方々含めて3人だけですね。皆魔物系プレイヤーです。人間種の方は全く聞きませんね。」


「魔物系だけという訳では無いですよね?」


「流石にそれは無いと考えています。私自身が魔物なので人間側の情報収集は片手間程度にしかやっていませんからね。たぶんそれで知らないだけだと思います。」


「そうなんですね。」


私たちはしばらくそんなことを話しながら航海を楽しんでいました。


--


「ボスエリアだ!!」


時々来る魔物を討伐しながら3日程航海を続けていると不意に前方を監視していたラインハルトさんが大声を上げました。

その声を聞いて私は急ぎ甲板に上がります。


「リンちゃんも来たね。すぐにボスエリアに突入する。戦闘準備をお願い。」


「はい。」


ラインハルトさんにそう言われて私はミスリルナイフを取り出します。

しばらくするとボスエリアに突入したのか辺りの雰囲気が一変します。

先ほどまでの快晴が嘘のように空は厚い雲に覆われました。

そして薄暗い視界の端に奇妙なものが見えます。

それは触手のようにうねうねと動いていました。

きっとあれがここのボス………クラーケンの足なのでしょう。

船はゆっくりとその足に近づいていきます。


「戦闘開始だ!!」


ラインハルトさんの号令とともに戦いの火ぶたが切られました。

まず先に動き出したのはハーロウさんです。

彼の魔法がクラーケンの足に直撃しました。

クラーケンはその攻撃をものともせずにすぐさま足を船目掛けて振るってきました。

その攻撃に合わせてラインハルトさんが剣を振るいます。


私も負けてはいられません。

次に来たクラーケンの足目掛けてミスリルナイフを振るいました。

硬い肉を引き裂きながら私の一撃はクラーケンの足に深々と傷を与えました。


「どんどん来るぞ!!気をつけろ!!」


「はい!」


ラインハルトさん言葉に答えながら私はナイフを振るいます。

クラーケンは10本の足を使って船を壊そうと躍起になります。

攻撃はなおも苛烈になっていきます。

私たちは必死にそれを防ぎながら攻撃を加えていきますが次第に手が足りなくなってきました。

遂には船に手痛い攻撃を許してしまいます。


「くっ!!エスペランサ、マテリーネ頼めるか!?」


「はーい。」


「指示が遅いのだよ!!」


2人はそう言うと攻撃に加わりだしました。

彼らは趣味職、生産職だったと思いましたが戦えたのですね。

その事に驚いているとエスペランサさんが魔法をクラーケンの足に放った。


「リン殿、我々は戦えると言っても戦闘職程に威力は出せない。戦いを決めるのは貴女たちだ!!」


エスペランサさんにそう激励を受けて私は気合いを入れなおしました。

そうです。

態々、ナイフで攻撃する必要はないはずです。

私は体を細く伸ばして無数の触手を生み出します。

そしてクラーケンの足1本1本を絡め捕っていきます。

そして力でもってクラーケンの足の攻撃を妨害します。

しかし、そこはボスモンスター。

流石に私一人では抑え込められそうにありません。

それでも妨害は成功しているのかクラーケンの動きは目に見えて悪くなります。


「リンちゃんナイスだ!!」


クラーケンと力比べをしている私にそう言いながらラインハルトさんはすかさずスキルで攻撃を加えていきます。

ハーロウさんやエスペランサさん、マテリーネさんもそれに続いて攻撃を加えて行きます。

しばらくすると痛みが堪えられなくなったのかクラーケンの胴体が海中から顔を出してきました。


「今だ!!全員胴体を狙え!!」


ラインハルトさんの号令を聞いて皆はクラーケンの胴体に攻撃を加えていきます。

1分、2分とクラーケンはただただ攻撃にさらされ続けました。

その間も私はクラーケンの攻撃を防ぐために触手を絡ませ続けます。


「これで最後だ!!」


ラインハルトさんの渾身の一撃を額で受けたクラーケンは力なく水中に沈んでいきます。

そしてついには光のかけらになり果ててしまいました。

私たちの勝利です。

皆が声高らかに勝利を祝います。

私も負けじと喜びを表現するのでした。


--


「フィーアの町が見えてきたよ!!」


クラーケンとの戦闘から1日ほどの時間が経過した朝方にラインハルトさんの声と共に皆は甲板へと上がってきました。

彼が示す方角を見てみると確かに水平線の向こうに陸地を確認できたのです。

私たちはついにフィーアにたどり着くことができました。

その事を皆は喜びます。

私だって嬉しい気持ちは同じでした。

私は皆で一緒に来たこの航海を思い出しながら達成感に浸っていました。


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