4-1
◆ドライ
第1回のイベントが終わって数日が立ちました。
私は相も変わらずドライの町にいます。
しかし、そろそろ次の町。フィーアに向かおうかと思っていました。
このところフィールドで戦うモンスターが弱いと感じるからです。
特に進化してからこっちはずっとです。
ショゴスに進化したことでステータスが非常に上がったからだと思います。
それに強力なスキルもあります。
アンデッドならまだスキルの影響が少ないのですがそれ以外の魔物はスキルのせいですぐに状態異常「恐怖」「狂気」にかかってしまいます。
こうなると、私にダメージを与えることなどできません。
一方的に嬲るように魔物を倒すのは少し罪悪感を覚えます。
だからこそ早いところ強い魔物のいる町まで行こうと考えています。
そんなことを考えながらドライの町を歩いていると不意に声を掛けられます。
「リンちゃん。」
名前を呼ばれ振り向くとそこにはラインハルトさんが立っていました。
「こんにちは。ラインハルトさん。」
「うん。こんにちは。」
「何か御用でしょうか?」
「いや、ただ見かけたから声をかけただけだよ。」
ラインハルトさんは肩をすくめながらそう言いました。
そう言われて悪い気はしません。
私とて知り合いを見かければ特に用が無くても声をかけるでしょう。
「リンちゃんはこんなところで何しているの?」
ラインハルトさんはそんな質問をしてきました。
彼が不思議に思うのも仕方がないでしょう。
ここはドライの外門から遠く離れた港付近です。
プレイヤーの姿はほとんど見かけません。
私がここにいたのは………。
「そろそろフィーアに行こうと考えていましてそれで船を出してくださる方を探していました。」
フィーアには船を使っていくというのは知っていましたがその船がどこから出ているのかは知りませんでした。
なので手当たり次第に探そうとこうして港まで足を運んでいたのです。
「なるほどそう言うことか。」
ラインハルトさんは私の返答に納得したのかそう言いながら頷きました。
「リンちゃんはフィーアには船で行くって言うのは知っているんだよね?」
「はい。むしろそれしか知りません。」
「なるほどね。じゃあ、船の手に入れ方は知らないのかな?」
「船って自分で調達しないといけないものなのですか?」
「そうだよ。」
それを聞いて驚きました。
てっきり船を出してくださる方がいるものだと思っていました。
私がそんな驚きに言葉を失っているとラインハルトさんが親切にも説明をしてくれました。
「簡単に説明するとだね、町の中のギルドに行くと船を手に入れるためのクエストを受けることができるんだ。」
ラインハルトさんの説明を聞いて納得しました。
港にプレイヤーの姿を見ないのはそれが原因ですね。
船を手に入れるのに行かなければならないのは港では無くてギルドなのですね。
私が考えている間もラインハルトさんは話を続けます。
「それで手に入れた船を使って海を渡るんだけど、クエストで手に入る船はあんまりいい船じゃないんだ。だからそれを強化する必要がある。」
「以前聞いた強化するために生産職の助けが必要とはそう言うことなのですね。」
「ああ、そうさ。」
なるほど、となると私はまず船を手に入れてそれを強化する生産職の方を探さないといけませんね。
フィーアに着くのはいつになるのでしょうか………
「リンちゃんもしよければだけどフィーアまで一緒に行かないか?」
私がそんなことを悩んでいるとラインハルトさんからそう提案してきました。
「良いのですか?」
「うん。もちろんだよ。船で移動すると言っても道中戦闘はあるからね戦力として期待させてもらうよ。」
「わかりました。是非とも一緒に行かせてください。」
私は笑顔でそう答えるのでした。
ショゴスの笑顔なんて分からないでしょうが………。
「早速で悪いんだけどこの後すぐにでもドライを立とうという話になっているんだ。リンちゃんの予定は大丈夫かな?」
「はい。大丈夫です。」
「良かった。じゃあ、集合場所に一緒に行こうか。」
彼はそう言って先導するように歩きはじめました。
私はその後に続いていきます。
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「ああ、ラインハルト。戻ってきましたね。おやリンさんではありませんか。」
集合場所に行くとそこにはハーロウさんをはじめいつもの魔物系プレイヤーがいた。
「うん。さっき偶々出くわしてね一緒にフィーアに行こうって話になったのさ。」
「それは心強いですね。リンさんよろしくお願いします。」
「はい。よろしくお願いします。」
ハーロウさんと挨拶を交わした後私は辺りを見回す。
そこには以前ドライに来たメンバー………ミケルさん、サンドラさん、シールさん、クロさんがいました。
そして初めてお会いする2人のプレイヤーがいます。
1人は2mほどの背丈に見たことないような大きな花と蔓を持った植物系モンスターの方でした。
そしてもう1人は1mほどの梟の姿をしていました。
私は2人に挨拶するために近寄り口を開きます。
「初めまして。リンと言います。種族はショゴスとなります。」
「うむ、ご丁寧にどうも。こちらこそ初めましてだな。エルダー・オウルのエスペランサと言う。」
梟の方は声から男性のようです。
彼は器用に翼を体の前に持ってきて礼をする。
続けて植物系モンスターの方が口を開きました。
「はっじめまして。私はマテリーネ。マンイーターで職業は錬金術師よ。」
こちらの方は声から女性だとわかります。
彼女は蔓の1本を私に伸ばしてきました。
私はそれを細く伸ばしたからだで手に取ります。
所謂握手を交わすとエスペランサさんが口を開きました。
「リン殿の職業は何かな?」
「私は復讐者と言う職業です。」
「復讐者か………聞いたことないな。」
エスペランサさんは器用に翼を顎のあたりにあてて考え込むような仕草をしました。
「そうなんですね。エスペランサさんの職業は何ですか?」
「私は考古学者だ。」
「考古学者?どのような職業なのでしょう?」
「所謂趣味系の職業と呼ばれるものだ。考古学者は書籍の読み書き、物の鑑定識別が得意な職業だな。」
このリースリング・オンラインには戦闘系と生産系職業以外に趣味系の職業と言うものが存在します。
これは単純に戦うことや物を作ること以外に適性を持つものをすべて総称してそう呼んでいます。
適性が無いからと言って戦闘や生産ができないわけではありません。
趣味系職業の中には戦闘も生産もできるものがあります。
しかし、私はそこまで詳しくないのでこの時は考古学者なんて言うものもあるのかと言う感想しか湧いてきませんでした。
「そうなんですね。」
「うむ。考古学はいいぞ。古代の叡智を読み解き触れることができるのだ。特にこの世界では神代と呼ばれる本物の神がいた時代がある。数々の資料からその時のことを読み解くのはすごくロマンのあることだと私は思う。」
「そう言えば以前神代の時に利用されていた施設と言うのを見つけたことがあります。その時に施設の中で見つけた資料は自分の世界を広げてくれるような気がしました。あれがロマンと言うもの何ですね。」
「なに!?神代の施設だと!?」
私は何気ないことのように呟いたその言葉にエスペランサさんは大業に驚きました。
その様子に少し気圧されながらも私は返答を返します。
「は、はい。ツヴァイ近くの鉱山深くで見つけました。」
「そんな場所が隠されていたのか………そして、その資料にはなんて書かれていた!?」
「えっと、実物を持ってきているのでお渡ししましょうか?」
「本当か!?感謝する!!」
私はツヴァイ近くの鉱山で見つけた資料と本をエスペランサさんに渡しました。
中には私が読むことができなかったものもあります。
エスペランサさんはそれを大事そうに抱えると丁重にインベントリにしまうのでした。
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「さて、皆さん集まってください。」
私たちが会話しているとハーロウさんがそういいって皆の注目を集めました。
皆はハーロウさんを囲うように集まります。
それを確認したハーロウさんは口を開きました。
「それではこれよりフィーアに向けた航海に出ます。道中の戦闘は基本私、ラインハルト、リンさんの戦闘職が行いますが手が足りなくなる恐れがあります。その場合は臨機応変に対応をお願いします。」
ラインハルトさんはもちろん、ハーロウさんだって相当の実力を持っています。
それなのに手が足りなくなることを想定しないといけないとは道中の戦闘は相当に過酷なものになるのではないかと思い私は緊張を高めるのでした。
「こちらの世界でおおよそ3日ほど行ったところにボスエリアがあります。そこを越えることができれば一先ずは安心できます。」
「なぜボスエリアを越えると安心なの?」
ハーロウさんの話にサンドラさんがそう質問をしました。
「ボスエリアの向こう側はこちら側程敵の数が多くありません。そうそう船を壊されることは無いでしょう。そう言う意味での安心です。」
ハーロウさんは突然の質問にも拘らず丁寧に答えました。
「ボスの名前はクラーケンと言う巨大なイカです。単体のボスで他に魔物を引き連れたりはしていません。何か質問などはありますか?」
「ボスの大きさはどれくらいなのですか?」
「私も見たことは無いのではっきりと言えないのですが聞いた話では用意した船の3倍程度の大きさです。体の半分ほどの大きさを誇る10本の足を使って攻撃してきます。基本的にはそのお攻撃を防ぎつつ足を攻撃してHPを減らしていきます。」
船のサイズの3倍。
ラインハルトさんたちが用意した船が全長50mほどの帆船です。
この3倍と言うと150mほどの巨体を誇ることになります。
それほどの大きさを持った魔物とは戦ったことがありません。
少し楽しみです。
「他に質問はありますか?」
「道中の戦闘に関してなんだが敵は基本水生生物じゃないのか?ハーロウ殿であれば問題ないかもしれないがラインハルト殿やリン殿の戦闘スタイルでは戦えないのではないか?」
「確かに道中水生生物も襲ってきます。そこは私が対応します。しかし、多いのは空からくる敵です。海鳥の大群の襲撃がこの航海での一番の敵になるでしょう。」
そうだったのですね。
てっきり海の中から襲撃が多く、それを受けたら泳いで対処するものだと思っていました。
空からの敵なら水中戦などは気にせずに甲板の上で対応できますね。
「他にはありますか?無いようでしたら出発しましょう。」
ハーロウさんはそう言うとラインハルトさんに視線を送ります。
それを確認したラインハルトさんは皆に向かって声を上げます。
「じゃあ、皆船に乗り込め。」
ラインハルトさんがそう言うと皆は船へと乗り込んでいきます。
私も船へと乗り込み出発の時間を待ちます。
初めての航海を楽しみにしながら私は水平線の先に待つファートの町のことを思うのでした。
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