EX1-3 アキのお話3
◆古城
>>Side:アキ
その部屋は今までの部屋と趣が違った。
部屋の広さだけで言えば先ほどの執事がいた部屋と大差はない。
しかし、その部屋の奥には豪奢な椅子があったのだ。
所謂、玉座である。
その玉座の上に座りこちらを見下ろす影がある。
その影は少女のような姿をしていた。
しかし、ここまで戦ってきて私は知っている。
その子がただの少女では無いことを。
「我が城に何ようか?」
少女が真っ赤な目をこちらに向けながらそう呟いた。
私は少女の目の前まで歩み口を開く。
「あなたがこの城の主?」
「ほう、妾の質問に答えず逆に質問するとは失礼な奴よのう。」
そう言う少女の顔には薄っすらと笑みが浮かんでいた。
言葉に反してこの状況を楽しんでいるようだ。
「これは、これは失礼しました。でも、あなたの質問に答えるためにも私の質問に答えてもらう必要があるわ。」
少女の態度を見てというわけではないが私は強気にそう言った。
それを聞いてなおも少女は笑みを浮かべる。
「なおも妾に意見するとはますますもって豪胆なやつよ。まあよい。して、妾がこの城の主かという問いであったな。しかり。今は妾がこの城を収めておる。」
「そう。なら私の目的はあなたを切ることだわ。」
「妾を切るとな?それは面白い冗談だ。かかか。何故妾を切るというか?」
少女は大口を開けて笑いながら私にそう問いかけてきた。
「あなた達とアルベルツ王国に確執があるのはここに来る前に聞いたわ。それ自体に思うところは無い。勝手に争って勝手に支配し合えばいい。でも、今の私は村を守る冒険者なのよ。だからこそ、平和を脅かすものを生かしておくわけにはいかないわ。」
「ふむ、その答えは些か面白みに欠けるぞ。ここは無辜の民を守る等と英雄然としたことを口にしてくれた方が妾としても悪役をやりやすいものを………。まあ、よい。」
そう言うと少女は徐に玉座から立ち上がった。
そしてゆっくりと歩いてくる。
「どちらにせよ妾の目的のために滅せられるわけにはいかぬ。ならば、戦うしかないのであろうな。」
彼女のその言葉を聞いて私は剣を抜き構えた。
目の前に立たれてわかる。
今まで戦ってきたどの魔物よりも強い。
それこそフィールドボスよりも強いだろうと私は確信した。
「羽虫の如く死ぬがよい。」
少女がそう言った瞬間、彼女の姿が消えた。
直後私の真後ろに腕を振り上げた少女が現れる。
そう、物凄い速さで移動したのだ。
私はとっさに剣で彼女の腕を受け止める。
間一髪だった。
AIGにステ振りをしていなければ彼女の速度に追いつけなかっただろう。
「ほう。この速度についてくるか。なかなか見ごたえのある奴だな。」
少女はそう言いながら腕を振るい続ける。
その鋭い爪を立てながら、私を切り裂かんと振るい続けていた。
「くっ!!」
私はそれを剣で受け続ける。
先ほどの執事の彼と同じだ。
1撃でも貰えばヤバイと言う感覚がする。
それほどまでに彼女の攻撃は重く鋭かった。
「ここ!!」
彼女が大きく腕を振り上げた1舜の隙に私は大きく後ろに下がった。
そして剣の間合いを確保して彼女に切りかかる。
その攻撃は彼女の右手に傷を負わせた。
「妾に傷を負わせると無礼なやつめ。」
そう言いながら立ち尽くす少女の顔には不気味な笑みが浮かんでいた。
しかし、確かに傷を負わせることができた。
その事実をもって私は歓喜する。
傷を与えられるなら勝てる可能性があるのだ。
しかし、そんな私を嘲わらうかのように少女は傷口を私に見せつけてきた。
その行動を訝しんでいた次の瞬間………。
傷口が凄いスピードで塞がっていくではないか。
それはまるで巻き戻しをしているかのような光景であった。
「な、なに?」
「妾のような吸血鬼の上位種にはこの程度の傷は意味は無いのだよ。」
私のその疑問に丁寧に答える少女を前にして私は攻略の糸口を探そうと必死に頭を動かしていた。
しかし、そんなことを許してくれる相手ではない。
少女はすぐさま地を蹴ると再び私目掛けて腕を振るった。
私は剣でそれを受けながら、時には切り返しながら少女との攻防を続ける。
しかし、私の与える傷はどの傷もすぐに癒えてしまっている。
これでは勝つことができない。
今は相手の攻撃を防ぎきっているがそれもいつまで続くか分からないのだ。
―ガチン
私の剣が彼女の腕をはじいた。
次の瞬間唐突に少女が距離を取った。
私はその行動を訝し気に思うも追撃することができなかった。
少女は足を止めて私のことを観察する。
「そなた強いのう。」
「それはどうも。」
私は息も絶え絶えになりながらも彼女の賛辞に礼を言う。
「ただ殺すのではもったいない気がしてきたのう。これは少し手を変えることにしよう。」
「それはどうい………っつ!!」
その瞬間、酷いめまいに見舞われる。
目の前がぐらぐらと揺れる。
立っていることすらできずに私は膝をつく。
これはなに?
その疑問に答えてくれる人はその場にはいなかった。
しかし、視界の端で点滅する文字がその答えを示していた。
そこには「魅了」と書かれていた。
状態異常だ。
私は今状態異常にかかっているのだ。
そんな私の状態を見ながら少女は口を開いた。
「かかか。そなたを妾の眷属として迎え入れよう。」
そう言いながら少女は私に近づいてきた。
そしてゆっくりと私の後ろに回ると首筋に牙を突き立てたのだ。
瞬間、体が熱くなるような感覚がした。
私の体が根本から作り替えられている。
そんな感じがしたのだ。
しばらくして少女は口を離した。
既に体の違和感は取り払われている。
「わ、私はあなたの眷属になんてならないわよ。」
私は少女に向けてそう宣言する。
その言葉が意外だったのか少女はキョトンとした表情をした。
直後大口を開けて笑い出す。
「カカカ。ここまで来て未だ反抗的な態度をとれるとは。ますますもって愛いやつよのう。」
少女の表情は既に勝利を確信しているものであった。
そんな少女を見ながら私は体の調子を確認する。
未だ「魅了」状態は続いているが腕は動く。
足も動く。
これならば戦える!!
私は飛び上がり少女に切りかかった。
その行為が意外だったのか少女は咄嗟に回避することができず深々と肉体に傷を残す。
「な!?「魅了」にかかっているのではないのか!?」
「生憎と以前の戦いの経験から状態異常対策はしているのよ。」
第1回イベントであった「恐怖」と「狂気」と言う状態異常。
それの対策にはRESを上げると良いということがわかっていた。
闘技大会以降そう言う敵が出てきても良いように私はRESを上げるための装備をそろえていたのだ。
それでも「魅了」を完全に防ぐことはできなかった。
しかし、体の自由を完全に奪うものではなくなっていたのだ。
私は力強く地面を蹴った。
物凄い速さで少女に接敵する。
そして渾身の力で切りかかる。
これまた今まで以上の力が発揮された。
可笑しい。
明らかにステータス以上の攻撃ができている。
その事を疑問思いながらも私は少女に攻撃を繰り返していった。
突然強化された私の攻撃に少女の方が防戦一方となる。
この好機を逃してなるものか。
私は必死に攻撃を繰り広げていった。
少女の回復が追い付かない速度で傷を増やしていく。
そしてついには………。
「くっ!!」
少女の右足を両断した。
少女はバランスを崩し膝をつく。
「勝負あったね。」
「………ええ、悔しいけど妾の負けのようだ。」
少女は膝をつきながらそう言った。
その声色はどこか悲しげであった。
「何か言い残すことはある。」
「魔物に情けをかけるのか?」
少女は私を見上げながらそう呟く。
その表情は可笑しなものを見るような目であった。
「別に最後の1言を聞くくらいはどうってこともないでしょう?」
「そうさな………いや、この思いは妾が冥府に持っていくことにする。」
少女は何やら言いたげな表情をするもすぐさま顔を伏せて黙ってしまった。
「そう。」
「ああ。」
その言葉を最後にして私は少女の首を両断した。
直後光のかけらとなって虚空へと消えていく。
薄っすらと見える少女の最後の表情はどこか満足したものであった。
その表情に思うところが無いわけではない。
私はどうか安らかな眠りを祈りながら彼女の最後を見届けるのだった。
--
「つっかれたー。」
少女との戦闘を終えた私はその場に座り込んだ。
全身を襲う疲労がどこか心地よい。
自然と笑みも生まれる。
私は戦闘の成果を確認するためステータスを表示した。
そこには見慣れない表示がった。
種族:ヴァンパイア
「え?」
どうやら少女にかまれたことで私は人間からヴァンパイアになってしまったようだ。
「え?どうやって戻すの?いや、戻れるの?」
しかし、同操作しようとも元々の種族、ハイ・ヒューマンの表示は現れなかった。
今はとりあえず諦めるしかないと思い他のことを確認していった。
「えーっと、あ。種族レベル30になって進化できるようになってる。そうか、ヴァンパイアは魔物系だからレベル30で進化できるのか。進化先は………後でゆっくりと考えよう。」
私は一先ず進化のことは置いておいてアイテムの確認をした。
少女以外にも多くの吸血鬼を討伐したことで数多くのアイテムを手に入れていた。
それをほくほく顔で確認していった。
「あれ?これってなんだろう?」
そのアイテムは「王族の血」と表示されていた。
他のアイテムとは異質な感じがするそれをレアアイテムかなと思いながらウキウキと説明を確認した。
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特殊アイテム「王族の血」
旧き王族を示す血液。
かの国は滅び今やその血は絶えたものとされてきた。
しかし、今ここに復活の兆しが訪れた。
他でもないかつての国にいた1人の姫によって。
人に忌み嫌われる吸血鬼となってまで生き返った彼女。
彼女の悲願はなされることがあるのだろうか?
効果1:使用することで進化先を拡張することがある
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その説明を見て私は切ない気持ちとなった。
この血は戦った少女の血なのだと………
そう思わせるようなフレーバーテキストだった。
私はそのアイテムを手に取りおもむろに中身を口の中へと流し込んだ。
その瞬間体が熱くなるような感覚に襲われる。
そして視界に多くのシステムメッセージが現れた。
<「王族の血」を取り込みました。>
………
<称号「旧き王族」を取得>
………
<種族進化先の拡張を実行………成功。>
<次回種族進化時に選択肢が増えます。>
そのシステムメッセージを確認した私は再びステータスを表示して進化先を確認する。
そこには先ほど表示されなかった「ヴァンパイア・プリンセス」の文字があった。
私は迷わずそれを選択した。
瞬間、私の体を進化の光が包み込む。
しばらくして光が収まったことを確認した私はステータスをに目を向けた。
そこには「種族:ヴァンパイア・プリンセス」と表示されていた。
彼女の悲願が何であったのかは結局分からず仕舞いだ。
でも、こうして私が生きている限り彼女の血は絶えることは無い。
これは感傷なのかもしれないけど、どうしても彼女に何かしてあげたくなったのだ。
彼女の最後の表情を見て………。
>>Side:アキ End
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