EX1-2 アキのお話2
◆古城近くの草原
>>Side:アキ
「あれが話に合ったアンデッドね。」
私は依頼を遂行するために古城近くの草原まで足を延ばしていた。
そこには確かにアンデッドが1匹いた。
話に聞いていた通り血の気の無い肌色をしており動きは緩慢であった。
しかし、どこかゾンビとは様相が異なる。
そう、そのアンデッドは肉が腐り果てていたりなどしていなかったのだ。
私は訝し気に思い識別用のアイテムを使用した。
「レッサー・ヴァンパイア………。」
その結果はゾンビでは無かった。
ヴァンパイア。
所謂、吸血鬼である。
劣等種ではあるものの、その吸血鬼が目の前にいるのだ。
「ヴァンパイアと戦うのは初めてね。」
私はそう言いながら剣を抜いた。
そしてゆっくりとヴァンパイアに近づく。
遮蔽物の無い草原だ。
向こうにもすぐに私の姿は発見されるだろう。
私が予期していた通りヴァンパイは私の姿を確認するとこちらに駆けてきた。
先ほどまでの緩慢な動きからは考えられないような俊敏な動きであった。
私はそれを見ながら剣を構える。
そして、近づいてきたヴァンパイア目掛けて剣を振るった。
それはあっけなく決着がついた。
ヴァンパイアは私の初撃を避けることは無かった。
その一撃はヴァンパイアの胴体に大きな傷を与えた。
その傷が致命傷となったのかヴァンパイアはその場で倒れてしまった。
しばらくして光のかけらとなって消えていった。
「なんで?」
なぜこんなにも簡単に決着がつくのか私には分からなかった。
草原に出る他の魔物の方が頑丈だ。
しかし、苦戦するよりはましだと思い私は剣を収める。
そして周りに他に敵がいないか確認するのだった。
生憎とその草原の見える範囲に敵はいない。
「やっぱり調査のために古城に行かないといけないか………」
私はそう呟くと、観念して古城へと歩き始めた。
--
「これはすごい。」
その古城は荘厳な佇まいをしていた。
確かに古城と称されるだけあって至る所に経年劣化した跡がみられる。
しかし、それを含めてもこの城が素晴らしいものであることに変わりはなかった。
その豪奢な様相に圧倒されながらも私は中へと入り込む。
エントランスホールは静かなものだった。
ひび割れた外壁から差し込む木漏れ日が心地よい。
「綺麗なものね。」
こんな時でなければこの場所を堪能していたかった。
私はそんな気持ちを抑え込みながらさらに奥へと進んでいく。
しばらく歩くと古城の廊下に何やら動く影を見かけた。
それは草原で見たレッサー・ヴァンパイアであった。
それも1匹ではない。
10匹以上のレッサー・ヴァンパイアが私の行く手を阻むようにして現れたのだ。
私は剣を抜いて構える。
「ここがアンデッドの原因となっているという村人の予想は当たっていたようね。」
私はその1言を行ってヴァンパイアたちに切りかかった。
異変はすぐさま分かった。
「外で戦ったやつよりも強い!!」
そのヴァンパイアたちは1撃では死ななかった。
そして動きも外にいたやつよりも何倍も俊敏であった。
「でも、これくらいならまだ余裕!!」
私は次々とヴァンパイアたちに傷をつけていく。
外のレッサー・ヴァンパイアよりも強いと言っても格下だ。
私は危なげなくヴァンパイアたちを屠っていった。
--
そこは大きな部屋であった。
この城が栄えていたころはパーティなどで利用されていたのだろうか?
壁には色とりどりの飾り付けがされており、その精緻な細工がまた見事であった。
そんな部屋に1人、燕尾服の男性がいた。
いや、人ではないのかもしれない。
それでもその見た目からは人と何ら変わりは見当たらなかった。
「こんなところにお客様がくるとは。なにも無いところで申し訳ありませんが、どうか歓待させてください。」
その男性はそう言いながら深くお辞儀をした。
明らかに外にいたレッサー・ヴァンパイアとは違った。
確固たる意志を持っていたのだ。
私は彼の動きに注意しながら口を開く。
「なにも無いところなんて謙遜はやめてよ。とても色々とあるみたいじゃない。」
「そうなのでしょうか。私どもにとってはなんてことの無いものでも外の人にとってはそうではないのかもしれませんね。望外にもお客様にお愉しみ頂けたのなら幸いです。」
「いい加減に演技はやめたら。あなたも人間ではないのでしょう?」
私のその言葉に男性は驚きの表情を見せながら答えた。
「演技とは心外です。こうしてお客様をおもてなしするのは執事として当然のことです。確かに私は人間ではありません。しかし、それは些末な問題では無いですか?」
「確かに人に危害を加えないのなら種族なんて言うのは問題にならないわ。でも、この部屋にくまでに私は何度も襲われた。なら、あなた達は私たちへ敵対するものなのでしょう?」
「ご無礼をお許しください。外にいるものは兵士。本来、この城への侵入者を撃退するのがお役目。おそらくお客様と侵入者を勘違いしたのでしょう。」
埒が明かないわね。
この男性の話を聞いていても先に進まない気がした。
だからこそ私は少し踏み込んだ質問をするのであった。
「あなた達は侵入者以外に敵対することは無いということかしら?つまりはこの城の外には興味が無いということ?」
「確かに私たちは侵入者以外に敵対することは無いでしょう。しかし、この城の外に興味が無いわけだはありません。」
それはそうだ。
そうでなければ外にレッサー・ヴァンパイアを配置するようなことはしないだろう。
私は続く彼の言葉を待った。
「憎き侵入者。いえ、侵略者たるアルベルツ王国の蛮族共を根絶やしにしなくてはなりません。」
その言葉を聞いた瞬間に私は戦闘を避けられないと確信する。
しかし、男の言葉はそこで終わらなかった。
「かの者たちは我々から多くの物を奪いました。だからこそ今度は我々が奪い返さねばならないのです。敵が強大なのは知っています。しかし、それでも止まるわけにはいかないのです。」
彼の言葉には悲壮感が漂っていた。
きっと彼もアンデッドなのだろう。
遠い昔に死んだ人間なのだ。
当時の無念を思いそのような言葉が出てきているのだと考えると少し同情してしまう。
しかし、私はそんな思いを振り切り剣を抜いた。
「やっぱりあなた達とは分かり合うことはできないわ。」
「そうですか。それは残念で仕方ありません。」
彼はそう言うと拳を握り構えを取った。
「我々の敵となるのであれば致し方ありません。ここで排除させていただきます。」
私も剣を構えて口を開いた。
「この国に思い入れがあるわけではない。でも、私は冒険者。守ってくれと依頼されてそれを承知した身だからこそここで根源を絶たせてもらうわ。」
向かい合う私と彼は唐突に地を蹴った。
その瞬間、私の剣と彼の拳が強く打ち合った。
硬いっ!!
その拳は鋼でできているのかと言うほどに硬かった。
刃を叩きつけたのに傷一つつかない。
「くっ!!」
彼の拳を反らすもすぐさま2撃目が飛んできた。
私は素早く動きその攻撃を回避する。
剣ではじいたときに分かった。
彼の拳を1度でも受ければ死に兼ねない。
それだけの威力を持っていた。
事ここにきて私は思い知らされる。
今まで戦ってきたどのヴァンパイアよりもこいつは強い。
私は握る剣に力が入るのを感じていた。
自然と頬が綻ぶ。
楽しいのだ。
この死闘が何よりも楽しいのだ。
これを感じるために私はゲームをしているのだとそう実感させた。
「負けないよ!!」
私は地を強く蹴って走り回った。
どんどん加速する。
AGIに多くのボーナスポイントを振っている私のステータスを前に遂に彼は追いつけなくなっていた。
私は彼を翻弄しながら剣を振るう。
拳が切れないのなら胴体を切るまで。
私は何度も剣を振るい彼の体に傷を増やしていった。
1つ2つ程度では大したダメージにならないだろう。
しかし、10や20ならどうだ?
100や200なら?
それでもだめなら1,000回だって切ってやる!!
そう意気込んで私は何度も剣を振るった。
男だってただ切られているわけではない。
走り回る私を捕えようとその腕を伸ばす。
しかし、その動きは遅すぎた。
その腕は虚空を切るばかりで私を捕えることはおろか触れることさえできなかった。
「ぐっ!!」
何十回目になるか分からないその攻撃を受けた男性はうめき声とともに膝をついた。
「ここだ!!」
それを見た私はチャンスと思いひと際力を込めた一撃を彼の頸椎に叩き込んだ。
その攻撃は彼の頭と胴体を分けた。
「すみません、姫様。先に行きます。」
彼は最後にそう呟くと光のかけらとなって消えてしまった。
私は勝利の余韻に浸りながらその達成感を味わい尽くしていた。
>>Side:アキ End
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