3-11
◆イベントエリア
「負けたー!!」
観戦エリアに戻ってきたアキは開口一番そう口にします。
私は彼女を宥めながら先ほどの戦闘の話を聞きます。
「もう強い!!本当に強いよ!!種族のことも知り尽くした剣法にアキちゃん脱帽ですよ!!
」
「うん。わざと剣を受けるのは人間種だとできないよね。」
「ラインハルトみたいな全身鎧ならワンチャンあるかもしれないけど、それでも多少の痛みは感じるだろうからね。」
「うんうん。」
私はアキの話を聞きながらフィールドに目をやります。
そこでは3回戦の第4試合が行われていました。
一方は人間の剣士、もう一方はハーロウさんでした。
試合開始してから時間のたった今ではフィールド上をスケルトンが埋め尽くしています。
「そう言えばリン!!」
私の注意がアキから逸れていたのを感じ取ったのかアキが大声を上げて私に掴みかかってきます。
「どうしたの?」
「ミスリルってどういうこと?」
「え?」
「試合開始前にラインハルトに聞いたんだよ。彼の剣はリンから譲ってもらったミスリルを使って作っているって。」
ミスリル?
そう言えばそんなこともありましたね。
私はすっかり忘れていました。
「えっと、ラインハルトさんの言う通りだけど………。」
「なんで私には教えてくれなかったの!?」
あ。
確かにアキには話していませんでしたね。
「………忘れてた。」
私は若干後ろめたい気持ちを持ちながらもそう正直に答えるのでした。
「本当に?」
アキはジト目で私のことを見てきます。
私はその追及に対して「本当だよ。」としか返せませんでした。
「はぁー。」
ため息をつきながら席に戻るアキを見ながら私は口を開きます。
「でも、攻略が進んでいる今ならミスリルなんて珍しくもないでしょう?」
「そんなことないよ!」
私の一言に大げさに反応するアキを見ながら私は彼女の言葉に聞き入るのでした。
「フュンフまで攻略が進んでいる今でもミスリルは見つかっていないだよ。これが珍しくないわけないじゃない。」
彼女の言葉を聞いて驚きます。
まさか未だにミスリルが見つかっていないとは思っていませんでした。
じゃあ、ツヴァイでミスリルを見つけたのはとても幸運なことだったのでしょうね。
「リンのことだから見つけたことを幸運だったとか思っているんじゃない?」
「な、何のことでしょう?」
私の内心を当てられたことに驚きつつもそんな風にとぼける。
「幸運なんてレベルの話じゃないからね。未だに前線では鉄装備が使われているんだよ。ミスリルがどれだけ有用かは分からないけど少なくとも鉄よりも弱いということは無いでしょう?だから生産職だけじゃない戦闘職にとっても喉から手が欲しくなるほどのアイテムなんだからね。」
「もしかしてミスリルを見つけたことってすごいこと?」
「そりゃそうよ。大発見だよ!」
アキにそう言われて私は内心嬉しくなります。
まさかそこまで言われるとは思っていませんでした。
「それでどこにあったの?」
「………ツヴァイの鉱山だよ。」
「鉱山って言うとあの鉄が取れる?」
「うん。その鉱山。」
私は自分がミスリルを見つけたときのことを思い出しながら話をします。
特に隠す必要も感じないので正直に………。
「あの鉱山は多くのプレイヤーが訪れているはずだけど何で見つかっていないんだろう?」
「ミスリルが取れる場所に行けるのはスライムのような不定形の生物のみだね。」
「なにそれ?」
「実はね………。」
私はそう前置きしてミスリルを見つけたときの話をアキにしました。
アキはその話を聞き、驚きを露にします。
「………と、言うわけです。どうしたの?」
私の話を聞いて埴輪のような表情をしているアキに私はそう聞きました。
彼女は何か話そうと口を動かすもうまく言葉が見つからないのかそのままパクパクと口を動かしつづけました。
「なんで見つけるかな………」
しばらくすると唐突にそんなことを呟きました。
「はい?」
「いや、リンはなんでそんな場所を見つけられたのかなって思ってね。多分だけどその場所って話が進んでようやく行けるようになるような場所だよ。」
「そうなの?」
「恐らくだけどね。たぶんドライの船の強化イベントみたいな形で崩れた坑道を復活させるイベントがあったんだと思う。」
確かにアキの言う通りなのでしょう。
でないと、一部の種族しか行けない場所となってしまいます。
「まあ、今はいいや。」
ひとしきり話終えるとアキはそう言って試合に集中します。
私もフィールドの方に目をやります。
既に決着はつきかけていました。
ハーロウさんの優勢です。
試合に集中しだすと自然と会話も試合に関するものになっていきます。
「そう言えばリンの次の対戦相手って………」
「うん。アルド―さんと言う人だね。」
「ああ、アルドーか………。」
「有名な人なの?」
アキは呆れたような顔をしながら語り始めました。
「正真正銘のトッププレイヤーだよ。」
「トッププレイヤー?」
「そう。レベルも現在の最高レベルである67。フュンフにたどり着いたのもアルドーが一番最初だね。」
「凄い人なんですね。」
「凄い人ね………。」
アキのその言葉が気になりますが今しがた試合の決着がつきました。
もうすぐに私の出番です。
「じゃあ、行ってくるね。」
「うん。頑張ってね。」
アキのその言葉を聞いて私はフィールドへと転送されました。
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その人は真っ赤な鎧に身を包んだ人間プレイヤーでした。
彼がアルドーさんなのですね。
今までは観戦エリアから眺めているだけでしたがこうして目の前に立つと確かにトッププレイヤーの風格みたいなものを感じます。
「よろしくたのむ。」
低い声色でそう口にするアルドーさんに私も返事をします。
「はい。こちらこそよろしくお願いします。」
私がそう返事をするとアルドーさんは剣を鞘から抜いて構えました。
しばらくして試合開始のカウントダウンが始まります。
心地よい緊張感に包まれます。
ゆっくりと呼吸をして高ぶる気持ちを抑え込みます。
遂にカウントは0となりました。
しかし、その直後に私も彼も動きませんでした。
今までの試合からカウント0とともに切りかかってくると思っていましたがそうではなかったようです。
私が不思議に思っているとぼそりと彼が呟きます。
「なるほど。これが「恐怖」か。」
そう言う彼の手はわずかに震えていました。
どうやら私のスキルに対する対策が万全ではなかったようです。
彼は今状態異常「恐怖」と「狂気」にかかっているのでしょう。
しかし、今まで見たプレイヤーのように醜く暴れまわるようなことはしません。
何故なのでしょうか?
そんな疑問が頭をよぎるも私はすぐさまその考えを頭の隅に追いやって試合に集中します。
向こうから来ないなら私の方から行くだけです。
「行きます!!」
私は地面を蹴ってアルドーさんに飛びかかりました。
その攻撃に対してアルドーさんの行動はただ剣を振るっただけでした。
その振るわれた剣に阻まれて私は足を止めます。
すかさず2撃目、3撃目と剣を振るうアルドーさん。
私はその攻撃をことごとく回避していきます。
「いつも通りに体が動かないな。」
アルドーさんの剣を避けて大きく距離を取ったとき彼はそんなことを呟きました。
「しかし、それもここまでだ………【エンチャントアタック】【エンチャントディフェンス】【エンチャントレジスト】【エンチャントアジリティ】【フレイムウェポン】!!」
アルドーさんが立て続けに魔法を唱えました。
聞いたことのない魔法です。
しかし、おおよその効果は分かります。
【エンチャント】と唱えていたのはステータスアップ。
そして【フレイムウェポン】は………
アルドーさんが魔法を唱えた瞬間彼の持っていた剣は炎に包まれました。
物理攻撃と魔法攻撃を同時に与える武器ですね。
なるほど戦いにくいです。
「RESを上げても「恐怖」は消えないか………まあ、いい。」
彼はそう言うと地を蹴って私を剣の間合いに納めます。
そして大上段からその剣を振るいました。
見るからに威力のある剣を私は大きく避けます。
2撃目、3撃目と続く攻撃も同じくよけ続けます。
しかし、こちらが攻撃に移れるタイミングがありません。
これはこちらも攻撃を受ける覚悟で行かないとまずいかもしれません。
私がそんなことを考えていた瞬間。
アルドーさんが突如剣の軌道を変えてきたのです。
「しまった!!」
その剣を避けることはできません。
私は真正面からその攻撃を受けてしまいました。
それによりHPが………削られません。
「え?」
その事に疑問を覚えるもこのチャンスを逃すわけにはいきません。
私はすぐさま体を変化させて剣をからめとります。
そしてそのままアルドーさんの腕を掴み逃げれ無くしてしまいます。
アルドーさんは力を込めて剣を引き抜こうとします。
しかし、STRで私の方が勝っていたのか剣はびくりともしませんでした。
私はすかさず体を広げアルドーさんを飲み込んでしまいます。
そうなってしまえば一方的です。
もがき苦しむアルドーさんを万力で締め上げるようにして圧殺します。
こうして準決勝第1試合の勝者が決まりました。
私の勝利です。
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