3-10
◆イベントエリア
時間は進み闘技大会第3回戦。
私の相手はエヴァさんと言うフェアリー種のプレイヤーです。
彼女は15cmほどの見た目でフィールドの上を飛んでいました。
「どんな感覚何ですか?」
「なにが?」
私は唐突に彼女にそう聞いていました。
「その羽を使って空を飛ぶという感覚はどんな感覚なのでしょうか?」
「んー、背中についた腕を必死に動かしている感じかな?」
私の突然な質問にもそうやって丁寧に答えてくれる彼女はきっといい人なのでしょう。
私は短いこの会話でそんなことを感じていました。
「私の方からも聞いてもいい?」
「はい、なんでしょうか?」
「そのスライムの体ってどんな感覚なの?」
「説明は難しいのですが全身が自在に動かせる筋肉になったような感じですね。意識すればそれ通りに動きます。」
「それだけ聞くととても便利ね。」
「そうですよ。スライムの体はとても便利なのです。」
私はそう言ってスライムの良さを力説しました。
それを聞いた彼女は若干引いたような笑みを浮かべていましたがきっと気のせいでしょう。
「リンちゃんは今までの戦闘とかその見た目を見て怖い人なのかなと思っていたけどそうでもないのね。」
「今までの戦闘は自分の本意とするところではありません。見た目に関しては多少グロテスクなのはありますが可愛くありませんか?」
「え?」
どうも私の感性は彼女に理解してもらえなかったようです。
少し寂しいですね。
そんなことを話しているとカウントダウンが始まりました。
「負けないからね。」
「はい。こちらも負けません。」
私たちはそう言ってお互いに戦闘に意識を向ける。
カウントが0になった瞬間、まず最初に動いたのはエヴァさんでした。
「………【フレイムアロー】!!」
彼女は高く飛び上がりながら魔法を放ちます。
私はそれを回避します。
しかし、困りました………。
既に10m近く高く飛んでいる彼女に攻撃する手段がありません。
彼女はこれまでの1回戦、2回戦共にこの戦法で勝ってきています。
どうやってこの戦法を攻略していきましょうか………。
「リンちゃんどうしたの?それじゃあ勝てないよ!………【フレイムアロー】!!」
そんなことを考えている間にも彼女は魔法を放ってきます。
私はそれを持ち前の俊敏さを利用して避けます。
しかしそれもいつまでも続かないでしょう。
私の集中力が切れたとききっとやられてしまいます。
こうなったらイチかバチか仕掛けてみるしかないでしょうね。
「エヴァさん行きますよ!!」
私はそう宣言して攻撃を開始しました。
直後、私は体を細く長く伸ばしていきます。
それは触手のように蠢きながらエヴァさんを捕えようと迫ります。
「なにこれ!?キモイ!!………【フレイムアロー】!!」
エヴァさんがたまらずその触手を撃退しようと魔法を放ちます。
しかし、それが見えている私は魔法を避けつつエヴァさんに迫ります。
「ちょ、ちょっと!!」
彼女は焦ったような声を上げつつ空中を縦横無尽に動いてその触手を避け続けます。
1本では捕えきれませんね。
ならば………。
私は2本、3本と触手を増やしていきました。
「やだ!!本当に気持ち悪い!!」
彼女の逃げ場は刻一刻と減っていきます。
それを感じ取った彼女は破れかぶれの魔法を放とうとします。
「………【フレイムアロー】!!」
もうここまで来てしまえば態々避ける必要はありません。
私は魔法に晒されながらも触手をエヴァさんに差し向けます。
「あっ!!!」
そしてついに捕えました。
その瞬間触手はエヴァさんに絡みつき地面へと引きずり下ろします。
そして私は体を大きく広げ彼女を捕食してしまいました。
私の体の中でもがく彼女を感じながら私は力を加えていきます。
遂にはエヴァさんHPをすべて奪いきり私は勝利しました。
--
「リン、あれはないわー。」
観戦エリアに戻った私に開口一番アキはそう言いました。
「ないかな?」
「うん。ないない。エヴァさんが可哀そうだよ。」
「でも、あれしか手が無かったし………。」
「それでも触手って………。」
そう言うアキの表情を見るとドン引きだと顔に書いていました。
そんなにひどかったのでしょうか?
「観客からはどんな風に見えていたの?」
「可愛らしい妖精を捕えようとする触手生物。」
アキの完結な説明を聞いて確かにそれは引きますねと納得するのでした。
しかし、後悔はしていません。
勝つためには時に非情にならざるを得ないのです。
「一部の男性プレイヤーは何故か盛り上がっていたけど女性プレイヤーはドン引きだよ。」
それは………。
前言撤回です。
勝つにしても少しは手段を選ぶべきですね。
アキに告げられたそれを聞いて私は少し罪悪感を覚えるのでした。
「さて、次は私だ。」
アキはそう言って席を立ちます。
彼女の言う通り次の3回戦第3試合はアキとラインハルトさんの試合でした。
私にとっては知り合い2人の試合となります。
正直どちらも応援したい気持ちはあります。
しかし、それを胸の内に秘めて私は言うのでした。
「頑張ってね。」
「うん。」
その言葉を残して彼女はその場から消えた。
視線をフィールドに向けるとそこにはアキとラインハルトさんが立っていた。
--
>>Side:アキ
私はフィールドに立ち対戦相手を観察する。
全身鎧のプレイヤー、ラインハルト。
彼のその鎧の内は空洞だ。
彼もリンと同じように魔物系プレイヤーなのだ。
「君がアキちゃんなんだね。」
私が彼を観察していると唐突にラインハルトさんがそう口にした。
「はい?」
「リンちゃんの友達なんだろう?」
「はい。ラインハルトもリンのことを知っているんだよね?」
「はい。彼女とは仲良くさせて貰っています。」
そう言う彼の言葉は優しげであった。
それは彼の人柄がうかがい知れるようであった。
「リンの知り合いだからと言って手加減はしないからね。」
「それはこちらも同じだよ。僕だって本気で行かせてもらう。」
そう言って剣を抜くラインハルトを見て私も剣を抜く。
そうして2人の剣を並べてみて明らかにその違いを感じる。
彼の剣は私の持つそれよりも上等だ。
攻略の前線から離れていた彼が何故あれほどの剣を持っているのか?
その疑問に答えてくれたのは他ならぬラインハルトだった。
「この剣が気になるかい?」
「………はい。」
「これはミスリル製の剣なのさ。」
ミスリル。
それはファンタジー金属の代表格だ。
未だその鉱石が見つかったという報告は受けていない。
それなのになぜ?
「その様子だとリンちゃんから聞いていないようだね?」
「リンが関係しているの?」
「ああ、この剣はリンちゃんが手に入れたミスリル鉱石を譲って持って作ったものだからね。」
その事を聞いて私は驚く。
まさかリンがそんなことまでしていたとは思わなかった。
リンが未だドライにいることは本人に聞いている。
と言うことはアインからドライの間にミスリルを手に入れることのできる場所を見つけたということだ。
そんな偉業ともとれる功績を友人が成していたことに私は少し誇らしさを感じるのだった。
そして少し寂しさを感じる。
私にだって教えてくれても良かったじゃない。
いや、きっとリンのことだから大したことだと思っていないのかもしれない。
彼女ならあり得る。
そんな呆れともとれる気持ちを感じているとカウントダウンが始まった。
私は目の前の戦いに集中する。
ラインハルトも手に持つ剣に力を込めているのがわかる。
ここにきて彼も気を引き締めたのだ。
カウントが0となった。
その瞬間………。
私は地面を強く蹴った。
AGIにステ振りをしている私の剣はラインハルトの剣よりも早かった。
彼の右胴から切り込むように私は剣を水平に振るう。
しかし、その剣はラインハルトの剣に阻まれた。
そんなのは百も承知。
私は足を止めずに彼の背後まで駆ける。
それを追うように体の向きを変えるラインハルトを後目に見ながら続けざまに袈裟切りを放つ。
その攻撃はラインハルトの死角から放たれた一撃だ。
確実に入ったと思った。
しかし、死角から放たれたはずの剣をラインハルトは寸分たがわぬタイミングで払う。
姿勢を崩される。
とっさに踏鞴を踏んで転びそうになるのを堪える。
しかし、大きく崩れた姿勢を立て直す前にラインハルトが剣を振るってきた。
左肩に鋭い痛みが走る。
私はとっさに足に力を込めてその場から離れる。
強い。
この一瞬のやり取りだけで確信する。
ラインハルトは間違いなく強者だ。
攻略の前線から離れていてもそれは変わらなかった。
そんな強者とやり合えることが今はたまらなく嬉しかった。
自然と頬も緩む。
そんな私を見ながらもラインハルトは自分から攻撃してくることは無かった。
私のAGIを警戒しているのだろうか?
しかし、その疑問に答えてくれる人はいない。
そしてその疑問に意味はない。
私のやることに変わりはないのだ。
私は再び地面を蹴った。
ラインハルトに接近し、右手に持った剣を無我夢中に振るう。
しかし、そのこと如くをラインハルトの持つ剣が防いでしまう。
ああ、本当に強い!!
全然攻撃が当たる気配がしない!!
それでも自棄になったりはしない。
私は彼の動きに集中して剣を振るう手を弱めない。
ラインハルトが私の剣を払い剣を上段に構えた。
しかし、払いが弱い!!
私はすぐさま彼の胴目掛けて剣を振るった。
その攻撃は彼の胴を確かに捉えた。
しかし、それだけだった。
人間種と違って肉体を持たない彼はその攻撃を受けても怯むそぶりを見せない。
次の瞬間………。
上段に構えたラインハルトの渾身の一撃が私を襲った。
攻撃した直後と言うこともあって反応が遅れた私はそれをもろに受けてしまう。
右肩から左足までを袈裟切りされた私は痛みから体が硬直するのを感じる。
その隙を逃さずラインハルトが次の一撃を振るった。
次は右わき腹を貫く突きだった。
「つっ!!!!」
たまらず声が漏れる。
私は右手に力を込めて剣を振るう。
「それは悪手だ。」
静かにラインハルトが口にする。
その言葉が示す通り私の一撃はラインハルトの体に僅かばかりの傷をつけただけで状況を何一つ改善することは無かった。
そしてその一瞬を逃すラインハルトでない。
続けざまに剣を振るわれ遂に私のHPは0になってしまった。
>>Side:アキ End
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