3-6
可愛いスライム(玉虫色)
◆イベントエリア
「あ、あの人は………。」
「ん?知り合いでもいた?」
予選グループも今や第10グループまできました。
100人程が残ったフィールドに私は知り合いの姿を見つけました。
全身鎧の騎士。
そうラインハルトさんです。
「うん。魔物系プレイヤーの知り合いがいた。」
「へー、誰?」
アキはそう言って会場を見回す。
しかし、簡単に見つけることはできないでしょう。
ラインハルトさんは一見すると魔物系プレイヤーとは分からないでしょうから。
「フィールドの真ん中あたりにいる全身鎧のひとだよ。」
「ん?ああ、ラインハルトか。」
「アキも知っているの?」
「うん。少し前まで攻略の前線にいた魔物系プレイヤーだからね。今はどうしているか知らないけど。」
「少し前にツヴァイにいた生産職と一緒にドライに行った際に一緒したよ。」
「そうなんだ。じゃあ、フィーアにたどり着くのもすぐだね。」
アキとそんな会話をしている間も視線はラインハルトさんを追っていました。
彼は危なげなく周囲の人たちに対処していました。
アキのようにフィールド中を走り回るようなことはせず近くにいる人を1人、また1人と倒していきます。
フィールドに残った人たちを見回してもラインハルトさんに勝てそうな人はいません。
彼にもそれがわかっているのか半ば作業のような戦闘を繰り返していきます。
そしてついには最後の1人を倒してしまいました。
--
第14予選グループ。
闘技フィールドへと転送された私はスタートの瞬間を心待ちにしていました。
緊張はありません。
ただ全力を尽くすだけです。
「うぁ、気持ち悪い。」
私の姿を見たプレイヤーがそんなことを呟きました。
心外です。
こんなに可愛らしいというのに。
確かに多少グロテスクに見えるところがあるかもしれません。
百歩譲ってそうだとしても、それを口に出す必要はないはずです。
私がそんなことを考えていると目の前にカウントダウンが表示されました。
………3
ミスリルナイフを取り出して装備します。
怪しく光るナイフの刀身が頼もしさを感じさせます。
………2
周りを見回します。
1足で攻撃できる範囲に剣士がいます。
まずは彼を攻撃しましょうか?
………1
はやる気持ちが抑えられません。
この1秒が待ち遠しいです。
私は自然とほほが緩むのを感じます。
………0
その瞬間、地獄が訪れました。
「来るな!!来るなぁあああああああああ!!!」
「ひぃいいいいい!!」
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!」
「何で、何なんだよぉおおおおおおおおおお!!!!!」
周りのプレイヤーが騒ぎ出します
いや、私の周りのプレイヤーだけではないこの闘技フィールドにいる私以外のすべてのプレイヤーが叫び声をあげていました。
「あははははははははははははは!!!!!!!」
「ぎゃあああああああ!!!!!」
「死んでしまえぇえええええええ!!!!」
「こんなところにいられるか!!」
叫び声だけではありませんでした。
あるものは笑い。
あるものは怒り。
あるものは絶望し。
あるものはその場に立ち尽くす。
それは正常な光景ではありませんでした。
次第にその声は行動を伴うようになっていきます。
意味不明に剣を振り回すもの。
闘技フィールドから逃げ出すもの。
矢鱈目ったらに魔法を放つもの。
あるいは自らを傷つけるもの。
それはやはり異常な光景でした。
まるで狂気に包まれたかのような………。
「あ!」
そこに来て私は思い至りました。
スキル【恐怖を呼び起こすもの】とスキル【狂気を呼び起こすもの】。
この2つのスキルはパッシブスキルです。
つまり常時発動しているということです。
試合開始とともに私の敵対者と認定されたこの場のプレイヤーすべてはこのスキルの効果で状態異常「恐怖」と「狂気」を受けているのでしょう。
だからこそこんな阿鼻叫喚な光景が生み出されたのでしょう。
周りのプレイヤーたちはその状態異常に従って勝手に自滅していきます。
私はスタートから今まで剣を振ることはおろか一度も動いてすらいなかったのです。
「嫌だよぉおおおおおおお!!」
「死んでしまえよぉおおおおおおおおおお!!」
「うぁああああああああ!!!!」
「きゃははははははははははははははははははは!!!!!!!!」
プレイヤーはすでに数えるほどになってしまった。
狂気の幕はいまだ続いています。
「どうしましょうか?」
私は困惑していました。
正直こんなことになるとは思ってもいなかったからです。
そんな時でした………。
「死ねぇええええええええええ!!!!」
プレイヤーの1人が私目掛けて剣を振るってきました。
恐怖を克服したわけではありません。
その行動もまた恐怖に支配されての行動でした。
しかし、ここで私は初めて戦闘らしい戦闘をすることができます。
「正直興ざめです。」
彼の攻撃は直線的過ぎました。
私は横に飛んでその攻撃を避けるとすぐさま彼の体を飲み込みます。
ショゴスの体の中でもがく剣士を感じながら私は力を加えていきます。
ボキ、ボキと骨が折れる音が聞こえます。
もがき苦しむ彼の力が弱まっていくのが感じ取れました。
しばらくすると彼はもがく力を失い光のかけらとなって消えていきました。
その瞬間でした………。
「「「う、うぁあああああああああああああ!!!!」」」
残っていたプレイヤーが更なる恐怖に怯え皆一様に逃げ始めました。
そしてついには闘技フィールド外まで逃げてしまったのです。
その瞬間勝者が決まりました。
フィールドに残っているのは私1人。
つまりは私がこの予選グループの勝者と言うことです。
今までの予選グループと違って観戦者からの歓声はありません。
皆この結果に騒然としているのです。
それを見て私はため息をつきます。
「何でこんなことになってしまったのでしょう………。」
--
「ただいま。」
私は静かにアキのもとへと帰ってきました。
「とりあえずおめでとう。」
「うん。ありがとう。」
アキは色々と言いたいことがあるといった表情をしながらもそう言ってくれた。
私は素直にお礼を口にします。
「で、あれはなに?」
案の定、アキから出た言葉は私の戦闘を追及する言葉でした。
私はどう言葉にしていいか迷いながらその疑問に答えます。
「多分スキルのせいかな?」
「何でリンが疑問形で答えるのよ。」
「初めてのことだから知らなかったんだよ。」
私はそう言いながらアキにスキル【恐怖を呼び起こすもの】とスキル【狂気を呼び起こすもの】のことを説明しました。
それを聞いたアキは呆れるような表情をしながら口を開きます。
「状態異常「恐怖」と「狂気」なんて聞いたことが無いわね。」
「そうなの?」
「ええ。状態異常と言えば「毒」「麻痺」「眠り」を使ってくる魔物は見つかっているわ。当然その特性を反映した武器もあるし逆にそれに対抗した装備も作られている。でも、「恐怖」と「狂気」は聞いたことが無いね。」
アキがそう断言するということはきっとこの状態異常が披露されるのは初めてなのでしょう。
その初めてであんな阿鼻叫喚な状態を生み出したことに私は少し罪悪感を覚えます。
まあ、でもやってしまったことは仕方ありません。
何よりそれだけ強いスキルなのだと再確認できたことを喜びましょう。
私がそんなことを考えているとアキが思案顔で口を開きました。
「状態異常「恐怖」と「狂気」ね。正直本戦ではリンに当たりたくないわね。」
「え?」
「だって、私にはそれに対抗する手段が無いのだもの。きっと今の第14グループにいた人たちと同じように一方的にやられてしまうわよ。」
確かに負けが確定している相手とは戦いたくはないでしょう。
でも本戦はトーナメントなのです。
勝ち上がって行けばいずれ戦うことになります。
ならそんなことを言わなくてもいいのになと私は思うのです。
「聞いておいてなんだけど、リンは良かったの?」
不意にアキがそんなことを聞いてきました。
「何が?」
「本戦前に手の内を晒すようなことを言って。」
「別に対策できるなら、してもらって構わないわよ。私の元々の戦闘スタイルでは「恐怖」も「狂気」も使ってないからね。それに、正直さっきの予選は消化不良だよ。もっと戦いたかった。」
「なんかリンがバーサーカーになっている気がするのは気のせいかな?」
アキがそんなことを言いながら呆れたような表情をしていました。
その表情を見ながら私は思うのでした。
願わくば、本戦ではもっと戦いらしい戦いができることを………。
よろしければブックマーク登録と評価をお願いいたします<(_ _)>




