3-5
◆イベントエリア
そこは大きな闘技場を有する町でした。
そこにNPCはいませんいるのはプレイヤーのみです。
皆思い思いの装備をしてその町を闊歩していました。
私も彼らと同じように町の景観を楽しみます。
不意に私の目の前にシステムメッセージが表示されました。
<まもなく開会式を開始いたします。>
<イベントに参加される方は町中央の闘技場までご参集ください。>
私はそのメッセージを確認して闘技場へと向かうのだった。
--
「やあやあ皆お久しぶりだね。今回のイベントの進行をするナイだよ。」
闘技場の中央にキャラクター作成時に見た黒猫が飛んでいました。
彼はそんなことを言いながら闘技場を見回します。
どうやら開会式が始まったようです。
「今回のイベントのルールは事前にホームページで確認しているかな?」
ナイさんのその声に元気よく答える人たちがいます。
それを聞いてナイさんは頷いています。
「元気が良くて大変結構。一応ここでもルールの説明をさせてもらうね。」
ナイさんはそう言うと一度言葉を区切った。
周りで騒いでいた人たちもナイさんの次の言葉を聞くために静まり返りました。
「まず予選は32グループに分かれて行われるよ。それぞれのグループで1人の勝者が決まるまで戦い続けるバトルロイヤルだ。」
バトルロイヤル。
つまりは複数人が同時に同じ舞台に立って戦いあうということです。
それが32グループ。
つまりは32人の予選通過者を生み出すということです。
「そして決勝トーナメントは予選を通過した32人で行われるよ。トーナメントの名前の通り戦いは1対1で行われる。当然、優勝者には豪華な賞品が用意されている。皆存分に力を出し切ってくれたまえ。ではさっそく………。」
ナイさんがそう言うと私の目の前にシステムメッセージが表示されました。
<プレイヤー「リン」は予選第14グループとなります。>
どうやら私だけではないようです。
周りのプレイヤーも目の前のそのメッセージを確認するために静まり返りました。
私は………グループ14ですか。
このグループ自体にはあまり意味はありません。
出る以上は万全を尽くすだけです。
私がそんなことを考えているとナイさんが口を開いた。
「それじゃあ、30分後に第1グループの予選を始めるよ。それまでに準備万端にしておいてね。じゃ、アディオス。」
ナイさんはそう言うと虚空へと消えてしまいました。
その瞬間周りに喧騒が生まれます。
皆好き好きに会話をしています。
私はどうしましょうか?
私がそんな風に迷っているとメッセージが届きました。
差し出し人はアキです。
『リン今どこにいる?』
私はそのメッセージに返信をかえします。
程なくしてアキがこちらに走ってきました。
「やっほー、リン。」
「こっちでは久しぶり。アキ」
「本当に久しぶりだけど………大分グロテスクになったね。」
「そうかもしれないけど………可愛くない?」
「可愛くない。」
アキに言われて自分の姿を見直します。
確かに玉虫色に輝く私の体は多少グロテスクに見えることでしょう。
でも、このうねうねとした感じが可愛らしく思えるのですが私だけでしょうか?
「リンは予選グループ何番だった?」
「第14グループだよ。アキは?」
「私は第3グループだからリンと当たるとしたら決勝トーナメントだね。」
「そうだね。」
私とアキはそんな会話をしながら観戦エリアへと向かいました。
2人並んで座れる席を見つけるとそこに腰を下ろします。
「そう言えばリンはレベル上げはしたの?」
「うん。あれから3レベル上げて今はレベル43だよ。」
「私はなんとレベル57!ほぼトップレベルまで上げたよ。」
「凄いけど………大丈夫なの?」
私はアキのリアルが心配になります。
ゲームにばかり時間を使っているのではないでしょうか?
「ま、このイベントが終わったら少しペースダウンするから大丈夫。」
「ならいいんだけど。」
私とアキがそんな話をしていると第1グループの試合が始まりました。
広大な闘技フィールドには300人近い人がいました。
これは1試合1試合時間がかかりそうだと思います。
「見どころは高レベルの魔法使い系のプレイヤーが大魔法を使ってからかな。」
アキが唐突にそんなことを呟きました。
「そうなの?」
「多分それで大部分のプレイヤーは落ちるよ。そこから強いプレイヤー同士の戦いになる。」
私はアキの話を聞いてフィールドを見回します。
ちらほらと良い装備をした魔法使い系プレイヤーがいました。
彼らは皆一様に魔法を唱えています。
開始と同時にその行動に移っているのであれば同時に大魔法を放つことになるでしょう。
それなら確かにアキの言う通りになるかもしれません。
―ドーン
程なくして大規模な魔法が放たれました。
1つだけではありません。
フィールドのそこら中で魔法が火を噴いていたのです。
それらは多くのプレイヤーを巻き込んでその暴力をまき散らします。
程なくしてフィールドに残ったのは十数人のプレイヤーのみでした。
「結構倒されたね。」
「そうだね。これはあと数分でけりが付くね。」
大魔法を放った魔法使いはその直後に落とされ続けて生き残ったプレイヤー同士でやり合いだしました。
そして、アキのその予想通り数分ののちに決着はついたのでした。
勝者は見も知らない槍使いのプレイヤーです。
「あいつか………。」
私にとっては知らないプレイヤーでしたがアキにとってはそうではないようです。
「アキの知り合い?」
「いや、一方的に知っているだけだよ。魔物プレイヤーを迫害している質の悪いプレイヤーの代表格みたいなやつだよ。」
それを聞いて私の中で何かが燃え上がるような気がしました。
そして明確に意識するのです。
あのプレイヤーは私の敵だと。
しばしの休憩時間を挟んだのちに第2グループの予選が開始されました。
この試合も先ほどと同じような流れとなりました。
激戦の末に剣士プレイヤーが勝者としてフィールドに残りました。
「さて、私は次だね。」
アキがそう言いながら体を動かします。
「頑張ってね。」
私はそれを見ながらエールを送ります。
それに笑みを浮かべたアキは唐突にその場から消えます。
次の瞬間には中央のフィールドにまたも300人程のプレイヤーが現れました。
あの中にアキもいるのでしょう。
私は目を凝らして探しますが見当たりません。
アキが早々にやられるとも思えません。
時間がたって人数が減ればおのずとわかることでしょう。
私はそう思うと試合の開始を待つことにしました。
程なくして試合が始まりました。
試合の最初は第1試合、第2試合と同じような流れとなると予想していましたがそうはなりませんでした。
大魔法が危険だと判断した多くのプレイヤーが率先して魔法使い系プレイヤーを攻撃し始めたのです。
さらに魔法使い系プレイヤーを攻撃することに集中しているプレイヤーを攻撃するプレイヤーまで現れてフィールドは混乱に満ちています。
前2試合とは違いますがゆっくりと1人また1人と数を減らしていきます。
しばらくしてフィールドに20人弱のプレイヤーが残ったところでようやく私はアキの姿を見つけることができました。
彼女はフィールドを縦横無尽に動き回り周囲のプレイヤーに的確に剣を当てていきます。
一所に留まらず1人1人を相手取るのではなく手の届く範囲にいるプレイヤーを攻撃してきます。
一見すると1人で回り全員を敵に回すような行為ですが、アキの速度に周りのプレイヤーはついていけていません。
それもあって彼女はこのフィールド内で優勢を保っていました。
フィールドに残った盾剣士がやられました。
遂に最後に残ったのはアキともう1人。
大剣使いのプレイヤーです。
彼はここから見ても満身創痍であることがわかります。
一方でアキは傷らしい傷はありません。
これは勝負ありましたね。
私のその期待を裏切ることなくアキの剣が大剣使いを切り伏せました。
その瞬間会場中を歓声が包みます。
第3グループの勝者はアキに決まったのです。
--
「ふー、疲れた疲れた。」
「お疲れ様。」
程なくしてアキは歩いて戻ってきました。
私は労いの言葉を彼女に投げかけます。
彼女の表情は勝利の喜びに満ちていました。
それを見て私も意気込みます。
そして自分の試合を今か今かと待ち続けるのです。
現在行われているのは第5グループ。
まだまだ先は長いです。
よろしければブックマーク登録と評価をお願いいたします<(_ _)>




