3-2
◆ドライ
結論から言えばツヴァイ=ドライ間にいたフィールドボスはあっさりと討伐できました。
私たちは誰1人欠けることなくドライへと到着しました。
その事を皆が喜ぶも私は少し物足りなさを感じていました。
「残念だって思ってる?」
声に出してはいなかったでしょう。
私のその気持ちを汲んでラインハルトさんがそう口にしました。
「そうですね。ちょっと拍子抜けだったかもしれません。」
私は彼のその言葉に素直に答えるのでした。
私のその返答を聞いたラインハルトさんは笑いながら口を開きました。
「ふふふ。リンちゃんレベルだとあのボスは弱い部類に入るだろうね。」
「そうなんですか?」
「君の対人戦闘を何度か見せてもらった僕の感想さ。」
確かに何度か自分が戦うところをラインハルトさんに見せています。
実際に決闘をしたりもしました。
そこからくる目測なら間違いはないのでしょう。
しかし、そうなるとドライ周辺もあんまり期待はできないでしょうね。
これは早い所次のフィーアに行くことも検討しておいたほうが良いかもしれません。
私がそんなことを考えているとラインハルトさんが解散を言い渡しました。
それを聞いて皆好き好きに動き始めます。
私はどうしましょうか?
とりあえず市場でも見てみましょうかね。
そう考えれば行動は早かったです。
私はすぐさまドライの中央広場に向かって歩き始めていました。
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ドライの中央広場はツヴァイ程プレイヤーの人数が多いようには感じませんでした。
どちらかと言えばNPCのお店の方が多いようです。
私はそれらの店をのぞいていました。
ふと気になるお店を見つけて私は店主に声をかけました。
「こんにちは。」
「ん?だれだ?」
店主は辺りをきょろきょろと見回します。
第1声で気づいてもらえないこの感覚にも慣れました。
私は懲りずにもう一度声をかけます。
「こっちです。下です。」
「ん?下だ?わ、何でこんなところにスライムがいるんだ?」
店主のその反応に私は少し気分を害します。
魔物だからって驚かなくてもいいでしょうに。
私はそんな悪感情を表に出さずに話続けます。
「ここでは魚を売っているのですか?」
「何で魔物が俺の店に来るんだよ。あっちいけ。」
店主はそう言うと「しっし。」と言いながら手で追い払う仕草をします。
これには私もついつい感情を爆発させてしまいます。
「なんで魔物だからって追い払われなくてはいけないのですか!?私はプレイヤーです!」
「ん?プレイヤーって言うと神の加護があるのか?ならいいのか?」
「そうです!撤回してください!」
「まあ、さっきの言葉は謝るからそう怒るな。で何だっけ?」
店主はそう言って頭を軽く下げました。
その軽い態度に私はいまだ怒りは収まらないまでもとりあえず鉾は納めるのでした。
「ここでは魚を売っているのですかと聞いたのです。」
「ああ、そうだよ。このドライ周辺には漁村が多くあるからな。そこで買い付けた魚をこうして売っているんだ。新鮮だぞ。」
そう店主に言われて店に並んだ魚に目を向けます。
そこには色とりどりの魚が並んでいました。
どれも確かに新鮮でおいしそうでした。
「ドライでは魚が有名なのですか?」
「ああ、そうだぞ。なんて言ったって港町だからな。この町でも多くの魚が水揚げされる。それにさっきも言った漁村もたくさんあってそっちでも珍しい魚を捕っていたりするんだぜ。」
「なるほど。しかし、それにしては品ぞろえが少し悪いように感じるのですか、それは時間のせいですか?」
私が見ていたその露店は所々に空きが目立っていました。
私のその言葉を聞いて店主は頭を掻きながら困ったような表情をします。
「いや、普段ならもうちょっと色々仕入れるんだがな。近頃ドライの南にある廃村でアンデッドが出没するようになってな。そっちの方角への買い付けを行っていなかったんだ。」
「アンデッドですか?それは廃村だけで出るものではないのですか?」
「ああ、多くは廃村に出没するが数が増えてきたのか一部が街道まで出てくるようになってな。それでドライ南側の漁村へ行くのが危なくなっている。」
廃村に出没するアンデッド。
それは良いことを聞いたかもしれません。
数が多いのならば良い狩場になります。
私は上機嫌で情報のお礼を言うとドライを後にするのでした。
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「うぼぁああああああ。」
「うぐぁああああああああああ。」
「ぐぐりゅあああ。」
ドライで鮮魚露店を開いていた店主に聞いた廃村は確かに多くのアンデッドが闊歩していました。
そのほとんどはゾンビやスケルトンでしたが、中には上位種ぽいものもいました。
日が出ているというのにそんなアンデッドが闊歩している光景は有り体に言って異常な光景に見えることでしょう。
そんなことは関係ないと私は戦闘準備を整えます。
生憎とこの場には私一人しかいませんでした。
私は穴場を見つけたことを喜びながらそれらアンデッドの相手をしていきます。
目標はここの戦闘で進化可能なレベルまで至ることです。
「ゾンビやスケルトンなどのアンデッドにナイフは効果的ではないですね。」
痛みを感じないアンデッドは急所を攻撃しても変わらず活動します。
そのため大きな傷を与えられないナイフによる攻撃はいまいちでした。
私はすぐさまビッグスライムの巨体を生かした攻撃にシフトします。
「んー、数が多いだけで退屈な戦闘ですね。」
緩慢なアンデッドの動きでは私に攻撃を当てることはできませんでした。
だからこそ私は作業のような感覚でアンデッドを処理していきます。
1匹、また1匹と光のかけらへ姿を変えていく姿を見ながら私は感慨に耽ることもありませんでした。
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「ふぅー。少し休憩しましょうかね。」
私はそう言って休憩できる場所を探しました
アンデッドに溢れていると言っても村にはいくつか安全な場所がありました。
教会もその1つです。
私は村の古びた教会へと入り込みました。
その教会は町の教会からするととても小さな教会でした。
しかし村の中にあってはひときわ大きな建物です。
中は荒れ果てていてわかりにくいですが村民全員が入ってもまだ余りあるだけの広さがありました。
私はその教会の中で休める場所を探して探索します。
「あれ?これは何でしょう?」
そんな時怪しげな扉を見つけました。
その扉の先は地下へと至る階段が隠されていたのです。
私は興味本位からその階段を下って行きます。
中は真っ暗でしたがスライムの目には関係ありません。
私は周囲の様子を伺います。
特に危険は無いようです。
その部屋は石造りの倉庫のような場所でした。
木箱が乱雑に置かれています。
見てわかることは意外とこの地下室は広いと言うことです。
私はそんなことを考えながら周りの木箱の中を確かめていきます。
中には緩衝材代わりの藁とそれに包まれるようにして酒瓶が入っていました。
殆どの木箱の中身は駄目になっていました。
緩衝材はその役割を全うできずに酒瓶が割れてしまっていたのです。
しかし、幸運にも1つだけ無事な酒瓶を見つけることができました。
私はそれを手に取ります。
瓶の形状から察するにワインでしょうか?
でもこの辺でお酒を造っているなんて話は聞いていませんね。
私は訝しむようにしてその中身を確認する。
残念ながらスライムの体では臭いを確認することはできなかった。
意を決してその中身に口をつける。
その瞬間………。
<「玉虫色の薬液」を取り込みました。>
………
<称号「最も恐ろしきもの」を取得。>
<スキル【恐怖を呼び起こすもの】を取得。>
………
<種族進化を実行………失敗。条件を満たしていません。>
<種族進化先の拡張を実行………成功。>
<次回種族進化時に選択肢が増えます。>
………え?
私の意思に反していくつものシステムメッセージが流れました。
私は困惑しつつもそのメッセージを確認していきます。
「これってあれですよね?星神結晶を取り込んだ時と同じ………。」
中身の固有名詞こそ違うもののそのメッセージは星神結晶を取り込んだ時と同じでした。
私はメッセージを閉じて今獲得した称号とスキルに目を向けます。
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称号「最も恐ろしきもの」
この世に存在する生物の中で最も恐ろしきものに送られる称号。
その生物は本来存在したことは1度としてないはずだった。
その生物は本来酷い悪夢の中でしか存在することはできないはずだった。
しかし、生み出されてしまった。
この生物を前にして恐怖を覚えないものはいない。
この生物を前にして目を背けずにいられるものはいない。
効果1:状態異常スキルの効果上昇
効果2:敵対者の状態異常に対する抵抗弱体化
※種族影響で一部効果が弱体化します。
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パッシブスキル【恐怖を呼び起こすもの】
この生物を見て恐怖を感じないものはいないだろう。
その恐怖は体を蝕む。
あるものは泣き叫びし、あるものは萎縮し、あるものは自ら命を絶とうとするだろう。
再度伝えよう。
この生物を見て恐怖を感じないものはいないだろう。
努々忘れることなかれ、恐怖とは抗いがたいものなのだ。
効果1:敵対者に状態異常「恐怖」を与える
効果2:敵対者の状態異常「恐怖」の効果上昇
※種族影響で一部効果が弱体化します。
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何なんでしょうか?
何か危ないものを手に入れた気がします。
私はそんな感想を持ちながらその称号とスキルを確認しました。
称号の最も恐ろしきものは状態異常系のスキルの強化を行うものですね。
こっちはいいでしょう。
しかし、スキルの【恐怖を呼び起こすもの】。
こっちはかなり危ないスキルに思えます。
そもそも状態異常「恐怖」なんて言うのは聞いたことがありません。
どのような効果が出るのか判断が付きませんね。
私はそんなことを考えながらウィンドウをそっと閉じるのでした。
そして何食わぬ顔で地下室を出ると適当な部屋を見つけて休憩をとるのでした。
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