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3-1


◆ツヴァイ 路地裏


先日の報復PKから数日が経過しました。

私たち魔物系プレイヤーは変わらずの毎日を送ることができていました。

報復PKに対する報復PKが発生しなかったことは少し安心しました。

まぁ、起きたら起きたで返り討ちにする自信があるのですが………。


それはさておき私はそろそろドライに向かおうと思っていました。

レベルも十分に上がったのでこの辺の狩場では手応えを感じなくなってしまっているのです。

今日はツヴァイを立つ前にミケルさんに武器の修復をしてもらおうと思い路地裏を歩いていました。

ミケルさんはいつもの場所にはいませんでした。


この場所で露店を開いていないなんて珍しいですね。

工房にいるのかしら?


私は彼の工房へと向かうことにします。

そしてその場でミケルさんの姿を確認しました。

いや、ミケルさんだけではありません。

ラインハルトさんも一緒にその場に居ました。

私は彼らに挨拶をしてからミケルさんに用件をお話ししました。


「ちょうどよかった。」


するとラインハルトさんからそんな声が上がりました。

私は首を傾げながら聞き返します。


「ちょうどいいとは何でしょうか?」


「いや、実は今日僕たちもドライに向かおうと思っていたんだ。リンちゃんが良ければ一緒に行かないか?」


私はその言葉を聞いてますます頭を悩ませます。

ラインハルトさんはすでにドライに行ったことがあるはずです。

それならフィールドボスを再び倒す必要はないはずです。

なのになぜ一緒に行こうということになるのでしょうか?


「ラインハルトさんはすでにツヴァイとドライ間のフィールドボスを倒していますよね?」


「ああ、そうだね。」


「それならドライに行くにはすぐだと思うのですが、何故私と一緒に行こうということになるのでしょう?私はまだフィールドボスを倒してないので一緒に行くと遅くなってしまいますよ。」


「ん?ああ、さっき言った僕たちと言うのは僕とミケル、あと他にも魔物系の生産職と一緒に行こうという話になっているんだ。僕は確かにフィールドボスを討伐しているけどミケル達生産職はまだだからね。それでよければ一緒に行ってくれないかなと思ったのさ。」


「なるほどそう言うことでしたか。それなら納得です。はい。是非一緒に行かせてください。」


「そうか。それは良かった。実はハーロウが一緒に行くはずだったんだがリアルの用事で行けなくなってしまってね僕1人で生産職の護衛をしながら戦闘するのは大変だと思っていたところだったんだ。」


そう言いながらラインハルトさんは鎧をカチャカチャと鳴らします。

恐らく喜んでいるのでしょう。

私はその様子を見ながらふと疑問に思ったことを口にします。


「そう言えばミケルさんたち生産職の方々はずっとツヴァイにいらっしゃったんですね。何か理由があるんですか?」


「それは………。」


ミケルさんが言いにくそうにしているとラインハルトさんが頷いて説明を引き継いだ。


「リンちゃんも今まで見てきたと思うけど魔物系プレイヤー排斥を掲げる人間種のプレイヤーがいることは知っているよね?」


「はい。」


「実はあれらのプレイヤーの活動は攻略の前線の方が激しいんだ。」


「そうなんですか?」


「ああ。MMORPGと言うのは昔からリソースの食い合いだ。自分がより多くリソースを得るために他者に難癖付けて排除しようとする連中がいる。そう言うのはリソースの食い合いが激しい前線の方が強くなる。だから前線では魔物系プレイヤー排斥活動も活発なんだ。」


私はそれを聞いて考え込んでしまいます。

今まで魔物排斥を掲げるプレイヤーは何人か見てきました。

それらのプレイヤーの言葉はどれ一つとっても度し難いものでした。

そんなプレイヤーが前線近くなればより多くなると思うと憂鬱な気分とは別に怒りが沸々とわいてきます。

私がそんな思いを抱えているとラインハルトさんは言葉を続けた。


「でも、今のドライはだいぶ良くなったよ。攻略の最前線が海の向こう。フィーアやフュンフに移ったからね。」


「そうなんですか。」


それを聞いて少し安心します。

もしも前線で活躍するトッププレイヤーと決闘騒ぎになったらどうしようと思っていました。

そうならないことが望ましいのでしょうけど、魔物系だからと馬鹿にしたり排除したりと言った行動をされたときに自分がどんな行動に出るか自信が無かったのです。

ラインハルトさんの話を聞く限りはそんなことにはならないと思い安心しました。


「もう1つミケル達にドライに来てもらう理由があるんだ。実はドライからフィーアに行くために生産職の協力が必要なことが分かったんだ。」


「そうなんですか?」


「ああ。ドライからフィーアには船で行くんだが通常手に入る船では魔物の攻撃に耐えられずフィーアにはたどり着けない。しかし、生産職がいるとその船の強化イベントを進めることができるようになるんだ。」


なるほど強化イベントを進めて強化改造した船で海を渡るということですね。

確かに以前アキからもドライの攻略が止まっていると聞きました。

それはこの強化イベントが発見されていなかったからなんですね。

私はそんなことを考えながら未だ見ぬドライの町に思いを馳せているのでした。


--


「そう言えば。」


ミケルさんが作業そしている間、私は唐突にそう話を切り出しました。


「ん?」


ラインハルトさんはこちらを向いて話を聞く姿勢を整えてくれた。

それを確認して私は言葉を続けました。


「ミケルさん以外の生産職の方はどなたですか?以前お会いしたサンドラさんでしょうか?」


「ああ。サンドラも来るよ。あと他に2人いてどっちも魔物系プレイヤーだ。多分もうそろそろこっちに来るんじゃないかな?さっき連絡入れたし。」


「そうなんですね。」


ラインハルトさんとそんな会話をしてから数分ほどの時間が過ぎて、ミケルさんの工房に「失礼するよー。」と言いながら入ってきた影がありました。

1人?は知っている顔でした。

巨大な蜘蛛の裁縫師サンドラさんです。

そのサンドラさんの体の上には小さなリスが乗っていました。

あの方もプレイヤーなのでしょうか?

私がそんな疑問を浮かべているとさらに1人?が部屋へと入ってきました。

全身を長い毛におおわれ頭は犬の見た目をした所謂コボルトと呼ばれる種族でした。


「ラインハルトから聞いているけど今回はリンも一緒に行くんだってね?」


サンドラさんがそう話始めました。

私はそれに肯定の意をしましました。

それを彼女は嬉しそうに受け取ります。

私としても彼女たちと一緒に旅ができるのは嬉しいので素直に喜びを伝えます。

そうこうしている間にサンドラさんの上に乗ったリスから声がかかりました。


「ねえ、自己紹介しましょうよ。私はシールね。見ての通りリス種の彫金師よ。」


「ご丁寧にどうもありがとうございます。私はリンと言います。見ての通りスライムの殺し屋です。」


「こ、殺し屋?」


シールさんは私の職業を聞いて若干引いているようでした。

しかし、事実として私は殺し屋と言う職業についているため嘘偽りなくそう答えます。


「はい、殺し屋です。」


「そ、そうなんだー。」


「僕の方もいいかな?」


私とシールさんがそんな話をしているとコボルトが話しかけてきました。

私は改めてそちらに向き直ります。

声からすると男性でしょうか?

そんなことを考えていると再びコボルトの彼から声がかかりました。


「僕はコボルト・リーダーの上級木工職人で名前はクロ。よろしくお願いするよ。」


「はい。改めてリンです。よろしくお願いします。」


「自己紹介が終わったらこっちに来てもらえるかな?」


私たちが自己紹介を終えるとラインハルトさんから声がかかりました。

彼の言葉に従って私たちはそちらに向かいます。

そこには作業を終えたミケルさんが来ていました。


「はい、リンさんこれ修復しておきました。」


「ありがとうございます。」


私はミケルさんからミスリルナイフを受け取りました。

そんな私とミケルさんのやり取りを後目にラインハルトさんが話始めます。


「ツヴァイ=ドライ街道に出現するフィールドボスについて説明するよ。」


ラインハルトさんのその言葉を聞いて皆の注目が彼に向きました。

私も口を噤んで彼の説明を待ちます。


「まず、モンスターの名称はエルダー・ゾンビ・ナイト。名前の通りアンデッドの騎士だ。」


アンデッド。

今までフィールドのモンスターとしては見たことがありません。

その手のホラーに怖いと感じることは無いと思います。

だから別段、アンデッドの騎士だからと言って思うところは無いですね。

私は落ち着いた心持でラインハルトさんの次の言葉を待った。


「見た目は名前の通りゾンビが騎士の格好をしている。全身甲冑にロングソードと盾を装備しているな。この装備はおそらく鉄製だと思われる。」


全身甲冑は相性が悪いかもしれません。

それは以前ラインハルトさんと決闘をしたことで身に染みています。


「攻撃方法も特殊なものはない。手に持った剣で攻撃してくるだけだ。しかし、この攻撃が厄介で下手なプレイヤーよりも技量が高い。」


つまりは剣の達人と言うことでしょうか?

それならむしろ戦いやすいかもしれませんね。

下手に魔物特有の動きがあるよりは人間的な動きの方が対処しやすいです。


「防御性能も見た目通りだ。全身鎧と盾で物理的な防御力が高い。一方で魔法防御力はそこまででもないからセオリーとしては魔法で倒すことになる。」


「あれ?今回は魔法攻撃持ちがいないよね?」


ラインハルトさんの言葉にシールさんがそう口を挟みました。

それを聞いてラインハルトさんは頭を掻きながら困ったような声を上げるのでした。


「そうなんだ。本来ならハーロウに頑張ってもらう予定だったんだが、今回はいないので物理で頑張って削っていくしかない。でも大丈夫だよね、リンちゃん?」


急に話を振られて少し吃驚しながらも私は彼に答えようと口を開きました。


「ええ。今聞いてる限りの情報なら大丈夫だと思います。物理攻撃がまったくダメージにならない訳では無いのですよね?」


「ああ。防御性能はあくまで鎧と盾によるものだ。本体には物理ダメージも変わらず入る。」


「なら大丈夫です。」


私は自信満々にそう口にしました。

実際、人型であればビッグスライムの巨体で飲み込んでしまえば圧殺することができます。

ラインハルトさんの剣聖のように飲み込まれた状態から脱出するためのスキルを持っている場合は厄介ですが単に剣で攻撃してくるだけならその心配はないと思います。

ラインハルトさんもそれがわかっているからか安心した声色で話を続けています。


「さて、ボスの説明は以上だが何か質問はあるか?ないなら出発しよう。」


ラインハルトさんのその言葉を聞いて私たちは出発の準備を始めます。

未だ見ぬドライの町を思って心を躍らせるのでした。


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