2-10
◆ツヴァイ
「リン?」
そう言うカガリさんの言葉に覇気は感じられませんでした。
やはりどこか気落ちしているようです。
「どうしたのですか?大丈夫ですか?」
だからこそ私はそんな当たり障りのない言葉を2人にかけます。
それを聞いてユキさんは泣きそうな顔をしました。
「リンさん………。」
「本当にどうしましたか?」
彼女たちがこれほどの顔をするのはよほどのことだろうと私は察しました。
私はラインハルトさんたちに視線を送ると彼らも察してくれたのか頷き返してくれました。
そして、彼女たちが落ち着くのを待って話を聞くことにします。
最初、カガリさんたちはそのことを話そうとはしませんでした。
しかし、私たちが必死に説得することで、ぽつりぽつりと話をし始めたのでした。
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カガリさんとユキさんの話を聞いて私は胸の内に湧き出すものを我慢できませんでした。
「ラインハルトさん、申し訳ありません。本日の狩りはキャンセルでもいいですか?」
だからこそ自然とその言葉が出てきました。
ラインハルトさんが心配そうな表情をして口を開きます。
「良いけど。どうするんだい?」
「決まっています。カガリさんとユキさんをこんな目に合わせた連中に報いを受けさせます。」
私はその怒りに任せて今すぐにでもPK達を嬲り殺しにしてやりたいという気持ちに支配されていたのです。
「なるほど。それなら今回は武器の試し切りのためにフィールドに行こうという話だっただろう?それをこの町でこなすのはどうだろうか?」
ラインハルトさんはちょっとそこまで買い物に行こうかと言う乗りでそんなことを口にしました。
「つまり、PK達で試し切りするということですね?」
「そう言うことさ。ハーロウもいいかな?」
「もちろんだとも。」
その言葉を聞いて納得します。
ラインハルトさんもハーロウさんも腸が煮えくり返る思いをしているのでしょう。
だからこそこんな意見が出てくるのだと思います。
「え?どうして?」
私たち3人の会話から何をしようとしているのか理解したカガリさんがそう口にしました。
「どうして私たちのためにそこまでしてくれるの?」
その質問に私たちは顔を見合わせます。
そんなの決まっています。
「別にカガリさんたちのためではありません。私が気に入らないからです。」
「え?」
「そうだね。魔物系だからって迫害するプレイヤー。そんなプレイヤーは気に入らない。だから排除する。それだけだね。」
私の発言をラインハルトさんが補足してくれます。
その通りなのです。
ただ自分が気に入らないと思うから排除します。
誰かを害するときにその理由を他者に押し付けるのは失礼です。
だから私はPKを誅する理由をカガリさんたちに求めません。
私自身の気持ちの問題だと捉えるのです。
「そうと決まれば、さっそく作戦を考えよう。」
「そうですね。私は先ほどのカガリさんたちの話から犯人に心当たりがあるのですがハーロウさんはどうですか?」
「ああ、私にも心当たりがある。おそらくは以前リンさんが誅した連中の仲間だろう。」
「なるほど、敵が分かっているのならやりやすいね。まずは………。」
そう言いながら私たちはPKを殺す算段を立てていきました。
その話をする3人の表情は怪しい笑みを浮かべていたことでしょう。
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>>Side:PKプレイヤー
「はははは。ああ、可笑しかったなあの魔物。」
「ええ、間抜けな最後だったわね。」
俺たちはそんな話をしながらツヴァイの酒場でたむろしていた。
つい先ほど幽霊と火の玉の見た目をした魔物プレイヤーを殺して上機嫌でいたのだ。
「おまえたちもありがとうな。」
「良いってことよ。同じ魔物狩りの仲間じゃないか。」
気の置けない仲間とともに魔物を狩る日々は有り体に言って充実した毎日であった。
先日は意味の分からんスライムに殺されたがその鬱憤が晴れる思いだった。
「次はどうするよ?」
「また、魔物プレイヤー探して殺すか?」
「いや、そろそろドライ目指さないか?」
「それもいいかもな。」
17人の集団になると誰が何を喋っているか把握するのが難しい。
皆好き好きに会話する。
その会話を聞き流しながら俺も次の行動を頭に思い描くのだった。
そんな時だった………。
―バタン
突然酒場の扉が開かれた。
まあ、酒場なのだから来客があったのだろうと思いながらそちらを見るとそこには全身鎧の騎士が立っていた。
あんな装備をしているのは珍しいなと思っていたその時だった。
「ぎゃああああああああああああ!!」
突然仲間の1人が悲鳴を上げた。
驚き視線を向けると巨大なスライムに飲み込まれているではないか。
「な、何なんだおまえは?」
仲間が吠えるもそれに返答はない。
飲み込まれた仲間は数秒も持たずに光のかけらへと姿を変えてしまった。
それを確認したスライムはすぐさま近くにいる男に襲い掛かった。
「く、来るな!!」
そいつは必死に手を振るうもスライムを止めることはできない。
人の身の丈を飲み込むほどに大きく膨れ上がったスライムは瞬く間にその男を飲み込んだ。
しかし、それで終わらなかった。
体の内に男を抱えたままスライムはその席にいる他の3人も次々に飲み込んでいったのだ。
「や、やめろー!!」
「助けてくれぇえええええ!!」
「嫌、嫌よぉおおお!!」
瞬く間に飲み込まれていく俺の仲間たちは断末魔の叫び声をあげて光のかけらへと姿を変えた。
事ここに至って思い至る。
こいつは敵だ。
恐らくはあの時俺たちを殺したスライムなんだ!!
「武器を取れ!!殺すぞ!!」
俺は壁にインベントリから愛用している鉄の大剣を取り出してそう号令をかけた。
残った仲間たちもその号令を聞いて皆思い思いに武器を取り出す。
しかし、悠長に武器を取り出すことをそのスライムは待ってはくれなかった。
俺たちの戦闘準備が整うまでにさらに4人がスライムに飲み込まれて光となって消えてしまったのだ。
「畜生!!囲め!!」
残り8人となった俺たちは皆でそのスライムを包囲した。
それを見たスライムはどこからナイフを取り出してそれを構えた。
「やっぱり、あの時のスライムか!?」
俺のその言葉に返答はない。
スライムは素早く動くと仲間の1人に接敵した。
接敵された仲間は必死に剣を振るうもそれがスライムをとらえることは無かった。
すぐさま飲み込まれ身動きが取れなくなる。
「皆攻撃しろ!!」
俺はそう口にして自分も大剣を上段から振り下ろす。
スライムに取り込まれた仲間もろともスライムを切り殺してやろうという魂胆だ。
しかし、俺の行動は遅かったのか、大剣が仲間を切り裂いたときにその場にスライムはいなかった。
「ぎゃあああああ!!」
「痛い!!」
悲鳴の上がった方向に急ぎ目を向けるとそこにはナイフで目や腕を切り裂かれた仲間がいた。
スライムは店の中を縦横無尽に動き的確に仲間たちの戦力を奪っていく。
あるものは目を抉られ、あるものは喉を裂かれて、あるものは腕を切り裂かれていた。
それにより俺たちが武器を振るうこと、魔法を唱えることをできなくしているのだ。
時間にして数秒の出来事だった。
今やこの店の中で無事なのは自分1人となってしまった。
スライムはゆっくりと俺に近づくとその巨体でもって俺を飲み込んだ。
俺は必死にもがくもスライムのSTRの方が高いのか体はピクリとも動かなかった。
そして、肺にたまった空気を押し出す様に体が圧迫される。
次第にミシミシと骨がきしむ音が聞こえてきた。
全身が痛みを訴える。
―バキ、バキバキ
骨が折れる音が聞こえた。
全身の痛みがより強くなった。
悲鳴を上げようにも俺の肺には空気が残っていなかった。
折れた骨が内臓を傷つけたのか口の中に血がたまってきた。
気持ち悪さと痛みを感じながら俺の意識は薄れていった。
そしてついには光のかけらとなって虚空へと消えるのであった。
>>Side:PKプレイヤー End
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「終わりました。」
私は酒場でたむろしていた最後のPKを殺してそう口にしました。
「すみません。あまりに弱くて全部私がやってしまいました。」
私は一部始終を見ていたラインハルトさんにそう言いました。
彼はそれを聞きながら肩をすくめて口を開きます。
「おいおい、まだ終わりではないよ。」
「え?まだ何かすることがありますか?」
「何のためにハーロウは教会前に行っているんだい?」
そう。
ここにいないハーロウさんそしてカガリさんとユキさんは教会前に行ってもらっていました。
それはラインハルトさんとハーロウさんが立てた作戦故だったのは覚えているがその詳細までは教えてもらっていませんでした。
「何のためですか?」
だからこそ私は正直にそう聞くのでした。
「それは当然リスキルするためさ。」
「リスキルですか?それは何ですか?」
「リスポーンキルの略称だね。つまりは教会で復活したPK連中を再度殺そうという話さ。」
何でもないことのようにそう口にするラインハルトさんを見て私は少し恐ろしいと感じるのでした。
しかし、PK達がしたことを思えばそれだけの報いを受けさせるのは当然だろうという気持ちもありました。
だからこそ私は内心でほくそ笑んでいるのでした。
PK達に訪れるであろう悲劇を思って。
「早いとこ教会に行かないとハーロウが全部終わらせかねない。そうしたらせっかく新調した武器の試し切りができなくなってしまうよ。」
そう言ってラインハルトさんは私を急かします。
私は言われるがままにラインハルトさんとともに教会前に行くのでした。
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教会前は壮絶な状況となっていました。
ハーロウさんが死霊魔法で召喚したスケルトンたちがPKを蹂躙しています。
時折、火の魔法を飛ばしているのはカガリさんなのでしょうか?
彼女も自分の手でPKに仕返しができて喜んでいると思います。
「やあやあ、やっているね。」
そんなところにラインハルトさんが軽い挨拶をしながら入って行きました。
「ラインハルト。そっちはどうだった?」
「いやぁ、リンちゃんが全部やっちゃって僕の出番はなかったよ。」
「ははは。それは災難でしたね。こちらは始めたばかりですので、この町の衛兵が駆けつけるまではまだ時間がかかるでしょう。今ならまだ試し切りができますよ。」
「うん。そうするよ。」
ラインハルトさんはそう言うと剣を引き抜きPK達に向かって駆け出して行きました。
私はあまりにもな惨状にどう手を出したものかと悩んでいました。
そんな時だった………。
「リンさん。」
「ん?ああ、ユキさん。どうかしましたか?」
「いえ………。ありがとうございます。」
そう口にしたユキさんの表情は晴れやかでありました。
だからこそ私も朗らかな気持ちで答えるのでした。
「どういたしまして。………ふふふ。」
「ふふふ。」
そして2人して笑いあうのでした。
何が可笑しかったわけではないが自然と笑いがこみ上げてきました。
そんなことをしていると不意にハーロウさんが声を上げました。
「衛兵です!!引き揚げましょう!!」
「おう。いつもの路地裏で良いか?」
「はいそこでいいでしょう。カガリさん、ユキさん遅れずについてきてください。」
ハーロウさんとラインハルトさんがそう口にして皆それぞれが逃げ出しました。
この時の私の胸の内はやはり晴れやかなものでありました。
爽快な気分を堪能しながら私は人混みの中へと消えていくのでした。
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