2-5
◆ツヴァイ近くの鉱山
ツヴァイの路地裏でミケルさんとラインハルトさんと出会って数日があったある日。
私はツヴァイ近くの鉱山を訪れていました。
特別な目的があってきていたわけではありません。
単にレベル上げや素材の収集をしようと思っていただけです。
それ自体はどこでもできます。
ツヴァイの近くの狩場は大きく分けて3種類に分かれます。
草原、森、そしてこの鉱山です。
私はツヴァイに到着してからずっと草原をメインの狩場として利用していました。
しかし、それも飽きてきてしまっていました。
数日間同じモンスターの相手ばかりしていたのです。
当たり前でと言えるでしょう。
だからと言うわけではないが気分を変えて鉱山に来てみたのです。
鉱山の中は狭い坑道が続いていました。
その中には蝙蝠や蜘蛛と言った小型のモンスターが闊歩していたのです。
私はそれらを危なげなく討伐しつつ奥へ奥へと進んでいきました。
「それにしてもスライムの目は便利ね。」
坑道の中は当然真っ暗闇です。
それにもかかわらず私は明かりなしで問題なく活動できていました。
それもこれもスライムの目のおかげです。
と言ってもスライムに目と呼ばれる器官があるわけではありません。
単にそれに類する機能が優れているという話です。
「どういう理屈なのでしょう?」
その原理は私には想像もつきませんでした。
しかし、確かに周りの様子がはっきりと見えるのでした。
それも暗視ゴーグルのような色彩が失われた映像としてではなく、しっかりと色までも判別することができています。
その事を不思議に思いながらも私は奥へ奥へと進んでいくのでした。
--
「あれ?行き止まりでしょうか?」
奥へと進む私の目の前に現れたのは崩落した坑道でした。
どうやら天井が崩れてしまったようです。
崩れ落ちてきた岩盤は完全に道を塞いでおり、この先に進むのは不可能でしょう。
普通の人間ならば………。
「スライムの体なら隙間から行けそうね。」
そう言って私は体をくねらせて隙間へと入り込んでいきました。
そのままどんどんと奥へ進んでいきます。
流石に崩落した岩盤の中にまでモンスターは湧かないため戦闘なしで進むことができました。
私はワクワクと沸き立つ気持ちを抑えられませんでした。
--
………長い。
崩落した岩盤を抜けようと岩と岩の隙間を進み続けてかれこれ30分はたちました。
体感で1、2kmは進んでいるような気がします。
しかし、一向に無事な坑道に出ません。
それどころか行き止まりにたどり着くことさえありませんでした。
「ここまで来て引き返すのは嫌ですね。」
こうなったもう根気の問題でした。
私は絶対に何か成果を持ち帰りますと意気込んでさらに奥へと進んでいくのでした。
--
「やっと、道に出ました………。」
都合1時間ほどの道のりを経て私はようやく崩落していない坑道に出ることができました。
そこは一見して今まで進んできた坑道と違いは分かりませんでした。
私はその場所を探索するために歩き出します。
しばらく歩いたところ魔物の姿は見当たりませんでした。
一方で採取ポイント、この場合は鉱石の採掘場所は何か所か見つけることができました。
私はそのうちの1つの前に陣取りつるはしを振り下ろしました。
―カン、カン。
つるはしで坑道を掘り進める音が響きます。
しばらく続けるとゴロゴロと壁が崩れました。
その中から鉱石をより分けていきます。
ミスリル鉱石。
そのアイテムはそう表示されていました。
「え?この鉱山って錫、銅、鉄が取れるんじゃありませんでしたっけ?」
私はその結果に驚いていました。
ミスリルと言えばファンタジー金属の代表格です。
そんなものがこの鉱山からとれるとは聞いていなかったからです。
しかも、ミスリル鉱石はその1個ではありませんでした。
今しがた採掘した鉱石の中の殆どがミスリル鉱石なのです。
それを見て私はこの鉱山がミスリル鉱床なのだと気が付きました。
「きっとこれって珍しい鉱石ですよね?なら沢山集めないと。」
私はその後目につく採掘ポイントで鉱石を取りつくしていきました。
インベントリ一杯のミスリル鉱石を手に入れてほくほく顔で私はさらに奥へと進む道を進んでいきます。
--
「これはなんでしょう?」
ミスリルが取れた場所からそれほど遠くない場所で私は坑道の壁に突如現れた扉を前にして立ち尽くしていました。
普通の扉、例えば木でできた扉であればこんなふうに迷うことはなかったでしょう。
しかし、その扉は近代的な機械の扉であったのです。
扉の上部には何やらセンサーらしきものが付いていることからおそらくは自動ドアでしょう。
その扉を前にして私は入るか無視するかを迷っていました。
「でも、せっかく来たのならば全部見ておきたいですね。」
ここまで時間をかけてきたのです。
それならばこの扉の向こうに危険があるとしてもそれを見ておきたいと思うのでした。
私は意を決して扉に一歩近づきました。
―プシュー
空気が抜けるような音とともに扉が横にスライドしました。
中はこれまた近代的な部屋となっていました。
壁や天井は金属なのか樹脂なのか分からない素材で作られていました。
部屋の中には多くの棚や机が置かれており、その中にはフラスコやビーカーと言った化学器材や何に使うか分からない機械、それと数多くの本や紙と言った資料が置かれていました。
そして部屋の奥にはさらに奥に進むための扉が設置されていました。
部屋の様子から長らく放置されていたことが見て取れました。
私は机の上に置かれた機械に目を向けます。
その機械は壁に駆けられたディスプレイのようなものとケーブルで繋げられており、その本体の上には何かを置くための台座のようなものがありました。
「いったい何の機械なんでしょう?」
私はそんな疑問を口にするも答えてくれる人はいませんでした。
仕方なく私は残されていた本や資料に目を向けました。
それらの資料の多くは経年劣化で文字が擦れて読めなくなってしまっていました。
しかし、それでもいくつかの資料は読むことができたので私はそれに目を通すことにしました。
--
ミスリル通称魔法銀の安定供給を目指した採掘プロジェクトの概要
ミスリルは現在****の北部でしか採掘が確*****ない。
その*******の採掘量としては多い**の全体の需要***すものではない。
そこでアル**島北部にあ***にてミ**ル鉱石を採掘する計***こに提案する。
ご存じの通り*****北部にある鉱山では錫、銅、鉄、銀と少量の****るのみである。
当然、このままではミスリルは採掘できない。
そこで我**********鉱床に手を加えて人工的にミスリル鉱床を生み出す*********する。
本実験は「銀鉱石を人工的にミスリル鉱石に***る魔法*****文」に基づいた大規模実験であり、その効果は大いに期待できるものである。
本プロジェクトが*******リルの安定供給が実現*****をお約束いたしましょう。
--
虫食いだらけの資料ではあったが何とか分かったのはどこかの鉱山………おそらくこの鉱山で銀鉱石からミスリル鉱石を生み出す実験がされていたということです。
つまり私が手に入れたミスリル鉱石は人工的なものであるということです。
しかしそれでもアイテムの表示はミスリル鉱石と出ていました。
だから、この資料は直接的にゲームシステムに関わりないフレーバー的なものではないかと思います。
私はその資料を置いて次の資料に目を向けるのでした。
--
神に至る*********る論文
過********石をミスリル鉱石に変**************ご存じのとおりである。
この変換魔法は単純に*******るのではなく**********きものを上位の者へ押し上げることができる。
これを生物に使用した場合その生物は進化の法則を無視して上位の******************。
仮に生物としての限界に至った***************のは神に至る可能性があ******。
--
今度の資料は先ほどの資料よりも読めない箇所が多いです。
辛うじてわかるのは何かしらの魔法を持って神になろうとしたということでしょう。
ミスリルと言う単語が出てくることと、ここに資料がまとめられていたことからおそらくは銀をミスリルに変換するときに使用する魔法で紙になろうとしたのでしょうか?
神に至るためには生物としての限界に至ったものにその魔法を使うと言うことかしらね。
生物としての限界とはレベル上限と言うことでしょうか?
どちらにしろこの資料だけではわかりようがないですね。
私はその資料を置いて次の資料に目を向けました。
--
永遠を生きる方法
生物の肉体は必ずどこかでその限界を迎える。
それは細胞の分裂数に制限があるからだ。
その分裂数を越えて細胞が増えることは無い。
しかし、我々はその細胞の分裂を抑制する薬を作成することに成功した。
本薬液に生物を浸すことで生物の寿命を延ばすことができるのではないかと考えた。
結論から言うと実験はうまくいかなかった。
生物の全身を浸しても必ず体のどこかに薬液が行きわたらずにそこから壊死し始めるのだ。
ならばと我々は考えを変えた。
生物にとって必要な臓器だけを取り出してそれだけを薬液に浸せばいいのではないか?
生物にとって最も重要な臓器は脳だ。
脳を取り出し他の生命維持を機械に任せたうえで薬液に浸すことでその生物の寿命を飛躍的に伸ばすことに成功した。
理論上は半永久的に寿命を維持することができる。
--
次の資料は全く欠損がありませんでした。
しかし、永遠を生きる方法と題されたその資料は軽く見ただけでも異常だとわかることが書かれていました。
脳だけを取り出して生かす方法。
しかも、この書き方ではそれを生物に対して行っているではないですか。
ネズミや猿で試しているならいいですが、もし人間に対しても行っていると考えると身の毛もよだつような思いをしてしまいます。
それよりも考えるべきは何故この資料がここにあるかについてです。
先ほどまでは何となくこの鉱山に関連しそうな資料でしたが、この資料だけは鉱山と何も関係がありません。
だからこそ私は余計に不気味に感じていました。
もしかして、まだ見ていないだけでこんなことをする人がいるのではないでしょうか?
そんな恐怖に怯えながら私はその資料を置いて次の資料に目を向けます。
--
結論から言うとあれ以降意味のある資料は見当たりませんでした。
多くの資料や本はすでに読めないほどに風化しているかもしくは私には分からない言語で書かれていました。
そのため資料を調べるのをやめて私は部屋の奥に行く扉の前に来ていました。
何か嫌な予感がするが、ここまで来て見ないで帰るのはもったい無い気がします。
だからこそ私はその扉に1歩歩み寄るのでした。
―シュー
空気の抜けるような音とともに扉が横にスライドします。
私は意を決して部屋の中へと入って行きました。
よろしければブックマーク登録と評価をお願いいたします<(_ _)>