2-1
◆アイン=ツヴァイ街道 ボスエリア
「がぁああああああああああ!!」
私の目の前にはツヴァイに至るためのフィールドボスが元気よく吠えています。
大型の狼ボスです。
名前は確か………グレートハードウルフリーダー。
リーダーの名前が示す通り周りにはグレートハードウルフが群れなしていました。
私はそのボスエリアに1人で来ていました。
目的は、当然ツヴァイに行くためです。
臨戦態勢を整えたウルフたちが私目掛けて駆けてきます。
それを私は絶妙な動きで回避します。
スライムのゼリー状の体を駆使して不規則に流動的に動きます。
すれ違いざまにナイフを振るうことを忘れません。
ハードウルフの名の通り硬い体毛を持っているが全く攻撃が効かないということはありませんでした。
私の攻撃は狼たちの体に少しずつ傷を増やしていきます。
1匹、また1匹と地に倒れ伏します。
私はそれを見ながらほくそ笑むのでした。
まだまだ余裕がありました。
遂にボスのグレートハードウルフリーダーと一騎打ちになります。
「さて、行きます!」
返答を期待して言葉にしたわけではありません。
上がりきったテンションがそうさせたのです。
私は高揚感に任せて地を駆けます。
ウルフリーダーもそれに合わせて動きます。
流石に周りに群れていた雑兵とはわけが違いました。
ウルフリーダーの攻撃は鋭く、そして早かったのです。
油断していた私はその攻撃を受けてしまいHPを削ります。
しかし、まだまだ安全圏です。
スライムの膨大なHPと頑強な体に感謝しつつ気を引き締めます。
再び地を蹴ってウルフリーダーに近寄ります。
それに合わせてウルフリーダーは攻撃を振るうも油断していなければどうと言うことはありません。
私は危なげなくその攻撃を避けました。
「さて、私の方からも行きますよ!」
そう宣言して私はウルフリーダーに飛び乗ります。
そして装備していたナイフを突き刺します。
「ぎゃぁあああああああああああああ!!」
痛みからウルフリーダーが叫び声をあげます。
たまらず体を振るって私を振り落とそうとします。
しかし、しっかりと胴体に張り付いたスライムをはがすことなどできません。
私は力いっぱいウルフリーダーの体にしがみつき、何度も何度もナイフを突き立てました。
ウルフリーダーが地面に体を擦りつけるようにして私をはがそうとしまう。
流石にウルフリーダーと地面で挟まれてはたまらないと私はその前に飛びのきました。
ウルフリーダーと対面する形で地に立ちます。
ウルフリーダーは爛々と血走らせた目を向けてきます。
その目を見据えながらナイフを構えます。
次の瞬間ウルフリーダーが動きました。
前足を大きく掲げて私目掛けて飛びかかります。
私はそれを左に飛んで避けました。
―ドン
先ほどまで私がいた場所にウルフリーダーが着地します。
瞬間、轟音を伴って強い衝撃が地面を襲います。
どうやら力いっぱい地面を殴ったようです。
私はそれを見ながら、ウルフリーダーに再び飛び乗ります。
そしてナイフでもってその首を引き裂きます。
「ぎゃうぁあああああああああ!!」
鮮血とともに絶叫を上げるウルフリーダーを見下ろしながら何度も何度もナイフを振るいます。
遂にウルフリーダーのHPを0にしたのでしょう。
断末魔を上げながらウルフリーダーは地面に倒れ伏し、光のかけらとなって虚空へと溶けていきました。
<フィールドボス「グレートハードウルフリーダー」を討伐しました。アイン=ツヴァイ間の街道が使用可能となりました。>
そのシステムメッセージを確認して私は達成感とともにボスエリアを後にするのでした。
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ツヴァイの町にたどり着いた私はアインの町との違いに目を丸くしていました。
街並みに大きな違いはありません。
しかし、町の中央広場には多くの露店が軒を連ねていたのでした。
それらは遠目からもプレイヤーのものであることが分かりました。
きっと彼らがここを拠点とする生産系のプレイヤーなのでしょう。
私はそんなことを考えながらその露店を眺めていました。
そんな時不意に声がかかります。
「おい、何でこんなところにスライムがいるんだよ?」
何処かで聞いたようなセリフです。
振り向くとそこには見知らぬプレイヤーが立っていました。
それも3人組です。
1人は大きな剣を背中に担いでいる男です。
所謂、大剣使いと言う奴でしょうか?
もう1人は腰に剣を佩き、盾を手に持った男でした。
最後の1人は女性プレイヤーです。
彼女は杖を持っていることから魔法使いなのでしょう。
私がそんな彼らを見ていると再び大剣使いの男が口を開きました。
「おい、聞こえてんのか?なんでこんなところにスライムがいるんだよ?」
「そうよ、魔物は町に入ってくるんじゃないわよ。」
大剣使いの彼の言葉を魔法使いの女がそう強調します。
ああ、いわゆる魔物系プレイヤーに対するいじめなのでしょう。
私は馬鹿らしいと思いながら口を開くのでした。
「魔物プレイヤーに会うのが嫌ならばあなた達が町から出ていけばいいのですよ。」
「何だとおまえ!?」
私のその言葉を聞いて大剣使いは顔を真っ赤にしまう。
いや、沸点低すぎませんか?
「何って当然のことではありませんか?気に入らないならあなた達が出て行ってください。いえ、町から出る必要はありません。今すぐこのゲームを止めてください。魔物系が認められないというのならそう言ったプレイヤーのいないゲームをするべきです。」
「な!?」
「何よそれ!!偉そうにして!?」
言葉が出ない大剣使いに変わって魔法使いの女がそう言いました。
偉そうも何も当然のことだと思うのですが………
どうでもいいけど盾使いの彼は我関せずを貫いていますね。
興味が無いのでしょうか?
「偉そうも何も当然のことではありませんか?魔物系プレイヤーがいるというのはシステムに認められているということです。それをさも悪しきことのように言うのはやめてください。」
「だからそれが偉そうだと言っているのよ。魔物系なんて気持ち悪いの選んでいる時点であなた達が悪いに決まっているでしょう?」
この辺の会話はどこまで行っても平行線だというのは今までの経験からわかっていました。
だからと言ってここで無視してもなんだかんだと粘着してくるのは目に見えています。
どうにか黙らせる手立てはないものでしょうか………。
「そこの盾使いさん。あなたはこれの仲間なのでしょうか?」
「これとは何よ!?」
「………そうだ。」
私の言葉に魔法使いが噛みついてくるがそれを無視して盾使いに話しかけます。
「あなたは冷静だから分かっていると思いますが彼と彼女の言い分は可笑しいですよね?」
「………俺はどうでもいい。魔物を悪しく言うつもりはないが、個人がどう思うかまでは干渉しない。」
「はぁ、大人な意見ありがとうございます。でも、無責任ですよ。仲間が他人に迷惑かけているなら窘めてあげてください。」
「それこそ意見に相違があるな。人間は多かれ少なかれ他人に迷惑をかけるものだ。すべてを注意していてはきりが無い。」
「はぁー。」
駄目ですね。
こっちはこっちでダメ人間です。
頭硬そうだしこちらから説得するのは無理ですね。
私は再び大剣使いと魔法使いに向き直ります。
………ツヴァイにいるレベルならいけるでしょうか?
「穏便に済ませるのはやめましょう。あなた達を黙らせることにします。」
私はそう言うと目の前の3人組相手に決闘を申請しました。
ルールはもちろん全損です。
それを見た3人は驚きの表情を見せました。
まさかここまでするとは思っていなかったのでしょうか。
それとも全損ルールに怖気づいたでしょうか。
そこまでは分からないが私は彼らが逃げないようにさらに釘を打ちます。
「受けないとは言わせませんよ。受けない場合はあなた達が油断しているときにPKします。フィールドでいつ襲われるかびくびくするよりはここで決着つけてしまった方が良いですよね?」
私の言葉を聞いた3人組は思い思いの表情を見せました。
顔を真っ赤にして激昂するもの、真っ青にして怯えるもの、眉をひそめて冷静に悩むもの。
三者三様のその様を見て私は内心で笑うのでした。
「いいぜ!!その挑戦受けてやろうじゃないか!!」
大剣使いの男がそう声高に言います。
「ちょっと、でも今は………。」
それを魔法使いの女が小声で制します。
盾使いの男は腕を組んで成り行きを見守っていました。
「大丈夫だ。相手は雑魚のスライム1匹。負けるわけがないだろ?」
「そうかもしれないけど。」
私はその様子を見ながら口を開きました。
「いいから承諾してください。それともスライムに逃げる冒険者として周知されたいのですか?」
そう言って私は周りを見るように言います。
既に騒動を聞きつけた他のプレイヤーが周りを取り囲んでいました。
それを見た魔法使いの女は逃げられないことを悟ったようです。
決心したような目でこちらを睨んできました。
「よっしゃ!!」
大剣使いの彼が決闘の承諾をします。
決闘開始のカウントダウンが始まりました。
私はナイフを取り出して構えます。
対する3人も武器を構え陣形を取ります。
前に盾使いの男が出てきて、その後ろに大剣使いの男、さらに後ろに魔法使いの女がいます。
まずは攻撃力のある大剣使いから無力化しましょうか………。
カウントが0になると同時に私は駆け出しました。
盾使いの男が盾を構えて突っ込んできましたがそれを避けて後ろの大剣使いに接敵します。
「おら!!死ね!!」
大剣使いの男が大剣を振るいました。
そんな直線的な攻撃に当たるわけがありません。
私は難なく回避するとすぐさま大剣使いの体をよじ登りいつもと同じく目、そして喉にナイフを突き立てました。
いつもと違うのはその攻撃だけで大剣使いが光のかけらとなってしまったことでした。
弱い?
そんなにレベルが低いのでしょうか?
そう思い彼らの装備を見てるもどう見ても初心者装備をいまだに使っている私よりも上等なものでした。
恐らくはビッグスライムとなったことで攻撃力が上がったのが原因でしょう。
悪いことではありません。
私はすぐにその思考を止めて次の獲物………魔法使いの女に近寄りました。
「やらせない!!」
しかし、そこにインターセプトが入ります。
盾使いの男です。
彼は私と魔法使いの女の間に入ると私に向けて盾を突きつけてきました。
うん。
彼は意外と動きがいいかもしれません。
私は盾使いの男を抜いて魔法使いの女に近寄ることができないでいました。
しかし、私と盾使いの男が近づいているからか魔法使いの女から魔法が飛んでくる気配はありませんでした。
ならば態々狙う必要もありません。
「何をする。」
私は盾使いの男に張り付いて体をよじ登ります。
両手に剣と盾を持っている盾使いの男はそれを防ぐ手立てがありませんでした。
すぐさま肩までたどり着くと私は再び目を狙ってナイフを振るいました。
その攻撃は深々と盾使いの男の顔を切り裂いたのです。
「ぐぁあああああああああ!!」
続けざまに喉を何度も切り裂きます。
急所への攻撃は盾使いの男のHPを大きく削っていきます。
しかし、大剣使いよりもHPも防御力も高い盾使いの男はそれだけでは倒れませんでした。
とっさに剣を手放して私を引きはがそうと手を伸ばしてきました。
私は飛びのいてそれを避けます。
地に着地した私は【縮小化】を解いて元の大きさに戻りました。
そしてビッグスライムの巨体を生かして盾使いの男に体当たりを仕掛けました。
吹き飛ばされた盾使いの男は地面に打ち付けられそのダメージが原因となって光のかけらへと姿を変えてしまいました。
これで残りは魔法使いの女だけでした。
「い、嫌だ!!こないで!!」
私は素早く魔法使いの女に近寄るとスライムの体を広げて彼女を飲み込むように包み込んでしまいました。
そしてゆっくりと消化していきます。
スライムの体に取り込まれた魔法使いの女は息ができず苦しいのかもがいています。
しかし、その行為は無駄に終わります。
彼女の力では私の体から逃げ出すことができなかったのです。
しばらくすると動きを止め、光のかけらとなって消えていきました。
システムメッセージが私の勝利を伝えます。
私はそれを聞きながら虚しさを感じているのでした。
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