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8-18


◆ゼクス


「エスペランサさん、いらっしゃいますか?」


プレイヤーキラーを撃退した私はその足で領主館の書庫を訪れました。

目的はもちろん魔導書をエスペランサさんに見ていただくためです。

物静かな書庫の中をうきょろきょろと眺めながら奥へと進みます。

エスペランサさんは書庫の一番奥で静かに本を読んでいました。


「ん?リン殿か。」


私の姿を視界にとらえたエスペランサさんは読んでいた本を閉じて口を開きました。


「ずいぶんと遅かったな。何かあったのか?」


「はい。道中プレイヤーキラーに襲われました。それで遅くなってしまいました。」


私の返答にエスペランサさんは驚いたような表情をします。


「プレイヤーキラーとは物騒だな。町中で襲われたのか?」


「はい。」


「と言うと近頃噂になっているやつか?」


「多分そうだと思います。」


私は返答しながら考えます。

プレイヤーキラーはプレイヤーの持つ金銭やアイテムを狙っています。

町中にいるようなプレイヤーはそう言ったものをギルドに預けているためプレイヤーキラーの狙いからは外れてしまいます。

そのため町中でPKをしてもうまみが無いのです。

だからこそ町中で襲うようなプレイヤーキラーがそう何人もいるとは思えません。

私を襲ってきたプレイヤーキラーは噂になっている人なのでしょう。


「何にしろ無事なのだな?」


「はい。プレイヤーキラーは撃退いたしました。」


「流石だな。」


エスペランサさんはそう言うと安心したと示す様に目を伏せました。

そして一拍置いて私に向き直り口を開きます。


「さて、さっそくで悪いが私を訪ねてきた用件の方を聞いてもいいかな?事前にメッセージでも聞いていたが改めて教えてくれ。」


「はい。実は………。」


私はエスペランサさんに事の次第を説明いたしました。

ゼクス近くの鉱山で崩落した下層の先に行ったこと。

そこに身元の分からぬ白骨死体があったこと。

その白骨死体が本を持っていたこと。

そして、その本が魔導書であったこと。

全て話終えるまでエスペランサさんは静かに聞いていてくれました。


「………申し訳ありませんが、この魔導書の翻訳をお願いしてもいいでしょうか?」


「うむ、それはこちらとしても願ってもないことだ。是非とも翻訳させてほしい。」


私の依頼をエスペランサさんは快諾してくれました。

私はそれにほっと胸を撫でおろします。


「そう言えばその魔導書のタイトルは分かっているのか?」


「はい、エイボンの書です。」


「………それはまた、なんというか。危険な魔導書だな。」


「………そうですね。」


私はエスペランサさんに魔導書を受け渡しその場を後にしました。

どのような魔法が記されているのか。

今から楽しみです。


--


「さて、どうしましょうか?」


エスペランサさんに魔導書を預けた私は領主館を出て町を歩いていました。

特に目的があるわけではありません。

ログアウトするには少し早くそして外に出るには少なすぎる時間であったためこうして途方に暮れているのです。

町の中は活気に満ちていました。

私たちがゼクスの町を手に入れる前からこの町は多くの冒険者であふれていましたが今でもそれは変わりありません。

領主を殺して奪ったとあってNPCの住民は多少減りはしましたがその分プレイヤーの人数が増えました。

それは戦争に勝利した以降特に顕著です。


「ガラの悪いプレイヤーも多くいますがそれでも私が嫌いなプレイヤーは少ないのは良いですね。」


そう。

アルカディアの盟主である私が魔物系プレイヤーであることは広く知れ渡っています。

だからこそ魔物系プレイヤー排斥をうたうプレイヤーがこの町には少ないのです。

それは素直に喜ばしいことだと思います。


「できることならこの町だけではなく他の町もそうであってほしいものです。」


数は少ないですが魔物系プレイヤーは私たち以外にもいます。

彼らのすべてがゼクスにいるわけではありません。

そんな魔物系プレイヤーがまっとうにこのゲームを楽しめるように他の町もこのゼクスと同じようにあってほしいものだと私は願います。

そんなことを考えながら私は町の中を一人歩いていました。


「さて、次は中央広場の方でも見に行ってみましょうか。」


そんな時でした。


「あ、いたいた。おーい。」


私の背後からそんな声が聞こえました。

聞きなれない男性の声でした。

徳に心当たりがあったわけではありませんが私はその声のする方に視線を向けました。


「見つけた、見つけた。」


その声の主は薄い金色の髪をした男性でした。

彼の綺麗な青色の瞳は私を捕えています。

しかし、やはりその男性に心当たりはありませんでした。

私が首を傾げながら頭を悩ませていると男性が私の目の前まで来て口を開きました。


「探したよ。」


「えっと、どちら様ですか?」


男性の言葉からどうやら私に用があるようです。

しかし、私は彼のことを全く知らなかったためにそう言葉を返しました。


「分からなくても当然かな。どうも初めましてリオネオと言います。さっき君と殺し合ったプレイヤーキラーさ。」


リオネオさんのその言葉を聞いて私は一瞬考え込みます。

一拍間をおいて私は彼と距離をとり短剣の柄に手を添えました。


「何が目的ですか!?」


私は語気を強めて問い詰めます。

そんな私に対してリオネオさんは両手を上げて敵意が無い旨を示ししながら口を開きました。


「別に報復に来たとかじゃないから安心して。」


「………。」


確かにリオネオさんからは敵意は感じられませんでした。

私は姿勢を正して改めて問いかけます。


「何の用ですか?」


私の態度が変わったことに気を良くしたのかリオネオさんは笑みを浮かべながら答えます。


「うん。プレイヤーキラーを長く続けているけど負けるなんて初めての経験でね。それで、この気持ちを抑えられずに君のもとに来たんだ。」


「はぁ、負けたのに嬉しそうですね。」


「いや、負けたことは素直に悔しいよ。でもそれ以上に自分よりも強いプレイヤーがいることが嬉しくて仕方がないのさ。」


リオネオさんは変わらず笑みを浮かべています。

その言葉に嘘はないことは確かです。


「ここ最近は目的もなく淡々と戦い続けていたからね。少し味気なかったんだ。でも、それも今日までさ。今日からは君の強さを目指して自分を鍛えなおすつもりさ。」


「………それはまた私を狙うという宣言ですか?」


「今すぐにってわけじゃないけど再戦してもらえたら嬉しいな。」


屈託なくそう言うリオネオさんは無邪気で子供の用でした。

その表情を見て毒気を抜かれてしまいます。

しかし、また私をPKするぞと言う彼の言葉を見過ごすことはできません。


「出来ればPK以外の手段で戦ってほしいものです。」


「あはは、誰だってそうだよね。」


笑いごとではないと思うのですが………。


「その件は一先ず置いておいて………。」


置いておかれました。


「そのうえで一つお願いがあるんだ。」


リオネオさんは私の目をじっと見つめながら真面目な表情でそう言いました。


「何でしょうか?」


私は彼の視線に多少の緊張を感じながら聞き返します。


「リンちゃんの強さをまじかで見るために君のクランに入れてほしんだ。」


「………はい!?」


彼の要求に私は驚きの声を上げました。

当然です。

まさかクランに入りたいなどと言う要求をされるとは思っていませんでした。


「な、なんでですか?」


「ん?理由ならさっき言った通りだよ。君の強さをその源をまじかで見るためにさ。」


「ですが………。」


「こっちの要求だけじゃそっちにメリットはないよね。そこで要求を呑んでもらえるならば俺はゼクスの町中でのPK行為を控えることを約束するよ。」


「………。」


私の言葉は聞かずにまくし立てるようにリオネオさんはそう言いました。

混乱から考えが上手くまとまりません。

そんな私が必死の思いで口から出した言葉は………。


「………すみません。ここで即答はできません。持ち帰ってメンバーと相談します。」


問題の先送りでした。


「うん。それでいいよ。色よい返事を期待しているね。」


私の返答にリオネオさんは相も変わらず笑みを浮かべてそう言いました。

私の頭の中では今でもこれでよかったのかという迷いがぐるぐると行きかっていました。

そんな時です。

無機質な通知音と共にシステムメッセージが届きました。



<ワールドアナウンス>

<「フォルシウス帝国」が「アルベルツ王国」に勝利しました。>

<これにより「ツェーン」は「フォルシウス帝国」の領地となります。>

………

<ワールドマップを更新に伴い24時間後にアップデートを行います。>

<これによりリースリングの世界はより広がります。>

<今後ともリースリングの世界をお楽しみください。>



「え?」


私はそのメッセージを一通り確認して困惑の声を上げました。


「へぇ、これは面白そうな予感がするね。」


そんな私の隣でリオネオさんは満面の笑みを浮かべてそう呟きました。

その笑みが少し怪しく映りました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 虫のpkってどうせ魔物プレイヤーの立場悪くする原因になったやつでしょ
[一言] クランに入るなら普通PKは厳禁だよな。 明らかにクランの評判が悪くなるし。
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