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8-17


◆ゼクス


「くっ!!」


真後ろから聞こえた声と脇腹に感じた違和感の正体を確かめることをせずに私は身を翻しました。

その判断が功をそうしたのでしょう。

寸でのところで私が先ほどまでいた場所をナイフを持った男が通り過ぎました。


「これを避けるか!やるね!」


男はすぐさま私に向き直り口を開きました。


「じゃあ、次はこれだ!!」


そう言いながら地面を蹴ります。

右へ左へ縦横無尽に移動しながらナイフを振るいます。

その速度はまたも上がりました。

しかし、大丈夫です。

まだ、目で追うことができます。

私は男の体を視界に納めながら彼の振るうナイフを短剣ではじきます。


「いい加減にしてください!!」


男が真っ直ぐこちらに突進してきたタイミングで私は大きく体を捻ります。

そして交差したタイミングで短剣を男に振るいました。


「お、おっと危ない。」


しかし、男は急停止すると飛び跳ねるようにしてその攻撃を避けてしまいます。


「逃がしません!」


私は男を追うようにして地面を駆けます。

攻守交代です。

私は先ほど男がやって見せた様に縦横無尽に動き男を攻撃しました。


「くくく、楽しくなってきたね。」


それに対して男も足を動かします。

狭い小径で私たち2人は地面を壁を蹴り互いに得物を振るい続けていました。

未だ決定的な攻撃はできていません。

それは男の方も同じでした。

しかし、その均衡が次第に崩れてきました。


「なっ!!」


左肩に男のナイフが突き刺さります。

とっさに男を蹴り飛ばして私は距離をとりました。

しかし、そんな私を追うようにして男は壁を蹴ります。


男の速度が上がったわけではありません。

私の目は男をしっかりととらえています。

私の速度が男に劣っているというわけでもありません。

それでも私の手が男の動きに追いつけなくなってきていました。

それは単純な速度の問題ではありません。

男の動きが上手いのです。

私の隙をつくようにして動きを調整し防御の出来ない絶妙なタイミングで攻撃を仕掛けてくるのです。


「くっ!!」


またも男のナイフが私の体に突き刺さりました。

生憎とショゴス・ロードの体は痛みを感じることはありません。

しかし、それでも気分のいいものではありません。

私は頭を動かしこの状況を打破するための手立てを考えていました。


「ほらほらどうしたの?さっきから動きが悪いよ!」


その間も男は攻撃の手を緩めません。


「はぁ。」


私はため息を吐いてその場に棒立ちになります。

そして覚悟した顔立ちで男を見据えます。


「どうしたんだい?諦めたのかな?」


私の動きが無いことを確かめた男は真正面から突っ込んできました。

その瞬間私は白剣の魔法効果を発動します。

その効果により押し上げられたAGIを生かして男の突き出したナイフを蹴り飛ばし突進してきた男の勢いを生かしてその旨に短剣を突き立てました。


「これでどうですか?」


私は勝利を確信しました。

私の短剣は男の心臓を貫いていたからです。

男が光の欠片となるのを待ちます。

しかし、その時は一向に訪れませんでした。

私が疑問に思っていると男が半歩下がり残った左手のナイフを振るいました。

そのナイフは私の首を切り裂き頭と胴を分かちます。


「仕留めたと思って油断したのかな?」


うすら笑いを浮かべながら男が呟きました。

混乱する思考を置き去りにして私はとっさに体を元の不定形のそれに変化させて男を捕えました。

そして、力一杯に捻り潰します。

私が男の体を捕えようとした瞬間何かが抜け出したような気がしました。

しかし、それを無視して私は男の体に力を籠めます。

ぐちゃぐちゃの肉塊になるまで力を込めた男の体は遂に光の欠片となって消えてしまいました。

それを見てようやく勝利を確信した私に不意に声が届きました。


「いやぁ、まさか同じ魔物系プレイヤーだとは思わなかったよ。」


私はその声を訝しみ視線を向けます。

そこには百足のような多足多節の昆虫型魔物がいました。

足の一本一本が鋭い鎌のようであり、細く長いその体は鎧と見紛われるような色をしていました。

私はその姿かたちに悍ましさを感じずにはいられませんでした。


「まさか、先ほど戦っていたのは?」


「くくく。そうさ、俺はハイ・パラサイト・ワームって種族なのさ。こっちの魔物の姿が本来の姿ってこと。わかったかいリンちゃん。」


「なんで、私の名前を?」


「それは分かるよ。これだけ強いスライム種の魔物系プレイヤーなんて闘技大会の優勝者であるリンちゃんしかいないでしょ?」


男は嬉しそうにそう言いました。

私はそれを後目に人の姿に戻り短剣を構えなおしました。


「君とは一度戦ってみたかったんだ。」


「そうなんですね。では戦い終わったので帰ったらどうですか?」


「おいおいつれないこと言わないでくれよ。戦いはどちらかが死ぬまで行うものだろう?」


笑い声をこぼしながらそう言う男は不規則にその体を動かして私の行く手を阻みます。

彼の言う通り殺さない限り私はここを動くことはできないでしょう。

だからこそ覚悟を決めて男を睨みつけます。


「やる気になったみたいだね?じゃあ、第2ラウンドと行こうか?」


そう言うと男は勢いよく私目掛けて飛びかかってきました。

百足の顔に当たる場所の目の前には巨大な2つの鎌があります。

その鎌を私の体に突き刺そうと振るいます。

私はそれを後ろに飛んで回避します。

当然男は減速すると思いました。

しかし、私の想像に反して男は地面に激突しました。

いえ、ただ激突しただけではありません。

地面に潜っていたのです。

それに気が付いた次の瞬間私の足元の石畳が膨れ上がりました。

そしてそこから鋭い鎌が顔を出します。

私は再び後ろに飛んで回避します。

それを追って男が体をくねらせます。

先ほどの人間的な動きとは違います。

無数の足を動かし、自由自在に動かせる体を這わせて私を追い詰めてきます。


「くっ!!」


その動きもさることながら速度も問題です。

決して追うことができないほどではありませんがそれでも気を抜けば一方的に攻撃を受けてしまうような速度を持っています。

だからこそ一瞬も気が抜けませんでした。


「はっ!!」


私は男と交差するタイミングで短剣を振るいます。

その刃が男の体に触れました。


―ガチン


甲高い音を立てて短剣が弾かれました。


「くっ、硬いです。」


十分に力が入るような姿勢では無かったとは言えこれには驚きました。

しかし………。


「アダマンタイトゴーレムほどではありません。」


私は再び短剣を振るいます。

次はしっかりと地面に足をついて、力一杯に振るいました。

その攻撃は節足の一つに当たり両断しました。


「やるじゃん。」


男はなおも余裕な声を上げながら私に向けて大鎌を振るってきました。

私はそれを回避しながら考えます。


男の余裕ももっともです。

節足1本を切り飛ばした程度では大したダメージではないのでしょう。

どうにか男の胴体にできることなら頭部に傷を付けないといけません。

そのためには男の動きを止めるか男を置き去りにする速度が必要です。


速度という考えに至り私は両手に持つ魔剣を思い出します。


この魔剣を使えば足りない速度を補うことができます。

しかし、それは先ほども見せた手です。

同じ手が通じる相手でしょうか?

………あまり考えていても仕方ありません。


男は私に向けて再び攻撃を仕掛けてきます。

私はそれをギリギリで回避して………体の一部を不定形のそれに戻しました。


捕まえて動きを止めてしまいます!


そう意気込んで私は無数の触手を男に向けて伸ばします。

男も私の考えが読めたのかその触手に捕まらないように動き回ります。


「逃がしません!」


私はここで白剣の魔法効果を使います。

一瞬のうちに速度の上がった触手から男は逃げ切ることができず遂に捕まってしまいました。

こうなれば力比べです。

私は捕まえた男を地面に縫い付けるように力を籠めます。

男が満足に動けないことを確認した私はゆっくりと彼の頭部に当たる場所に近づきました。


「これで止めです。」


私は短剣を高く上げ男の頭部目掛けて振り下ろしました。

その攻撃は深々と昆虫型魔物の頭部を砕きました。

ぴくりぴくりと節足が動いたのちに男の体は光の欠片へと姿を変えていきます。

それを見て私は勝利を確かめるのでした。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] あぁ、一週間だかで姿消した、昆虫型PK 人に寄生して、はしゃいでたんですねぇ ……しかし、PKが可能とは言え、基本的に安全地帯って認識で気が抜けてるプレイヤー襲ってはしゃいでたと考える…
[一言] >> 私はその姿かたちに悍ましさを感じずにはいられませんでした。 お前がそれ言うのか。魔物差別やんけ。
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