8-16
◆ゼクス
エスペランサさんに魔導書の解読をお願いするために私は彼の待つ領主館に向かっていました。
「裏路地を通った方が早いですね。」
私は大通りを抜けて小径に入り込みました。
そこは人通りが少なく少し寂しい雰囲気が漂う道でした。
「こういうところを見るとまだまだゼクスを発展させないとと思いますね。」
私はそんなことを呟きつつも先を急ぎました。
小径を照らす日の光は次第に陰りだし辺り一帯が暗くなってきた頃でした。
私の目の前に1人の男性が立ち塞がりました。
「あの、すみません。道を進みたいので開けていただけないでしょうか?」
その人はフードを目深にかぶり表情を読み取ることができませんでした。
私の言葉を聞いても一向に動く気配のないその男に不信感を抱きます。
彼はフードの影で薄っすらと笑ったような気がしました。
私がその様子に小首を傾げた次の瞬間………男はナイフを取り出して私の首目掛けて振るってきました。
「っつ!!」
私はとっさに飛びのきその攻撃を避けます。
「何ですか!?」
私の問いかけへの回答はまたしてもナイフによる攻撃でした。
彼は私を追いかけるようにして踏み込み再度ナイフを振るいます。
私はその攻撃をギリギリで回避します。
いつの間にか右手と左手にナイフを構えたその男は私を傷つけようとそのナイフを振るい続けます。
私も双剣を抜き放ち彼の攻撃を受け止めます。
「ヒュー、強いね。」
笑みを浮かべた彼の口から出てきたのは純粋な感嘆でした。
私はそれを聞きながら先ほどと同じ質問をします。
「何が目的ですか!?」
「くすくす、何を悠長なことを言っていいるんだい?」
そんなことを言いながら男はナイフを振るいます。
私は彼と距離をとってその攻撃を回避します。
「俺の目的は戦うことさ。君も死にたくないなら戦わないと。」
男のその言葉を聞いて私は思い至ります。
噂になっていたプレイヤーキラーとはこの人のことなのでしょう。
私はそれを確認するために口を開きました。
「あなたが最近ゼクスの町でPKを繰り返していたプレイヤーキラーですか?」
「んー、たぶんそうじゃ無いかな?俺以外に町の中でプレイヤーキラーをしている人がいるって聞いたことが無いし。」
彼の言葉に私は驚きました。
戦うためにこの男は何度もプレイヤーキラーを繰り返しているというのです。
アイテムでも金でも経験値でもなく戦うことそのものが目的。
そんなプレイヤーに初めて会いました。
「戦いことが目的ですか?」
私は戸惑いながら呟きました。
そんな私の呟きを聞き男はなおも笑みを浮かべます。
「そうさ!スリルに満ちた戦い!これこそが俺の求めるものだ!」
彼の言っていることに嘘はないのでしょう。
そう言う男の声色は嬉しそうです。
私はそんな彼の言い分に少なからず理解ができます。
私自身強敵との闘いに高揚感を覚えることがあったからです。
しかし、町中でPKをしてまでそれを得ようという考えには至りません。
その1点でのみ私はこの男の言葉を理解できませんでした。
私がそんなことを考えていると男は落ち着いた声色で声をかけてきました。
「まぁ、理解してもらおうとは思っていないよ。でも、戦いの相手にはなってもらうからね。」
男はそう言って再び2本のナイフを構えます。
私も双剣を構えました。
次の瞬間男は地面を強く蹴って私との距離を詰めてきました。
「ふっ!!」
男が右手に持ったナイフを振るいます。
私の首を目掛けて迫るナイフを左手の短剣で受け止めます。
私は体を捻って右手の短剣を男の首目掛けて振るいます。
男はしゃがんでそれを避けました。
次は下方から突き上げるようにして男がナイフを突き出しました。
後ろに飛んでその攻撃を回避します。
攻撃は一進一退。
男の攻撃の悉くを私は回避、防御し男も同じように私の攻撃の悉くを回避、防御します。
互いに両手には得物を構え何度も何度も攻撃を繰り返し、そしてその攻撃を防ぎ続けます。
「はっ!!」
力を込めて右手のナイフを上段から振るいます。
「っく!!」
男はその攻撃を交差したナイフで受け止めました。
男の動きが止まった今がチャンスです。
私は空いた左手の短剣を男めがけて突き出します。
男はその攻撃を体を捻って回避しました。
しかし、完全に回避する子ができず浅い傷が入ります。
男はそれを見て私から距離をとります。
「くくく。」
傷を見て嬉しそうに声を上げる。
私はその様子が不気味で追撃をすることができずにいませんでした。
「何が楽しいのですか?」
堪らず私は男に問いかけました。
「何って?それは強敵との戦闘が楽しいのさ!」
男の言葉に気圧されます。
そんな私を無視して男は話続けました。
「強敵との戦闘は良い。自分が死ぬかもしれないというスリルを共に味わおうじゃないか!」
そう言いながら男は再び私との距離を詰めてきました。
そしてナイフを振るいます。
私がその攻撃を避けて反撃をした瞬間男は大きく飛び跳ねました。
そしてそのまま私の頭上から攻撃を仕掛けてきます。
「っく!!」
私は男の攻撃を転がりながら避けます。
男は再び飛び跳ねます。
次は小径の壁を蹴りながら私に飛びかかってきます。
「曲芸師みたいなことをしますね!!」
私は飛び跳ねながらくる男の攻撃を避けながらそう叫んでいました。
男は私の声を聴いてますます激しく攻撃を繰り出してきます。
「つっ!!」
遂にはさばききれなくなり私は体に傷を付けてしまいました。
男はそれを見て止まりました。
「これで痛み分けだね。」
確かに互いに1撃受けた状態は同じなのでしょう。
しかし、私は男はとは違います。
私の本来の姿は不定形です。
この程度の傷であればすぐに治すことができます。
私は男に見せつけるようにしてその傷を直して見せました。
それを見て男は驚きの表情を見せました。
「おいおい、それは何だい?魔法じゃないよね?珍妙なことができるんだな?」
男は面白そうにそれを眺めていました。
私はそんな男の隙をついて距離を詰めます。
驚く男を後目に力いっぱい短剣を振るいます。
とっさのことで回避が間に合わなかった男はナイフで私の短剣を受け止めます。
しかし、ショゴス・ロードのSTRを受け止めるだけのステータスが無かったのか彼は勢いよく吹き飛ばされました。
私はそれを追って地面を蹴ります。
さらに1撃を加えるために私は男目掛けて短剣を振り下ろしました。
「過激だ、ね!!」
男は体を捻ってその攻撃を避けました。
そのまま地面を転がるようにして私から距離をとります。
「ふぅ。」
男は静かに立ち上がりました。
私の度重なる攻撃は男から笑みを奪い取るに至りませんでした。
「強い、強い。いいね!」
未だに笑みを絶やさない男に不気味さを感じます。
それは男にまだ余裕があることを示しているようでした。
私のその考えを証明するかのように男が口を開きます。
「これは少し本気を出さないといけないかもね。」
やはり男はまだまだ余力があったようです。
私は警戒心を高めて男の次の動きを注視していました。
「いくよ。」
男は静かにそう呟きました。
次の瞬間。男は地面を強く蹴りました。
その速度は先ほどまでの比ではありません。
縦横無尽に小径を走り回りながら私目掛けて駆けてきました。
「くっ!!」
その激しい攻撃を私は防ぎます。
幸いなことにまだ追えないほどの速度は出ていません。
私は辛うじて男の攻撃を回避、防御できていました。
そう思っていた時でした。
私の目の前から男が消えました。
「ここだ!」
次の瞬間私の背後から男の声が聞こえました。
それと同時に私は脇腹に違和感を感じました。
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