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8-15


◆ゼクス


燦燦と輝く太陽が天高く昇っている頃私はゼクスの町に戻ってきました。

ゲーム内の時間でほんの2日程度の日程でしたがずいぶんと久しぶりな気がします。

町の中は人でごった返していました。

ここ数日でますますプレイヤーが増えた気がします。

そんな些細なことが少し嬉しく私は笑いをこぼします。


「さて、ミケルさんに連絡を入れましょう。」


私はフレンドリストを確認しました。

幸いなことにミケルさんはログイン中のようです。

私はすぐさまミケルさんに「今から会えませんか」とメッセージを送ります。

返事はすぐに返ってきました。


「ミケルさんは工房にいらっしゃるのですね。」


私はミケルさんの工房に向けて歩きはじめました。


--


「お邪魔します。」


工房の入口を潜り私はミケルさんにいらっしゃる奥の作業スペースに向かいます。


「あれ、ハーロウさんもこちらにいたのですね。」


そこにはミケルさんと共にハーロウさんもいました。


「リンさん、鉱山から戻られたのですね。」


「お、お疲れ様。」


「はい、無事帰ってくることができました。」


ミケルさんとハーロウさんは作業机の上に何やら書物や資料を広げて話し合っていました。

2人は顔を上げて私の方に向き直ります。


「鉱山の下層より下を調査してきました。そちらで見慣れぬ鉱石を見つけたのでミケルさんに確認してもらいたく思います。」


「う、うん。どんな鉱石かな?」


ミケルさんはいつも通り自信なさげな雰囲気を漂わせながらもその声からは新しい鉱石に対する好奇心が醸し出されていました。


「はい、今出しますね。」


私はそう言うと机の上にいくつかの鉱石を取り出しました。


「こちらがその鉱石です。」


「え、えっと赤術鉱石、青術鉱石………。確かに見たことも聞いたこともない鉱石だね。」


「私も見せていただいてもいいでしょうか?」


「はい、大丈夫ですよ。」


「色は違いますがだいたいは術鉱石となっていますね。この鉱石だけは違うようですが。」


ハーロウさんはそう言うと黒呪鉱石を手に取りました。


「はい、ハーロウさんの言う通りかと思います。色術鉱石と黒呪鉱石ですね。」


私の言葉を聞きながらも御2人はその鉱石をじっくりと調べます。

私は邪魔をしないようにと静かに待ちました。

しばらくすると気が済んだのか手に持った鉱石を机の上に置きミケルさんが口を開きました。


「こ、この鉱石は恐らくミスリル鉱石の亜種なんだと思う。」


「ミスリル鉱石の亜種ですか?」


「うん。ミスリル鉱石は錬金術で特定の魔法属性を付与することができる。このことを魔化と呼んでいるんだ。その魔化が天然で行われたのがこの色術鉱石なんだと思う。」


「んー。」


ミケルさんの説明は難しく私はすぐに理解ができませんでした。

ミスリル鉱石に魔法属性を付与するというのはどういう意味なのでしょう?

私がそんな風に小首を傾げながら唸っているとハーロウさんが助け舟を出してくれました。


「ミスリル鉱石の魔化というのはあくまで属性のエンチャントなんですよ。このゲームでは危機馴染みが無いかもしれ無いですが、他のゲームでいう属性武器を作ることができるようになります。」


「すみません、他のゲームはあまりやらないのでいまいちよく分かりません。それは魔剣が作れるということですか?」


「ま、魔剣とは違うね。魔剣は魔法効果という特殊能力を持った剣なんだ。それとは別に攻撃そのものが属性を帯びると考えてもらった方が良いかもしれない。」


まだ、少し分かりかねますが私は何となく理解をしました。

つまりは普段私が行っている短剣での攻撃に属性が付くということですね。

それが戦闘にどのように役に立つのかは分かりませんがそう言うことができるというのは理解できました。


「ということはこの色術鉱石があるとミスリル鉱石を魔化させずともその武器が作れるということですか?」


「そ、そこはまだよくわからないところなんだよ。どうも人工物と天然物で違いがあるみたいなんだ。少なくともこの色術鉱石は人工的に作った魔化されたミスリル鉱石よりも強力な鉱石なんだよ。鉱石としても付与属性としてもね。」


「鉱石として強力と言うことはこの色術鉱石で武器や防具を作った場合普通にミスリルで作るよりも強いものができるということですか?」


「そうだね。」


私は言われてその鉱石をまじまじと見つめます。

鉱山の奥深くでとれる鉱石と言うこともあって期待はしていましたが想像以上です。

まさか、現状最高峰のミスリル以上のものとは思っていませんでした。


「ミケルさんこれなら………。」


ハーロウさんが意味深にミケルさんに語り掛けます。


「うん、僕も同じことを思っていたんだ。」


ミケルさんもその言葉に続くように頷きました。


「えっと何かあったのでしょうか?」


私は訳も分からず質問します。

そんな私にハーロウさんが丁寧に説明をしてくれました。


「はい、先ほどまでミケルさんと相談していたのですが、魔剣を生み出す際に強力な魔法金属が必要と言うことが分かりました。魔法金属としてパッと思い浮かぶのは魔法銀と呼ばれるミスリルのため私たちは当初魔化したミスリル鉱石を考えていたのです。」


ハーロウさんはそこで言葉を区切りました。

確かにハーロウさんの言う通り魔法金属として思い浮かぶのはミスリル鉱石です。


「しかし、ここでリンさんが持ってきた色術鉱石という可能性が生まれました。これならば魔剣を作ることができるのではないか………。私とミケルさんはそう考えたわけです。」


なるほどです。

確かに色術鉱石はその名前からも魔法金属に間違いないと思います。

魔剣を作るための金属に使えるのかもしれません。


「で、でもそのまま使うだけだとさっきも言った通り属性付与された武器が出来上がるだけだからそこにさらにひと手間をかける必要があるんだけどね。」


「さらにひと手間ですか?」


「そこはまだ資料を解析中で詳しくは分かっていないんですよ。なんでも魔法金属に魔法を記憶させた魔石を組み込み精錬することで魔剣はできるとあります。魔法を記憶した魔石と言うのが未だに分かっていない部分ですね。」


ハーロウさんの説明を聞いて私はまたも小首を傾げます。

何を言っているのかさっぱりでした。

しかし、今すぐにできることではないというのは分かりました。


「そうなんですね。」


だからこそ私はそう相槌を打つことしかできませんでした。


「はい。それでリンさん、鉱山の奥ではほかに何か見つけましたか?」


「はい。」


ハーロウさんにそう問われて私は鉱山での出来事をかいつまんで説明しました。

下層の下に落ちたこと、そこには今見てもらった鉱石があったこと、アダマンタイトゴーレムがいたこと、そして不思議な死体とティンダロスの猟犬がいたこと。

全てを説明したころには随分と時間がたってしまっていました。


「なるほど。」


ハーロウさんは顎に手を当てて私の説明した内容を吟味していました。

私はそれを眺めながら彼の次の言葉を待ちます。


「リンさん、説明にあった白骨死体の来ていたローブは持ってきていますか?」


「はい。でも、ボロボロですよ。」


そう言いながら私はインベントリからローブを取り出してハーロウさんに渡しました。


「失礼しますね。」


ハーロウさんはそう言うとローブを注意深く観察し始めました。


「リンさん、これのフレーバーテキストは確認されましたか?」


「フレーバーテキストですか?そう言えば見ていません。ボロボロのローブというアイテム名だけしか確認していません。」


「そうですか。このローブのフレーバーテキストを確認する限りその白骨死体は神代の人のようです。」


「神代ですか!?」


ハーロウさんの言葉を聞いて私は驚きの声を上げます。

それもそのはずです。


「神代の死体が残っていたというのですか?化石でもなく?普通は風化してしまい形が残らないのではないですか?」


「そうですね。確かに普通ならば死体が残ることは無いでしょう。ならば普通ではない何かがあったということでしょう。」


ハーロウさんは静かにそう言いました。

そうとわかっていればもう少し詳しく調べてくるべきでした。

私はため息とともに後悔をするのでした。


「リンさん、このローブ頂いてもいいでしょうか?」


「ローブですか?はい、いいですよ。神代のものと言ってもボロボロですけどいいんですか?」


「はい。このローブはこのままでも相当に強い装備のようです。それに修復することも可能でしょう。サンドラさんに見ていただいて修復してもらおうと思います。」


ハーロウさんはそう言うとローブをインベントリにしまいました。

私はそれを確認して口を開きます。


「そう言えば、白骨死体はローブ以外にも魔導書を持っていました。」


「そうなんですね。魔導書はエスペランサさんに渡すと良いでしょう。きっとまた翻訳してくれると思いますよ。」


「そうですね。この後見てもらおうと思います。」


その後もミケルさん、ハーロウさんと当り障りのない会話をした後私は工房を去りました。

フレンドリストを確認するとエスペランサさんもログイン状態だったため連絡を入れて彼の待つ領主館に向かいました。


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