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8-12


◆ゼクス近くの鉱山


「くっ!!」


猟犬の伸ばした悍ましき舌が私の脇腹に突き刺さりました。

その攻撃は私の体から何かを奪うようなものでした。

例えるならばストローでグラスに入ったジュースを飲み干す様にして体から何かが抜ける感覚がします。

私はとっさにステータスを確認しました。


「これは!?」


私のステータスが少しずつではありますが減少していました。

そして状態を示すところには見慣れない状態異常が表示されています。

状態異常「弱化」。

それが私がいま受けている攻撃の正体のようです。

私は手に持つ短剣を振るい猟犬の舌を切り裂きました。

自由を取り戻すとすぐさま猟犬から距離をとります。

しかし、ステータスは元に戻りません。

私は猟犬を睨めつけます。

切り裂かれた舌はすぐさま再生し元の形を取り戻します。


「やってくれましたね。」


私は苦々しげにそう呟くも心の中では楽しくて仕方ありませんでした。

強敵との闘い。

自分が負けるかもしれないというスリルを味わっていたのです。

しかし、負けるつもりはありません。

私は足に力を込めて地面を強く蹴りました。


「はぁ!!」


猟犬に接敵して短剣を振るいます。

猟犬はそれを軽々と回避しました。

先ほどまで拮抗していたのです。

多少とは言えステータスが減少した私の攻撃が当たるはずがありませんでした。

しかし、だからと言って止まるわけにはいきません。

続けざまに2撃目、3撃目と攻撃を繰り出します。

その悉くを猟犬は回避します。

猟犬とてただ回避しているだけではありません。

私の攻撃の隙をついてその爪を振るい続けています。

結果として私の体には傷が増えていきます。

ショゴス・ロードの変幻自在な体のおかげで見かけ上の傷はすぐに回復できます。

しかし、HPは確かに減っています。

このままでは負けるのは必然でしょう。


「っつ!!」


猟犬が舌を伸ばして攻撃してきました。

私は大きく飛んでその攻撃を回避します。

私を追うようにして伸びてくる舌を回避し続けると猟犬との距離が離れてしまいました。

流石に舌の長さにも限度があったのかある程度距離を取ると舌を伸ばすのを諦めました。

そのことに安堵しつつ猟犬を睨めつけます。


「どうしましょう?」


私の攻撃は当たりません。

猟犬に速度で負けている私の攻撃は猟犬を捕えることができないでいました。

いえ、猟犬の逃げ道を塞ぐようにして攻撃の手を広げれば当てることはできるのでしょう。

しかし、そうすれば猟犬の舌を避けるのが難しくなります。

これ以上ステータスを下げられれば今度こそ勝つことができなくなってしまいます。

それは避けたいです。

猟犬の攻撃を避けるだけの余裕を持ちつつ攻撃を当てるとなると後ほんの少しの速度が必要です。


「どうしましょう?」


再び呟く私の声に返答はありません。

猟犬も私を睨みつけてその場を動きません。

硬直状態が続く中私は不意に短剣に目をやりました。


「そうです。」


私は一言呟き再び猟犬を睨めつけます。

そして短剣を持つ手に力を込めて猟犬目掛けて走り出しました。

その速度は先ほどまでより速いです。

そう私の持つ武器は魔剣なのです。

白剣の効果は自身のAGI上昇。

その上昇した速度を生かして猟犬に接敵します。

突然素早くなった私の動きに猟犬は驚きを隠せていません。

私が近づくと飛び跳ねるようにして私の攻撃を避けます。

それを追うようにして私の攻撃は続きます。

2度、3度と続く私の攻撃を回避し続ける猟犬は堪らず私から距離を取ろうと大きく後ろに飛びのきました。

その隙をついて私は黒剣を投擲します。

猟犬が地面に着地すると同時にその体に深々と突き刺さる黒剣を前にして猟犬は悲鳴を上げました。


「よし!」


対照的に私は歓声を上げます。

そして再び猟犬目掛けて距離を詰めました。

猟犬はよろめきながらも私の攻撃を避けようと必死になります。

しかし、その動きは先ほどまでと異なり鈍重極まります。

そう、黒剣の効果は攻撃した相手に状態異常「鈍重」を与えることです。

その黒剣の効果を受けた猟犬は今本来の速度を出すことができずにいます。

白剣の強化と黒剣の弱体化を持って今私の速度は猟犬のそれを遠く置き去りにするまでに至りました。

こうなってしまえばこちらの攻撃が当たらないと悩むことも、猟犬の攻撃を回避することに苦心することもありません。

私の攻撃は一方的に猟犬を捕え続けその体に傷を増やし続けます。


「はぁ!!」


猟犬が怯んだ隙をついて突き刺さった黒剣に手をやりそのまま横に薙ぎます。

その攻撃は深々と猟犬の体に傷を付けました。

続けて手に持った白剣を振り上げ猟犬の頭部目掛けて振るいます。

猟犬は何とか回避しようと体を傾けますがそのより早く私の攻撃は猟犬の体に届きました。

再び体に深々と傷を付けられた猟犬は怯みます。

しかし、猟犬もただただやられているだけではありません。

口を大きく開き悍ましい舌を伸ばして攻撃しようと試みます。

私はその動作を見て大きく距離をとります。

猟犬の攻撃もまた先ほどまでの速度はありません。

その攻撃が私に届くより先に私は攻撃範囲から脱していました。


「もう攻撃を受けることはありません。」


言葉が通じるとは思っていません。

それでも私は猟犬に向かってそう宣言していました。

そしてその宣言と共に地を蹴ります。

再び接近した私と猟犬は互いを攻撃し合います。

しかし、その攻撃は対照的になりました。

私の攻撃は猟犬の体に傷を増やしますが猟犬の攻撃は空を切るばかりです。

そして、ついに決着の時が来たのです。

私の攻撃が猟犬の体に深々と傷を与えると猟犬は悲鳴を上げてその場に倒れ伏しました。

次の瞬間には光の欠片となりました。

それを見て私は勝利を実感しました。


「はぁ、はぁ。」


息を整えて光の欠片が虚空へと消えていくのを見守ります。

そして沸々と胸の内から湧き出す感情を実感するのでした。

それは高揚感です。

強敵と戦いそして勝利したことで得られる幸福の感情でした。


「や、やりました!」


私は声に出してそれを喜びます。

私一人だけが残された真っ暗な空間にその声が響きました。


--


猟犬を退けた後私はしばらくその場で休憩をとりました。

その間、特に敵は現れませんでした。

状態異常「弱化」は猟犬を倒してからしばらくすると回復しました。

今ではステータスも元通りです。


「やっぱり先ほどの犬のような魔物はティンダロスの猟犬だったのですね。」


私はドロップアイテムを確認してそう呟きました。

先ほどの魔物から手に入れたドロップアイテムは爪や舌など数多くありました。

そのアイテムの説明には“ティンダロスの猟犬”と明示されていました。

何故、ここで猟犬が出現したのか?

という疑問は残りますが一先ずは勝利に安堵と喜びを感じていました。


「そう言えば、先ほどは白骨死体を調べていたのでした。」


私は再び部屋の隅に転がった白骨死体に近づき観察しました。

しかし、何も見つけることはできませんでした。

残っためぼしいものと言ったらボロボロのローブくらいです。


「んー、これも一応回収しておきましょう。」


私はそう言ってローブもインベントリにしまいました。

そして再び白骨死体に目を向けます。


「これを持って帰ることはできないですね。」


流石に白骨死体はインベントリにしまうことはできません。

できたとしてもやりたいとは思えませんでした。


「ここに野ざらしと言うのもあれですね。」


私は部屋の片隅に穴を掘りました。

そして白骨死体をその穴に埋めると壁に文字を刻みます。

“名も知らぬ旅人ここに眠る”

どうか安らかにと願いを込めて刻んだ言葉はただの自己満足なのかもしれません。

しかし、私はそれをしたいと思い実行しました。

私はその言葉を再度確認しその場を後にしました。


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