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◆ゼクス近くの鉱山
異形のアイアンゴーレムを討伐し休憩をとるために野営をしていると不意に坑道の奥に動く何かを視界の隅に捕えました。
それはゆらりゆらりと動く火の玉のような何かでした。
それを見て新手の魔物かと思い警戒を最大限に高めます。
武器を手に取りその火の玉を注視します。
中腰になり剣を鞘から抜いてしばらくその火の玉を観察していると薄っすらと人影が見えました。
プレイヤーでしょうか?
3人組の武装した集団です。
彼らが持つランタンの光が火の玉の正体でした。
こちらも焚火を起こしているため向こうからは丸見えです。
当然彼らはこちらに向かって真っすぐにやってきます。
私は未だ警戒を解かずに彼らが近づいてくるのを待ちます。
30m程の距離まで近づいたところでようやく相手がはっきりと見えました。
1人は大きな剣を担いだ大剣使いの男性です。
その男性と並んでショートソードを腰に佩いた男性がいます。
この男性がランタンを持っていました。
少し後ろに杖を両手で抱えた女性がいました。
この人は魔法使いでしょうか?
そんな3人組の冒険者が朗らかな笑みを浮かべながら私に近づいてきました。
10m程の距離まで近づいたところで大剣使いの男性が口を開きました。
「こんにちは。は、おかしいかな?こんばんは。」
「………はい、こんばんは。」
私は警戒を解かずに男性に返答を返します。
「見たところ1人みたいだけどプレイヤーかな?」
「はい、プレイヤーです。そう言うということはそちらもプレイヤーですか?」
「そうだよ。俺らは3人ともプレイヤーさ。」
そう言いながら3人組はゆっくりと近づいてきます。
私は警戒心をますます高めます。
「おっと、警戒しないでくれ。別にプレイヤーキラーってわけじゃないからさ。」
そう言う男性は両手を前に出して敵意が無いことを示します。
「そうだな………あ、自己紹介しておこうか。俺はベルト。装備をしていると分からないかもしれないがハイ・ビーストの超級剣士だ。」
大剣使いもといベルトさんはそう言いながら帽子状の防具を取り外しました。
その下からは2つの可愛らしい耳が現れました。
ベルトさんに続く様にして魔法使いの女性が口を開きました。
「私はシャロンと言うの。ハイ・エルフの超級魔法使いね。」
シャロンさんはそう言いながら笑みを浮かべます。
そこに敵意は感じられませんでした。
「最期に俺だね。俺はブレアという。ヴォジャノーイの特級魔法剣士だ。」
ショートソードを佩いた男性がそう口にしました。
私は聞きなれない種族に首を傾げながら聞き返します。
「ヴォジャノーイですか?」
「聞きなれないよね?妖精種の特殊進化先なんだ。」
ブレアさんはそう言いながら説明を続けました。
「水の妖精で水属性の魔法に高い適性を持っている。その分他の属性はからっきしだけどね。」
ブレアさんは肩をすくめながらそう言いました。
3人とも話してみた感じはとても人当たりが良く私の警戒心もいつの間にか無くなっていました。
私は手にした短剣を鞘に納めると3人に向き直り口を開きました。
「………私はリンと言います。」
そう言った瞬間3人の表情が変わりました。
そして私に背を向けて何やらこそこそと話始めました。
「リンって言えばアルカディアの国王?」
「いや、闘技大会で見たけど彼女はスライム種の化け物のはずだぞ。」
「じゃあ、目の前にいる彼女とは別人?」
「多分そうじゃ無いかな?ほら、RinとかLinとか同音でも名前の重複を回避する方法はいくらでもあるし………。」
こそこそと話す3人の会話は私には聞こえませんでした。
しかし、こうして目の前でされるのはどこか居心地が悪いです。
だからこそ私は3人に声を掛けます。
「あの………。」
「ああ、ごめんね。それでリンちゃんはどうしてここにいるんだい?それも一人で。」
私が声をかけると慌てた様にベルトさんがこちらに向き直り声をかけてきました。
「私は鉱山の下層に用があってきました。一人なのはその方が都合がいいからですね。」
間違ったことは言っていません。
鉱山の下層。
そのさらに奥を調査するために私はきました。
調査するためにはショゴス・ロードのような不定形の体が必要です。
それを持つのは私だけのため一人の方が都合がいいというのも間違いではありません。
しかし、すべてを正直に話すのは躊躇われました。
未だ完全にこの3人のことを信用しきれていないからかもしれません。
今しがた出会ったばかりなのですから当然です。
私は追及されるのを避けるために次はこちらから質問をしようと口を開きました。
「御3人は鉱石の採掘ですか?」
「そうだね。それもあるよ。」
「それもということは別の目的もあるのですか?」
「俺たちが鉱山に来た目的は鉱石の採取とレベル上げだ。アイアンゴーレムはそこそこいい経験値になるからね。」
「そうなんですね。」
彼らは少し誇らしげにそう言いました。
それも仕方ありません。
アイアンゴーレムは決して戦いやすい魔物ではありません。
体は鋼鉄で物理攻撃に強く魔法の効きも悪いです。
そんなアイアンゴーレムをコンスタントに討伐できる腕があるならば彼らは腕利きと言っていいだけの実力があるのでしょう。
「アイアンゴーレム相手にレベル上げと言うことは中層を回っているということですか?」
「そうだね。2日ほど中層に籠っていたかな。」
「この辺で鉱石採取するということはミスリルですか?」
「うん。そろそろ俺たちの武器、防具を作れるだけのミスリルが集まってきたから一度ゼクスに戻るつもりだよ。その後は下層に行ってみようと話していたところさ。」
下層は中層とはまた雰囲気が変わります。
出現する魔物は当然として上位の鉱石も手に入りやすくなります。
彼らが次の目標にするのも頷けます。
「リンちゃんは今日鉱山に来たのかな?」
「そうです。上層、中層には特に用が無かったのでこうして真っ直ぐ下層を目指している途中です。」
「もう下層に行けるだけの実力があるだなんてリンちゃんは相当に強いんだね?」
「そうなのでしょうか?相性がいいだけかもしれません。」
「そう言うとことはアイアンゴーレムに苦戦はしないんだね?」
「そうですね。4足4腕のアイアンゴーレムは別にして普通のアイアンゴーレムは特に苦も無く討伐できます。」
私がそう言うとベルトさんは苦々しげな表情をしました。
「………あの、異形のゴーレムに出会ったんだね?」
「はい。出会ったというより先ほど討伐しました。」
「!!討伐できたのか!?」
ベルトさんは驚きの声を上げました。
ベルトさんだけではありません。
ブレアさんもシャロンさんも表情で驚きを表しています。
「はい。多少見た目は異なりますがアイアンゴーレムであることに違いはありませんでしたよ。」
「いやいや、武器を持っているし明らかにアイアンゴーレムがしてこないような攻撃してきたでしょ?何よりあの巨体だとコアを壊すのだって一苦労のはずだ。」
「確かにそうですね。でも、鈍重なことに変わりはありません。攻撃を掻い潜ってコアのある胴体の中央に攻撃を加えれば倒せます。」
「………。」
ベルトさんは絶句しています。
そんなにおかしなことでしょうか?
「ま、まあ、リンちゃんがそれだけ強かったってことだよね?」
そんなベルトさんにシャロンさんがフォローするように声を掛けます。
「あ、ああ、そうだよな。」
「俺たちもまだまだだな。」
「あれを討伐できるくらいには強くならないとね。」
「そうしないと下層なんていけないのかもな。」
私を置いて3人はそんなことを呟きます。
その表情からはどこかやる気が満ちているようでした。
私はそれを眺めながら首を傾げます。
その後もしばらく変な空気に包まれました。
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