1-10
◆アイン近くの草原
あの後、チュートリアルを終えたカガリさんと合流した私たちはアイン近くの草原に場所を移して兎、そしてスライムを狩っていました。
最初の数回は手探りで狩りを行っていましたが、今ではそれぞれの役割もはっきりとわかり効率的に狩りを行うことできています。
私がナイフを持って前衛で敵を引き付け、カガリさんが魔法で攻撃をします。
ユキさんは私がダメージを負ったときにすかさず回復をするという連携です。
「………【ファイヤボール】!!」
今もカガリさんが放った魔法が兎を燃やし殺しました。
私たちはその光景を見ながら達成感を感じているのでした。
「良い感じだね!まるで熟年夫婦のようだ!」
「ええ。」
「はい。」
「ツッコんでくれないと寂しいです………」
カガリさんのその言葉に私とユキさんは笑みを浮かべます。。
しかし、実際にいい感じに狩りはできていました。
順調にレベルも上がっており、今では種族レベル7、職業レベル6に至っています。
この調子ならあと1日2日でそれぞれレベル10に至るでしょう。
アキもこのゲームはレベルが上がりやすいと言っていたが実際その通りでした。
そんなことを考えていると再び草むらから魔物が現れました。
次はスライムです。
私はすぐさまナイフを取り出しスライムに向かって地面を駆けます。
数舜ののちに接敵するとそのナイフを勢いよく振るいます。
スライムのゼリー状の体をナイフの刃が切り裂きます。
「魔法いけるよ。」
後ろから聞こえたカガリさんの合図を聞いて私は横に飛びます。
「………【ファイヤボール】!!」
カガリさんの魔法がスライムを焼きました。
燃え盛る炎が熱いのかスライムはもがき苦しみます。
しかし、その足掻きもむなしくすぐに光となって虚空へと消えてしまいました。
文字通りの完勝です。
「ククク、この辺のモンスターは既に私たちの敵ではないね!」
今しがたのスライムとの戦闘を経てカガリさんがそう口にしました。
それは私も考えていたことです。
実際この辺は初心者向きの狩場のため1人でも安全に戦うことができます。
それを複数人でパーティを組んでいれば物足りなくなるのも当たり前です。
私たちはカガリさんの提案に従ってもう少し強い敵の出る狩場へと移動するのでした。
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狩場を移動した私たちが最初に目にしたモンスターは狼でした。
それも1匹ではありません。
4匹で群れをなした狼だったのです。
向こうはすでに私たちの接近に気が付いていたのか、その目はしっかりと私たちの姿をとらえていました。
戦闘は避けられないと思い私はナイフを取り出しました。
カガリさんとユキさんも戦闘の準備を整えます。
私はそれを確認して狼に向かって駆け出しました。
狼も同じように私たちとの距離を詰めます。
4匹の狼が真っ直ぐに私たちに近づいてきました。
私は先頭を行く狼めがけてナイフを振るいます。
狼はそれを体で受けながらも私に噛みつこうと口を開きました。
私はスライムの流動的な体を利用して狼の体に張り付くようにしてその攻撃を避けます。
その間に私と私が切りつけた狼を取り囲むように3匹の狼が周りに陣取りました。
今にも噛みつこうと牙をむき出しにしているが私が狼に張り付いているためそれができないでいるようでした。
「………【ファイアボール】!!」
そうこうしている間にカガリさんの魔法の準備が整いました。
その火の玉は周りを取り囲んでいる1匹の狼に命中しました。
一瞬にして狼の視線がカガリさんに向きます。
私はその隙に別の狼に飛び移りナイフを突き立てます。
「ぎゃぅうう!」
狼が痛みから悲鳴を上げました。
その声を聴いて再び狼の視線は私に向きました。
私は張り付いた狼の体の上で何度も何度もナイフを振るいます。
しばらくするとその狼のHPは0となり光となって消えてしまいました。
その瞬間を待っていたかのように周りの狼が私に殺到しました。
流石に3匹の攻撃をすべて避けることはできず私は狼の牙を体で受けてしまいました。
視界の端でHPが削られていくのが分かります。
「………【ヒール】」
私がダメージを負うと即座にユキさんから回復魔法が飛んできました。
HPが元に戻りました。
これでまだまだ戦えます。
私は近寄ってきた狼の1匹に張り付いて先ほどの狼同様にナイフを何度も突き立てました。
2匹目の狼が光となって消えます。
残り2匹。
と思ったらその瞬間、再びカガリさんが魔法を放ちます。
その魔法は傷ついた狼に命中しHPを0にしました。
これで残りは1匹だ。
私はすぐさまその1匹に飛びかかります。
狼の牙が届かない背中に張り付くとナイフを何度も突き刺し殺しました。
戦闘は問題なく終了しました。
その成果を見て私たちは喜ぶのでした。
3人いればこの狩場でも問題なく戦えるとわかり、その後私たちはその狩場で狼狩りを続けるのででした。
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「今日はそろそろ戻りませんか?」
辺りが暗くなり始めた頃私は2人にそう提案しました。
2人もそれに同意して私たちはアインの町目指して歩き出しました。
異変に気が付いたのはアインの町にほど近い街道ででした。
私たちの行く手を遮るようにして2人の男性プレイヤーが街道を塞いでいたのです。
1人は剣を装備し、もう1人は槍を装備していました。
私は訝し気な目をしながら彼らを観察します。
私たちが2人の目の前で足を止めると、後ろからさらに2人の男性プレイヤーが現れました。
こちらは剣士1の魔法使い1です。
皆ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら私たちを見ます。
そんな彼らに私が代表して声をかけました。
「街道を塞ぐように立ち止まったりして何をしているのですか?」
「何って見ればわかるだろう?街道を塞いでいるんだよ。」
「何のためにでしょう?」
「それはおまえたちを通さないためさ。」
こう話していても埒が明きません。
彼らの思惑なんてわかり切っています。
プレイヤーキラー。
つまりはプレイヤーを狙った殺人行為を楽しもうとしているのです。
私は心の中でため息をつきます。
横にいるカガリさんとユキさんを見ると彼女たちも察したようでした。
それでも一応は言葉で何とかできなか試みます。
「馬鹿なことはやめて通しなさい。」
「魔物風情が馬鹿なこととは言ってくれるじゃないか。」
魔物風情。
彼の言葉に私はある考えが頭に浮かびました。
それは昨日アキから聞いた話です。
「………あなたたちはもしかして私たちが魔物系のプレイヤーだから狙うのですか?」
「そうだよ。それ以外に理由が必要か?魔物は殺すのが冒険者さ。それがモブかプレイヤーかなんて関係ないね。」
その言葉に私は胸の内から沸々と怒りが沸き立つのを感じていました。
魔物だから殺す?
彼らは何を言っているのだ?
許せません。
ああ、許せません。
絶対許してなるものですか。
私の中ですでに言葉で解決しようという考えは消し飛んでしまっていました。
今はこの4人をどうやって討伐するかで頭がいっぱいだったのです。
「分かったらとっとと死にな。」
そう言って目の前の剣士は1歩前に出ます。
その瞬間私はその剣士に飛びかかりました。
それは1舜でした。
まさか私がすぐさま動き出すと思っていなかったのか剣士は何もできずにその場に棒立ちになっていたのです。
私は剣士の足からその体を登り、腰、胴を巡って肩までたどり着きます。
そして取り出したナイフを勢いよく剣士の左目に突き刺すのでした。
「っつ!!!!」
剣士は痛みから悲鳴を上げるも私はそれだけでは終わらせませんでした。
ナイフをねじり、さらに差し込みます。
そしてそのまま横に振るい残った右目にも傷をつけます。
そこまでしたところで剣士の男は肩にのった私を振り落とそうと腕を振るいました。
私は大きく飛び跳ねてそれを回避します。
「この野郎!!」
地面に着地した私目掛けて槍使いの男が槍を突き出しました。
私はその攻撃をギリギリで回避すると槍を登り、男の手に飛び移ります。
そして最初の剣士にしたように体をよじ登ってその顔面にナイフを振るいます。
その斬撃は男をひるませるには十分でした。
その隙に私はナイフを握り直し、男の右目に突き刺します。
「いっ!!!!」
続けざまにナイフを2度、3度と突き刺します。
その攻撃は男の左目、左耳、喉に突き刺さりました。
その攻撃が致命傷となったのか男は光のかけらへと姿を変えてしまいました。
「畜生!!!!」
「もう容赦しねぇぞ!!」
私たちの後ろに陣取っていた剣士と魔法使いが私に向けてそう口を開きます。
「ユキさん、カガリさん下がっててください!」
私は2人にそう指示を出して後ろの2人に向けて駆け出しました。
そんな私に剣士の男が近寄ります。
「死ねぇええええええ!!!!」
大きく振りかぶった剣を私目掛けて振り下ろしたのです。
しかし、そんな大ぶりな攻撃が当たるはずもなく、地面を強く打ちつけるだけに終わります。
私は振り下ろされた腕に飛び乗り男の方まで駆け上がります。
そして先ほど同様に男の顔に向けてナイフを振るい続けました。
そんな私を睨みつける目がありました。
それは魔術師の男です。
「………【フレイムアロー】!!」
彼は魔法を詠唱すると私目掛けてそれを放ちます。
私はスライムの広い視野でもってその攻撃を確認すると剣士の男から飛び降りました。
直後、放たれた炎の矢は剣士の男を焼きます。
「あ、あっつ。熱い!!!!!」
剣士の男はその魔法を受けて転げまわります。
しかし、そのかい虚しく彼を焼く炎は彼のHPを0にしてしまいました。
私はすぐさま魔法使いの男に近寄ります。
「くっそ。………【ファイヤボール】!!【ファイヤボール】!!」
魔法使いの男は低位の魔法を何度も放ちます。
しかし、その攻撃はすべて見当違いの方向へと飛んでいってしまいました。
彼自身、立て続けに仲間が殺されたことで焦っているのです。
私はそんな魔法使いの体によじ登ると再びナイフを振るいました。
喉を切り裂き、目を抉り、耳を切り落とし、痛みを与えながら魔法使いのHPを削っていきます。
そしてついに男は光のかけらとなって虚空に消えてしまいました。
最後に残ったのは最初に目を抉られた剣士です。
男は目が見えず、這いばいになって逃げようとしていました。
私はそんな男の背中に飛び乗りナイフを深く突き立てます。
何度も何度も男のHPが0になるまで突き立て続けました。
そして、遂に光のかけらとなって消えていく男を見ながら私はナイフをしまうのでした。
そんな私の姿を見ながらカガリさんとユキさんは恐る恐る近寄ってきました。
あんな風に暴れたらそれは恐れられるよねと内心焦るのでした。
しかし、そんな私の思いは杞憂に終わります。
「お疲れ。」
カガリさんがモンスター狩りを終わらせた時と同じ調子でそう言ってきたのです。
「リンさん大丈夫ですか?回復はいりますか?」
ユキさんも私の心配ばかりで特に怖がっているという感じではありませんでした。
私はそんな2人のやり取りが嬉しくなって頬が綻ぶのを感じました。
「ユキさん、大丈夫です。ありがとうございます。」
こうして脅威は去りました。
私は魔物系プレイヤーを狙うPKを撃退したのです。
ふと、視界の端で点滅するアイコンが目に入りました。
どうやらシステムメッセージが来ていたようです。
そのメッセージを確認します。
「あ、レベルが上がりました。」
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