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3、再会



「お兄さま、私、変ではないかしら?」


「…あぁ、なんとかそこそこのご令嬢に見えるよ」


「不安すぎる」



馬車の中で、お互い震える声で最終確認をする。


とうとう来てしまったのだ。断罪(仮)パーティーが。





招待状が届いてお兄さまと一悶着したあと、お父様とお母様に夜会であったことを話した。その反応は、ロイシュタイン様よりもずっと青白い顔で今にも倒れそうなほどだった。


公爵家からの招待を断る訳にもいかないので、参加の旨返事をして、謝罪の気持ちを込めて花を送った。反応はなし。

謝罪の気持ちを込めてご機嫌伺いの手紙も認めた。会えるのを楽しみにしている。との簡潔な返事がきた。


どういう意味で楽しみなのかわからない。


最終手段として、目いっぱい着飾って泣き落としをして当日なんとか許しを請おうという案を苦渋の決断で採用した。

普段着ないような、煌びやかだが変にゴテゴテしていない高いドレスを作り。アクセサリーは控えめに。化粧は派手過ぎず、しかし普段よりはしっかりと。


そうして完成したのが……うん。

お兄さまの反応を見てもわかるだろう。

ロイシュタイン様の周りに集まるような美女には到底敵わないです。


微妙な顔をする両親を安心させるように、「この際首でもなんでも差し出すから、メラレイア伯爵家はなんとか許してもらうよう交渉してきます!」と言ったら、怖いこと言わないで欲しいと泣かれた。




お兄さまとの間でも微妙な空気が漂う中、ガタンと馬車が止まる。


戦場に到着したのだ。

今度こそ、人ならざるモノを見ても驚かない、気にしない。あの量は初めてだったから動揺してしまったのだ、1度見たから大丈夫。


気合を入れるように深く深呼吸をして、お兄さまの手を取って馬車から降りる。が、目に入った光景に、ついさっき馬車の中で入れた気合いの塊がボロボロと崩れていく音がした。



目の前には、それはそれは大きなお屋敷。

そのお屋敷に入れば、普段ならばお会いすることもないような、噂に聞いたことのある立派な方々。

なにより、そこかしこにいる人ならざるモノ。


ロイシュタイン様につくモノほど密集はしていないが、前回のパーティー会場と比べればその2倍くらいはいるだろうか。

君たちも夜会参加するの?って言いたくなる。



「フィー、いいか、とにかくお前は普通にしていろ。そうしてくれれば、俺がなんとかする」


「お兄さま……」



たまにかっこいいこと言うんだよな、この人。

だけど、それも無理かもしれない。

さすがにこれだけの量は予想外ですお兄さま。


周りの方々の視線に怯え、人ならざるモノの存在に怯え、もういっそ倒れてしまいたいと考え出した頃、大きな扉が開かれロイシュタイン様が入ってくる。それと、たくさんの人ならざるモノも。

足元にはこの間も視たヒヨコを連れていた。



ロイシュタイン様はそのまま中央へと歩いていき、挨拶の言葉を淡々と告げる。

招待客は、ロイシュタイン様の凛々しいお姿にぼうっと魅入っている。私もぜひともそうしたい所なのだが……めちゃくちゃ目が合うんだよね。もちろん、人ならざるモノ達と。


負けてたまるかと謎の対抗心を燃やして睨み返していると、人ならざるモノ達は僅かに動き出す。ほんとに僅かに。

すると、ロイシュタイン様がこちらに視線を投げ、バッチリと目が合った…気がしたが、すぐにふいとそらされる。



「…どうぞ、楽しんでいってください。」



そう言って締めくくると、ロイシュタイン様の周りに次々と人が集まってくる。

女性も多く見かけるが、先日の夜会のように肉食獣の目をしたご令嬢は少ないように感じる。もちろん表情に出ていないだけで、隙あらばアピールしようという心意気はありそうだ。女の勘ってやつです。



「なんというか…壮観ね」


「流石はヴィンセント様。素晴らしい功績をあげている方々ばかりだ。普通に呼ばれたかった…」



がっくしと肩を落とすお兄さま。

普段の会話からしても、お兄さまがロイシュタイン様を慕っているのはひしひしと伝わってくる。大変申し訳ないことを仕出かしたのは分かっているのだが…


ごめんなさい、今日も上手くやれるか分かりません…。もう少し人ならざるモノに対する耐性を付けておくべきだったわ。


視界にちらつく黒いモノに、こっそりとため息を吐いた。



もう諦めている。諦めてはいるが、時々考えてしまうのだ。

これがなければ、私は普通に生きられただろうか。誰かを怖がらせることもなく、誰かを怒らせることもなく、誰かを困らせることもなく、そんな生き方が出来たのだろうか。


そしてそれはきっと、ロイシュタイン様にも言えること。

あれだけのモノに囲まれて、常に顔色を悪くされていて。その原因が分からない分、ロイシュタイン様は私よりも気の毒なのかもしれない。

責めるのが自分しかいないのだから。



「フィー」


「なんですか、お兄さ…」



優雅な音楽が流れ初めると、会場は煌びやかなドレスがふわりと舞い出す。

その間から、美しいと嘆かれるロイシュタイン様がゆったりとこちらを見据えて歩いて来ている。まるで女神の登場のようだ。

…黒いのがいなければなぁ、完璧なんだけどなぁ。


お兄さまが頭を下げたのに気付き、私も慌てて頭を下げる。



「よく来てくれた、フェリクス、メラレイア嬢。顔を上げてくれ」


「この度はお招きいただき、有難く存じます」



ロイシュタイン様は、鬼の形相を浮かべている…そう思ったのだが。何故か先日と夜会と同じかそれ以上に穏やかな空気を纏っていた。

おや?



「フェリクス、久しいな。1ヶ月ほど会っていなかったか」


「は、はい。先月の猪狩り以来でございますね」



これから断罪しようとしているようには思えないほど、普通の会話が繰り広げられている。

お兄さまも違和感を感じたのか、戸惑ったような表情だ。

やはり普通にお兄さまが招待されただけなのでは?なんて頭を巡らせた頃、ロイシュタイン様は私にも話題を振ってきた。



「メラレイア嬢は、先日の夜会以来ですね。あまり話せませんでしたので、またお会いできて嬉しいです」


「私も、ロイシュタイン公爵にお会いする機会を頂けて大変光栄に思っております」


「そ、そうですか」



ロイシュタイン様の表情が崩れた。

私の視線から逃げるように、あちらこちらへと視線が彷徨う。まるで人ならざるモノをみているようだ。ジョークだけど。


そうして1度目を閉じ、開いた瞳は私を真っ直ぐに見つめていた。

その真っ直ぐな瞳に、私も覚悟を決める。お兄さまは不安そうな顔をしている。



「メラレイア嬢」


「はい!」


「よろしければ今宵もまた…一緒に踊っていただけませんか?」


「申し訳ござ……え?」


「え」



てっきり、先日のことを咎められると思っていたのだ。食い気味に謝ろうとして、なにかおかしいことに気付く。

もともと青い顔が更に青くなっているロイシュタイン様と私の間に、謎の空気が流れる。


そんななんとも言い難い沈黙を壊したのは、つい今まで空気と化していたお兄さまだった。



「フィー、返事はしっかりと」


「そ、そうですわよね、えぇ。まさかロイシュタイン公爵にまたお誘い頂けるとは思わなくて。私なんかでよろしければ、喜んでお受けします」



承諾の意を込めて、手を差し出す。


そこで私は瞠目した。ロイシュタイン様に纏わりついているモノが、まるで踊るのが楽しみというように小刻みに動き出したのだ。

いや、あなた達踊れないじゃん。というか、楽しいとか悲しいとか、そんな感情を持っているのか?


ロイシュタイン様は、ゆるりと目を細め、私の手を掬った。



「ありがとうございます。

…フェリクス、しばし彼女を任せてもらっても?」


「もちろんでございます。妹をよろしくお願いします」


「フェリクスの許可も出たことですし…メラレイア嬢、参りましょうか」


「はい」



振り返れば、お兄さまはにこやかに手を振っている。

売られた。


でも…ロイシュタイン様が私に触れる手から、瞳から、言葉から、全てが優しいのだ。まるで王子様にエスコートされるお姫様の気分で、煌びやかな場所へと足を踏み入れた。


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