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22、星祭

あけましておめでとうございます!

本当は元旦に更新したかったのですが、年末から体調を崩していたために書ききれず···。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。


「本当に、大きなお祭りなんですね···!」


使用人からの話や準備の様子を見ていて、なんとなくは想像出来ていたが、やはり完成したものを実際に目にすると想像を超えるお祭りとなるものだ。


普段とは違った活気のある広場に、私は思わず声をあげる。


楽しそうに走り回る子供達や、家族、友人同士。ヴィンセント様に連れて行ってもらう領地視察では、お会いしたことのない人もちらほらと見かける。領地外から来た人達だろうか。


そして、その合間合間には精霊。夜会の時にも思ったが、彼らに楽しいという感情は存在しているのだろうか。一割増くらいで、人が集まるところには精霊も集まっているような気がする。


ふっと視線を上げると、丸い精霊が何体かふよふよと浮いている。好きにしてくれて構わないのだが、夜になるとホラー感が増しそうなのでどこかで落ち着いていて欲しい。夜空を見上げる星祭りなのに、彼らに視界を遮られては星祭りの意味がない。光らないだけマシなのかもしれないけれど。


兎にも角にも、たくさんの人(?)が集まり楽しむお祭りのようだ。

屋台が立ち並び、クッキーやパンなどが売られている。中央では何かのゲームがいくつか行われているのか、三つ四つほど人の塊ができている。どこを見ても盛り上がっており、視線が忙しい。


「星祭りは、日が沈んでからが本番です。」


目を輝かせた子供を落ち着かせるために、言い聞かせるようなトーンだった。

隣に並んだヴィンセント様は、私を視界に入れて目を細める。はしゃぎ過ぎて後で力尽きないでね、という事だろうか。承知である。

いくらお祭りだからといって、昼にはしゃぎすぎて夜には力尽きてしまう子供みたいなことにはならない、はずだ。気を付けよう。

気合いを入れる様子を見てか、ヴィンセント様はふっと息を漏らした。


「とは言っても、盛り上がるのはやはり日中なのですが。」


ヴィンセント様の周りには、相変わらず精霊がくっついている。初めてお会いした時よりも数は落ち着いたように感じるが、最初があまりにも桁違いだっただけである。一般的な人に比べたら異常な数だ。

ただ少し、私が触れていない間でも、当初と比べて顔色が良い状態が続いているような気がする。気がするだけだし、ヴィンセント様も特に触れてこないので、私も触れないでおこう。


表面上はそう見えても、実際感じていることは別にあるかもしれない。


「あ、領主様!こんにちは!」

「公爵様、今年も星祭りは大盛り上がりですな!」


ヴィンセント様が歩くと、姿を見つけた領民の方たちは笑顔で話しかける。子供も、大人も、同じように。ヴィンセント様は笑顔で受け入れ、共に領民の方とお話をする。


その様子だけでも、ヴィンセント様が領主として皆に慕われていることが分かる。


領民の方の中には、以前ヴィンセント様に連れられて視察に同行していた時のことを覚えて下さっている方もいたらしく、私と話をしてくれることもあった。

たまに差し入れを貰って、ヴィンセント様と一緒に食べて。そんなことをしていると、時間はあっという間に過ぎてしまう。


ここからは私の出番だというように、昼間はただ飾られているだけだったランタンに光が灯り始める。日が傾き始めれば、暗くなるのは一瞬だ。どんちゃん騒ぎだった広場は、幻想的な雰囲気へ様変わりすることだろう。


ふっと、今まで隣にいたはずの人の気配が消えた。

驚いて隣に目を向けたが、既にヴィンセント様の姿はなかった。


(神隠し……?)


まさかな考えが浮かぶが、そう思っても不思議ではないくらい突然気配が消えた。私に声をかける間もないほど、急な用事でもあったのだろうか。


会場自体はそこまで広くないので、探そうと思えばすぐに見つかるだろう。人が多いのが難点だが。


ヴィンセント様を探すためにうろうろと顔を左右に振っていると、あることに気付く。


「領地以外から来ている人が増えた…?」


「言い伝えのおかげでしょうねぇ。おまじないとか言い伝えって、なんの信憑性もないのに不思議と信じてしまいたくなるからねぇ。」


「えっ。」


独り言のつもりだったのに、しっかりと拾われた上に答えまで返ってきてしまい驚く。


声のかかった方を見ると、少し年配の女性が柔和な笑みを浮かべて立っていた。仕立ての良いクリーム色のワンピースを纏い、白髪の混じりだした髪を一つに結い上げている。上品な印象を与える人だ。領民だろうか。そうだとしても、かなり裕福な家の方だろう。


急に話しかけてごめんなさいねぇ、とのんびりと謝る彼女に、私は首を振る。星祭りに参加するのは初めてで、星祭りに関する言い伝えなんて聞いたことがなかった。ぜひとも詳しく聞いてみたい。そんな感じのことを伝えると、「あらあら」と嬉しそうに口元に手を当てた。


「星祭りはねぇ、二人で手を繋いで流れ星を見ると、その二人は幸せになれるって言い伝えがあるんですよ。」


自分も似たような覚えがあるのか、懐かしむように頬に手を当てていた。

そういうものなのか。


言うなれば、信仰に近しい感覚なのだろうか。信仰よりも、だいぶ、軽くしたような意識が、おまじないや言い伝えとして存在しているのかもしれない。


「去年もね、どこかのどなた様かがこの星祭をきっかけに恋愛結婚なさったとかでねぇ。だから最近は、この領地以外からもいらす方も多いのですよ。」


女性の視線を追って暗くなってきた辺りを見回すと、確かに昼間に比べて男女の組み合わせが多くなったように感じる。密着度も高い。そういうことだろう。


反対に、昼間は騒がしかった子供達は帰り足だ。沢山並んでいた出店も閉まり、ランプも必要最低限しか灯っていない。この雰囲気は、賑やかしいお祭りが大好きな子供には受けないだろう。

子供は、親であろう大人と手を繋いで、楽しそうに広場から離れていく。繋いでいる手をぶんぶんと振ってみたり、父親と母親に挟まれて飛んでみたり。このお祭りが楽しかったことを、小さい身体目いっぱいで表現しているようだ。


「とても、素敵なお祭りですね。」


「うふふ、そう言って貰えるなんて嬉しいわぁ。」


女性はニコニコと笑うと、遠くに何かを見つけたらしい。


「あらぁ、残念。もうお迎えが来たみたい。もっとお話していたかったけれど、また今度ね。」


残念そうに、本当に残念そうに、女性はため息を吐いた。

私みたいな人ともっと話がしたいなんて、不思議な方である。そういえば、この紫の瞳に驚くこともなかった気がする。


女性は最後に、話が出来て良かったと私に手を振って、帰り足の親子達に紛れていく。途中で、同じく身なりの良い男性と合流していたように見えた。彼女もこの星祭りで結ばれたのだろうか。


オレンジの光に便乗するように必要最低限に灯っていたランタンも、日が沈み暗くなってくるのに合わせるように、だんだんと消えてゆく。

空を見上げると、既に一番星が輝いていた。


「フィオナ嬢。」


少し息切れした、しかし穏やかな声に、はじかれるように振り向く。

予想通り、ヴィンセント様が、何故かやや焦った表情を浮かべて立っていた。


「申し訳ございません。少し、厄介な人に捕まってしまいまして…。」


厄介な人――グレイスさんとかだろうか。


何もありませんでしたか?と不安そうに聞いてくるヴィンセント様に、首を振った。特に危険なこともなかったし、身なりの良い優しい女性とおしゃべりを楽しんでいたくらいだ。


それはよかったと呟いて、当然のように手が差し出される。もう辺りは暗くなっていて、加えて先ほどはぐれてしまったこともあり、心配してくださっているのだろう。


なんともお優しい方である。


「フィオナ嬢、お手を。」


「あ···。」


「どうかされました?」


いつも通りにヴィンセント様の手を取ろうとして、思いとどまる。先程の女性が教えてくれた、星祭りの言い伝えが頭を過った。


『星祭りはね、二人で手を繋いで流れ星を見ると、その二人は幸せになれるって言い伝えがあるんです』


言い伝えは言い伝えである。それに、『これ』が私の唯一の仕事だというのも分かっているのだが、余計な噂を立てるのは本意ではない。言い伝えと仕事を天秤にかけてクルクルと考え、連動するように手を彷徨わせる。


その様子をどう思ったのか、ヴィンセント様は手を引っ込めた。ほっとした気持ちと、残念に思う気持ちがごちゃまぜになる。なんて気持ちの悪い感覚なんだ。


「人が多くて危ないですから、掴んでいてください。」


刹那、手の代わりに、腕が差し出された。精霊除けのためではない、あくまでもただのエスコートなのだという姿勢に、胸がきゅうっと締め付けられる。ヴィンセント様は一度だって、表立って私を精霊除けとして扱ったことがない。


喜びなのか悲しみなのか、緩みそうになる涙腺に力を込めつつ、ヴィンセント様の腕に手を添えた。

どうしたらよいのか分からず、星祭りであることを言い訳にして夜空を見上げる。


「あっ。」


視線の先を、一筋の光が横切った。同時に、静かだった広場が、わっ、という歓声に包まれる。


手を繋ぐ男女が多い中、私とヴィンセント様は手を繋いでいない。けれどちょっとだけ、場違いな、そわそわとした感情に襲われた。


当然のように差し出された手。星祭りの言い伝えを知らなければ、あの時間違いなく手を取っていた。領主であるヴィンセント様はその『言い伝え』を知らなかったのだろうか。それとも、言い伝えは所詮言い伝えだとはなから信じていなかったのか。もしも、その言い伝えを知っていて、私が「手を繋いで流れ星を見ましょう」と言ったらヴィンセント様はどんな反応をするのだろう。


そこでふと考える。『信仰』というものは、同じ対象物に対して多くの人が信じることで生まれる概念のようなものである。ならば、星祭りにのみ存在するような『おまじない』『言い伝え』も大きくなれば、『信仰』という形に落ち着くのだろうか。

そして時が経つと、何事もなかったかのように忘れ去られていくのだろうか。こんなにもたくさんの人が笑顔でいるのに。


なんだかそれは、とても寂しいことのように感じた。





★この度、第5回アイリスNEOファンタジー大賞で金賞を受賞いたしました。皆様、本当にありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[一言] 金賞おめでとうございます!
[一言] 金賞受賞おめでとうございます! 最近このお話を知って、ようやく最新話に追いつきました! ヴィンセントさまもフィオナも魅力的なキャラですが、お兄様が可愛くてとても大好きです! これから精霊が…
[良い点] 短編の頃から、素敵な作品で気に入ってました。 [気になる点] フィオナとヴィンセントを取り巻く世界観と2人の今後。 [一言] 金賞おめでとうございます。 今年も物語の続きを気長にお待ちし…
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