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19、疑問



「ヴィンセント様のお身体の不調の原因が精霊だということは分かりましたが、霊力についてはほぼ知らないと思うんです」


「そうですね···」

「つまり?」



ヴィンセント様の執務室でお茶休憩をしている時、私は前々から言おうとしていたことを漸く発言することができた。

行儀見習いが主人と共にお茶休憩をするなんて何事だと思うだろう。もちろん私もそう思ってお断りしたのだが、グレイス様だけでなくヴィンセント様にすら却下されてしまったのだ。「ヴィンセント様のお身体を改善するため」と言われてしまえば、「はい」と頷くしかない。


深刻そうに眉間に皺を寄せて考えるヴィンセント様と、なにを言い出すんだコイツというような目を向けてくるグレイスさんに、私はぐっと拳を握る。



「とりあえず、手で触れる以外にも精霊を離す方法がないか考えましょう」



行儀見習いとしてロイシュタイン公爵邸に来てからそれなりに日が経つが、どのくらいの時間触れておくべきなのか、どのくらいの頻度で触れるべきなのか、全てが探り探りであるためにかなり日常生活に不便をしていた。

執務中ならばヴィンセント様の利き手では無い方の手に触れていたり、休憩する際は今のように同じ部屋で隣りあって座ったり。未婚の男女がそんな不自然なことをずっとしているわけにもいかないので、1日使ってロイシュタイン公爵領を当主のエスコート付きで回るなどもした。

お陰様でロイシュタイン公爵領の領民の方とも少し仲良くなってしまった。


それは置いておいて。ヴィンセント様のお身体のためだといってもこの生活は何かと不便すぎるということだ。流石に寝る時などは別々だが、それでも日中がこんな状態ではヴィンセント様に心労が重なって余計に体調を悪化させかねないのではないか。

ユーリア様がどのようなおつもりで提案したかは分からないが、恐らくユーリア様もこの状態は考えていなかったはず。


なので私のためにもヴィンセント様のためにも、今こそこの問題を解決するべきなのだ。



「なるほど···物を挟んでみるとか、霊力を飛ばしてみるとか、ですかね?」



霊力を飛ばす発想はなかった···というか、霊力って飛ぶのか。

どちらかというと、物を介してみることを想像していた。

余程ひどい顔をしていたのか、グレイスさんに「後者は冗談ですよ」と笑われてしまった。



「まずは身近なものから試してみるのがいいんじゃないですかね?」



グレイスさんがヴィンセント様を見つめてそう言うと、ヴィンセント様は何か思い当たるものがあったらしく、胸ポケットに入っている万年筆を手に取った。

万年筆の先の方を持ち、「どうぞ」と反対側を私に向けて差し出してくる。この万年筆を介しても精霊を離すことが可能か試してみようということなのだろう。差し出された万年筆の端をそっと握る。


(···············)


しかし、ヴィンセント様は訝しげな表情。さらには、ヴィンセント様の周りに精霊が当然のようにいる。

物を介しているから時間がかかるのかとしばし待ってみるが、特に変化は見受けられない。



「物は介さないということか?」



3人で首を傾げる。

やはり、精霊に関してあまりにも知識が無さすぎる。

とは言っても頼りになるのは、ユーリア様がお持ちだったあの文献くらい。ただ、ヴィンセント様のお身体を改善するためには共に過ごすのが良いという以外に何も言っていなかったことから、それ以上の情報はなかった可能性が高い。



「なんで、ユーリア様はあの文献の存在を公表しなかったんだろう···」



もしかしたら、私たちと同じような境遇の人がいるかもしれない。

それだけでなく、精霊に詳しい人がいるかもしれない。

王家が精霊の存在を認めれば、情報だってもっと集まる可能性だってあるのに。なぜ、そうしないのか。

独り言のように呟いた言葉だったが、すぐ隣にいたヴィンセント様はその独り言を拾う。



「そこまでのメリットが国にはないからでしょう」



ヴィンセント様はなんの効果も得られなかった万年筆を、くんっと引いて、胸ポケットに戻す。



「あの本を国民に公表したとして、その頃のように精霊が視えるようになることもないでしょうし、変に信仰心が生まれてしまっても困ります。

有益な情報が集まる可能性もありますが、同時に不利益な情報も出回る可能性があります。国民全体に公表するというコストをかけるには、リスクがあまりにも高すぎますから」



あまりの正論に、私は口を結ぶ。

そんなことは分かっている。精霊がいると王家から公表されたとして、誰もそんなものは信じないだろう。

信じないで済めばいいが、何か裏があるのではないかと勘ぐる人も出てくるかもしれないし、これ幸いと適当な話を作って私腹を肥やそうとする人も出てくるかもしれない。

それほどまでに、王家の力は絶大である。



「不便をかけてしまって申し訳ないと思っています。ですがどうか、もう少し辛抱していただけませんか?

もしかしたらこの結果が、精霊の存在を公表するためのきっかけになる可能性だってあります」



私がこの生活を抜け出すために文献を公表したいと言っていると思ったのか。ヴィンセント様は私の手を両手で包み、困ったような表情を向けてくる。

どちらかと言えば、ヴィンセント様がこの生活を不便に思っていると考えての発言だったのだが。



「精霊や、殿下の仰る霊力について我々で探るというのもいい手かもしれないですね。口出しをするような使用人はここにはいないですし、色々試してみるにはいい機会ですよ」


「試す···ですか」


「ええ、今のように」



情報が多ければ、それだけ公表する価値が出てくるということだろうか。成程、今も霊力は物を通さないという可能性が出た。

うーんと、顎に手を当て考える。

精霊に対しての疑問···と言われても、物心ついた頃から周りにいた彼らに対して今更何を思えというのか。



「ちなみにヴィンセント様は、精霊や霊力に対して気になることはありますか?」


「私ですか?そうですね···会話できるかとか、触り心地とか気になりますね」



(触り心地─?)



「精霊は、会話したり触れたりできるのですか?」




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