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13、紐帯

更新遅くなりすみません。

今後の展開に悩み、難産でした···



うごうごと、子供の拳サイズの黒い何かが動いている。

ただじっと眺めていると、後ろから声が掛かる。


「何をしているの?」


「大っきい蟻がいるから観察してたの。これ、なんていう蟻かなぁ」


「…君、何言ってるの?そこに蟻なんかいないよ…?」



気味悪そうにこちらを見る子供の目。

それを最後に場面が切り替わる。



手招きする小人に、私はぽてぽてと付いていく。

だが、急に後ろに腕を引っ張られた。



「フィオナ!どこに行くつもり!?」


「小人さんが、こっちにおいでってゆってるの」


「まぁまぁ、この間の物語の再現かしら?でもそっちは危ないわ。帰りましょう」



不思議そうにこっちを見る小人に、「ごめんね」と呟いた。

そこでまた暗転する。



どこか綺麗な庭園。

池を眺める子供達に、ゆっくりと近付く。



「そのヒヨコ、可愛いね。お友達?」


「ヒヨコ…?ヒヨコなんか飼ってないけど」


「え、えっと…じゃあそのわんちゃんは?」


「君さっきから何言ってるの?気持ち悪い!」



真っ青な顔をして叫ぶ子供。

私は走り去るその後ろ姿を呆然と眺めていた。




思い出そうとすれば、いくつもの記憶が蘇ってくる。皆に見えていて当たり前だと思っていた黒い存在。

子供の頃は、自分は何もしていないのになぜそんな目で見られるのか、なぜ怒鳴られるのか分からなかった。でも、彼らの反応は正しかった。


いつからか、黒いモノはシャットアウトするようになって。できるだけ人と関わらないよう屋敷に籠るようになって。


でもデビュタントしてしまえば外に出るのは余儀なくされ。そこでヴィンセント様と出会い、目を塞いでた手を無理やり引き剥がされたのだ。

悪い意味じゃない。

彼に出会わなければ、きっと私はずっと塞ぎ込んで、黒い存在に目を向けることなく生きていただろう。





「ヒヨコ、小人、犬···人の傍にいるモノ。うん、たぶん、間違いないと思う」



私の話を聞いたユーリア様は、しっかりと頷いた。

私は、息を呑む。人ならざるモノの正体が、漸く分かるのだ。







「──君達が視ているモノは、精霊だろう」


「…精霊?」



しかし、思ってもみない回答に私はきょとんとしてしまう。


精霊とは、あれか?小さな人型をしていて、羽が生えていて、魔法を使ったり人間に力を分け与えたりするあれか??

それにしては、真っ黒だし羽生えてないし魔法も使う様子ないんだけど。まだ化け物とか悪霊とか言われた方が納得いったかもしれないんだけど。



「物語と現実は違うからね。残念ながら物語のような精霊は存在しないよ」



私の思考を読み取ったかのように、説明してくれるユーリア様。


そんな現実なら知りたくなかった。

物語のような精霊だったら、キラキラしていてまた違った世界が視えていただろうに。何故よりによって黒なのか。



「あれ?でも待ってください。グレイス様は視えるんですよね?まるで今、人ならざるモノが何か分かったみたいな感じでしたけど…」


「あぁ、そうか。そこまでは言ってなかったね」



ユーリア様の代わりに、グレイス様が答える。



「確かにわたくしは、人でも動物でもないモノが視えます。しかし、ぼやけたモヤのような、輪郭がはっきりとしないのです」


「だから、フィオナ嬢の話を聞くまでは確信が持てなかったんだ」



ぼやけたモヤ。それはそれで不気味で嫌だな。

人によって視え方が違うのか。


それでも···、可能性として“精霊”は早い段階から上がっていたはずだ。他にどんなモノがいるのかわからないけれど。



「精霊ではないかと前から予想がつきながら、教えてあげなかったのですか···?ヴィンセント様は、ずっと体質のせいだと思っていたのに···」



失礼を承知でも、どうしても言いたかった。

ずっと体質のせいだと、自分を責めるしかなかったヴィンセント様。もっと早く知ることができていたなら···。


だが、ユーリア様は怒る様子もなく、思ってもみない回答をした。



「じゃあフィオナ嬢はなぜヴィンセントに、黒い何かが沢山ついているよ。身体が疲れやすいのはそのせいだよ。と教えてあげなかったんだい?」


「え···それは、人ならざるモノは何なのか分からなかったし、本当にソレが原因かも分からなかったから···」


「僕達も同じだよ。精霊かもしれない、けれど確信が持てない。もし精霊だったとしても、それを解決する手立てはゼロだ」


「でも···」


「例えば、君の見ているモノは悪霊かもしれないよ。もしかしたらいつか君を襲ってくるかもしれないけど、それを止める手立てはないよごめんね

って言われて、黒いモノが何か知れてよかった!って思う?」



漸く、ユーリア様の言っている意味が分かった。

なんの責任もなく発言することは、返って相手を不幸にするかも知れない。

攻撃してくるかも分からない、それを解決する方法も分からない。だったら、自分の体質のせいにしていた方が生きやすいのかもしれない。



「もはや精霊は、今を生きる僕達にとって空想上の存在でしかないんだ。所謂ユニコーンであったり、トロールであったりと変わらない。

それこそフィオナ嬢の話を聞くまでは、悪霊や魔物の可能性も捨てきれなかった」



悪霊や魔物いるのか。

精霊が存在しているなら、どちらも存在していてもおかしくない。なんなら、ユニコーンもいるんじゃないか?そう思わされるくらいには、衝撃である。



「もちろん、変なことがあればすぐ分かるようにグレイスを近くに付けていたけどね」



そのための“視える”グレイス様だったのか。



「そこで最近、グレイスから興味深い報告を受けたんだ。触れると黒いモノを消し去る令嬢がいる···と」



間違いなく私の事だった。

···いつから、だろう。初めてお話した時には既にグレイス様は気付いていたのだろうか。


(つまり今までのことは、信頼出来る出来ないの問題ではなく、“様子見”だったということか)


なんだかとても振り回された気がする。恨みがましく()()に目を向ければ、彼は眉を下げて困ったように微笑んだ。



「フィオナ嬢、どうか協力して欲しい」



王太子の威厳というものなのだろうか。よせばいいのに、逡巡する間もなく頷いてしまっていた。



そこで一旦話がついたというように、ユーリア様はニッコリと笑って両手を合わせた。



「さぁ、詳細は当事者を交えて話していこうか」



(·········えっ)



ユーリア様が近くに置いてあったベルを鳴らすと、少ししてコンコンと扉が叩かれる音がする。

それからゆっくりと開かれた扉から入ってきたのは、やはりヴィンセント様だった。


グレイス様を見て、ゆっくりと視線が流れて私と合い、ヴィンセント様の瞳がこぼれ落ちそうな程に開かれた。王太子殿下に呼ばれたと思ったら何故か執事と伯爵令嬢がいるんだもんね。どんな組み合わせだと思うよね。



「ゆ、ユーリア殿下!なぜ、フィオナ嬢とレイが一緒にいるのです!」


「あはは、そんなに焦んないでよ。これからの話に2人が必要だから呼んだんだ」


「っ···ならば私もレイと一緒に呼んでくだされば···!」



レイ。多分グレイス様のことだろう。

ヴィンセント様は、執事がグレイス様だと知っていたのだろうか?



「まぁまぁ、取り敢えずこっちにおいで」


「少しは人の話をっ」



そして目の前で繰り広げられる光景に、これは現実かと目を瞬く。


この国の王太子であるユーリア様に、王太子も認める公爵であるヴィンセント様。それだけでも非現実的なのに、こんなに雑に扱われる公爵様。

非現実的すぎるこれからの話。

生きているうちに···いや、何度生まれ変わっても経験出来るか分からないほどの事が起こっている。


思わずグレイス様に目を向けるが、ただ諦めるように首を振られるだけだった。

いつもの事なのだろう。



暫くそんな目を瞬くやり取りがなされた後、ユーリア様は満足したようにふっと雰囲気を変えた。

馴染みやすい人から、王太子の風格へ。ヴィンセント様もグレイス様も私も、ぴしりと姿勢を整える。




「ヴィンセント、君の身体に関わる大事なことだ」




─さぁ、話をしよう。


勢揃い

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