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11、進展



「こんにちは、お嬢さん」



帰る時は裏口から出ることになったため(なんか表が凄い混雑していて近くまで馬車を呼べる状態ではなかったらしい)、ヴィンセント様は馬車をこちらの方に呼んでくるからとこの場を離れた。

すぐに戻るような感じだったので、そのまま裏口を出たところで待っていたのだが。


今、めちゃくちゃ怪しい人に声をかけられています。


黒いローブに身を包んで、フードまで深く被っているため顔がよく見えない。身長と声からして、男だということは分かるが、逆に言えばそれしか分からない。

いくら裏口とはいえ、お店であることに変わりはないし大通りが近くにあるのでそんなに危ない道ではないはずなのだが。



「あぁ、僕は怪しいものじゃないからそんなに怖がらないで···っていっても無理か」



どう考えても怪しい。

思わず裏口の扉の取手にそっと手を伸ばすが、それに気付いたらしい怪しい男は慌てて制止の言葉を続けた。



「僕は、君の知りたいことの答えを持っているかもしれないって言ったら、少しは話を聞いてくれる?」


「···なんですって···?」



取手にかけていた手を止める。

怪しいことには変わりないが、どうしてかこの男の言葉を聞かないと後悔するような気がしたのだ。


もちろん、いつでも助けを求められるよう準備は万端にしてあるが。



「ヴィンセント・ロイシュタイン」



ぴくりと私の肩が揺れ、取手から手が外れる。

その反応を待っていたというように、怪しい男はふふっと息を零した。



「彼の周り、おかしいと思わないかい?」


「···············」



私の“知りたいこと”の真っ只中にいるものであるだろう。人ならざるモノに囲まれる、彼。


周りという言い方に、違和感を覚える。

そう、間違いなく()()()()()()()ではなく()()がおかしい。

おかしいのだが、普通ならばヴィンセント様が、と思うはずなのだ。



「少しでも信じてくれるなら、これを持って2日後に王宮においで」



不意に手を取られ、小さく硬いものを握らされる。それを開いて確認することなく、私は顔の見えない男をじっと見つめた。



「王宮···あなた、王宮勤めの人···?」


「それも会った時に教えよう。お相手が来てしまったみたいだからね、続きはまた今度」


「あっ!」



ひらりとローブの裾をはためかせ、大通りの方へと颯爽と消えていく。


握らされた何かを、手を開いて確認する。

それは、金色に輝く小さな胸章だった。表面には王宮のモチーフともいえる花と冠のようなものが細かく彫られている。


噂に聞いたことがあるが、王宮に務める者に一人一つ配布されるもので、出入りするにはその胸章が通行証代わりになるともいえるらしい。実物を見たことがないから、これが本物かどうかは定かではないが···。

というか、そんなもの一般人に渡していいの?


ぽかんと、男が去っていった方を見つめていると後ろから私を呼ぶ声がかかった。



______



ガタガタと揺れる馬車の中、向かい合うヴィンセント様の顔をまともに見れずただ俯いている。

いくら念願のミランジュのカフェだったとはいえ、はしゃぎすぎた自覚はあるのだ。


この無言の空間が気まずいと思ったのか、ヴィンセント様は小さく咳払いしてから私に声かける。



「ミランジュは楽しかったですか?」


「ええ、とっても!ありがとうございました」


「ではまた機会があれば一緒に行きましょう」



ふわりと微笑んだかと思うと、ふと強ばったような表情に変わる。

そんな表情するような流れだったかしらと、私も釣られて身体が強ばるのを感じた。


気になっていたことを聞いてもいいですかと言われたので、恐る恐る首を縦にふる。



「その···フィオナ嬢は、気になったことは物怖じせず言う性格だと思っていたのですが」



え?待って、私そんな風に思われてたの?

どういうところが!?



「貴女は一度も、私の体調については触れませんでしたね」


「え、えぇ…」



何を言われるのかドキドキしながら頷いた。

体調というか、原因なんとなく分かっちゃってるからね。触れるも何もね、ないと思うんですよ。

でも、一般的な人だったら触れるのか…?

いつからですか?とか、顔色悪いですが大丈夫ですか?とか…?



「身体が弱いとか病気持ちだとか言われていますが、全然そんなことはないんですよ。あまり説得力がないかもしれませんが…」


「執事の方も仰っておりました。ヴィンセント様の身体は至って健康だ、と」


「執事が…?いえ、その通りです。ただ体質的に疲れやすいだけなのです」



一瞬微妙な顔をしたのはなんだったんだろう。執事に、体調のことは話さないように口止めでもしていたのかしら。

しかしそうか、ヴィンセント様は身体の異常を「疲れやすい体質」として受け入れていたのか。



「ですが、フィオナ嬢といるとその疲れも嘘のようになくなるのです」


そりゃあ、纏わりついていた大量の人ならざるモノが消えるんですもん。


「他の令嬢といくら踊っても、いくら話しても、そんな経験は1度たりともありませんでした」


他のご令嬢は、人ならざるモノが見えていないですからね。


「きっと、運命だと思うのです。」


……ん?


「初めてお会いした時には気付きませんでしたが、今日まで会っていくうちに確信に変わったのです。私は、フィオナ嬢のことが、」

「違います」



思ったよりも冷めた声がでてしまった。多分表情も声色と同じくらい冷めているのだろう。

ヴィンセント様が意表を突かれたような表情をしているが知ったこっちゃない。



冗談じゃない。



必要以上に、そう、普通の未婚同士の男女の関係としては信じられないほどに短い期間での関わりの多さ。それは、魔除けかお守り代わりとして傍に置いているつもりなのだと思っていた。


しかし、今のヴィンセント様の発言は、私が余程曲解をしていなければ、“人ならざるモノがいなくなって身体が軽くなる”のを“恋”が原因だと勘違いしている。


それではあまりにも可哀想ではないか。

あんなに美人な婚約者候補までいるのに、人ならざるモノを遠ざける以外なんの取り柄もない女を好きだと勘違いしてしまうのは。




ヴィンセント様も、私も、勘違いしてもお互いに傷付くだけなんだ。

もう、このまま何も知らぬ存ぜぬを通すわけにはいかない。




私は、先程の怪しい男から渡された胸章をぐっと握りしめた。

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