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今までは自然に好きになって、『付き合わない?』といった具合の少しライトな告白だったが、今回は付き合う前から、死ぬほど愛してるレベルだ。ビビって当然だし、怖くて当たり前だ。安奈の話しだと、断られる可能性はほぼゼロだが、お得意の臆病風が吹き抜けていた。
「彩乃と話して分かった事があるんやけど……」
「何?」
「あの子、すごい焼きもちやきやわ。この間、テニス部の子と話ししてたやろ?」
「テニス部の? このみの事か?」
「そう。日焼けして真っ黒やけど、めっちゃ可愛いやん」
「いや、中学が一緒でさ。たまたま話ししてただけで」
「彩乃、めっちゃ意識してたよ。体育の時間とか」
僕は、笑っている彩乃と腹痛で悶絶していた顔ぐらいしか知らない。彼女の色んな表情を見たいし、誤解も今すぐにでも解かないといけない。早くしないと、彩乃を狙っている男がゼロというのはあり得ない訳だから──。
「彩乃って、モテるよね?」
「モテるね。かなり。この間も、放課後に告白されてたよ」
「誰にっ?」
「3組の遠藤」
3組の遠藤は、我々の制服の着こなしを真似っ子してる金髪のアホだ。アホかどうかは分からないが、多分アホだ。
「ぶっ殺してやる!」
「近ちゃん、そいつすでに死んでる模様」
「どういうこと?」
「彩乃、即効で断ってたよ。こんなところ近本君に見られたら誤解されるって言ってたわ」
臆病風はもう吹き抜ける事はないだろう。完全にスイッチが入ってしまった。この飲み会もどうでもよくなってきた。彩乃に会いたくて仕方がない。今すぐにでも。
「盛り上がってるところ悪い。軟骨唐揚げと揚げ出し豆腐」
リーチは空いているお皿を片付けて、黒い角皿と赤いお碗を置いてくれた。
「ありがとう。めっちゃお酒飲みたい」
「それな。近ちゃん」
「後で5分ほど時間くれるか?」
「ん? どしたん?」
「いや、おまえが店に来た時に伝えとかなあかんと思ってな」
リーチが真剣な顔で見ている。一体何の話しなんだろうか──。心当たりがないから少しドキドキした。何より、あんな表情のリーチは見た事がなかった。