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安奈は照れ臭そうに下を向いていた。僕が知る、あの小憎たらしい彼女は何処にいったのかと思うほど別人になっていた。制服の着こなしからみても、私服も当然派手なんだろうと想像していたが、清楚なピンクのワンピースに、白い薄手のカーディガンを羽織っている。彼女を知らない人から見れば、元暴走族とは誰も思わないだろう。
「そうなんですよ。付き合いたてほやほやです」
「めっちゃ可愛いね。羨ましいわ。ていうか、同い年やから敬語は勘弁な」
信じられない光景だ。あの安奈が、『可愛い』と言われただけで顔を赤らめている。恋をすると、こんなにもキャラが変わるとは──。
「今日は、かなり生徒指導の奴がパトロールしとるぞ。烏龍茶にしといた方がええわ」
「分かった。適当に焼き鳥頼むわ」
「オーケー」
当たり前の事だがお酒は20歳からだ。夏休みに入ったばかりだし、生徒指導の先生が繁華街に来る事は知っていた。リーチの言うように停学になるよりマシだ。今日はかなり飲みたい心境ではあるが、烏龍茶で我慢するしかなさそうだ。
「近本君、友達多いね。でも、あの李が友達になるとは思わんかった」
「ちっ近本君て。やめてくれよ。くすぐったい」
「近本くんは近本君だから間違ってないでしょ」
喋り方まで全く変わっている──江戸やんの教育なのか、或いは恋の為せる技なのか。いずれにしても、羨ましくて仕方がない。
「りーくんと今度遊ぶよ。りーくんの家で」
「うそっ! あり得ないよ。中学の時からそんな話し聞いた事ない」
「そうなん? りーくんめっちゃ好き。めっちゃおもろいしな」
「そうそう。最初はおっかない感じだったけどさ。テイッシュ配りのバイトだったよな」
「うん。あの時かなり病んでたからな。ほんましんどい時期やった」
りーくんのバイトを手伝っていなかったら、おそらく友達にはなっていないだろう。本当に苦しくてどうしようもなかったけど、大抵の事は時間と良き友達が解決してくれるものだ。
「俺も。ヤバかったよ。近ちゃんが声を掛けてくれたからさ」
「またその話しやな。もう5回は聞いた。でも近本君が友達になってくれたから、こうして付き合えたんやもんな」