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この間、ここに来た時よりも更にギアが上がった蒸し暑さの中、タバコに火を付けた。喫茶店でも相当吸ったからだろうか、吐きそうになった。空腹もあるかもしれない。いや、おそらく明らかによそよそしい彩乃の態度のせいだろう。仕方がないと言えば仕方がないが──。
逆の立場ならいつも通り笑って接していただろうか──いや、無理だろう。彩乃は精一杯対応してくれた方だと思う。僕ならあんな大人にはなれなかっただろう。
タバコの灰が落ちるまで手に持っていた。放心状態というか、どうしていいか分からなかった。別に付き合っている訳ではない。言ってしまえば、僕が誰と何をしていようが彩乃には関係ない話しだ。
だが、逆の立場なら許せない訳で。強がってみても安いメッキはすぐに剥がされてしまった。
どうにか彼女に本当の事を伝えたい──正門で会った人は単なる友人で、何の関係もない人であると。そして、彩乃に気持ちを伝えたい。いつもどんな時でも僕の頭の中を支配していると。
僕は、重い身体を引きずるようにして駐輪場に向かった。色々考えたが、今日は難しいと判断した。このままバイトが終わるまで待っていようと思ったが、七恵との会話で相当疲れていた。あんなに本音をぶつけた事はなかったから、その反動かどうかは分からないがとても眠い。元々、不眠症であまり眠いという感覚は昼間にしかやって来ないが、今はこの熱帯夜の中でも眠れる自信がある。
明日からは夏休みだが、全く浮かれた気分にならない。序盤は、りーくんや、江戸やんと個別に遊ぶ約束をしているが、その先は何の予定もないからだ。きっと、みんなそれぞれの女と遊んだりするんだろう。江戸やんも何やら良い感じらしいし、独りぼっちの8月になりそうでとても憂鬱だ。彩乃とはうまくいきそうにないし、僕だけが完全に取り残されたような気がした。
小1時間かけてようやく家に着いた。最近、両親ともあまり会話をしていない。毎日、学校帰りに遊びほうけているから帰る時間も結構遅くなるし、家でほとんどご飯を食べない。帰宅して、風呂に入りダラダラと自分の部屋で妄想を繰り返し、朝になればまた学校に行くという具合だ。だが、明日からは学校もない。おそらく、進路についてガミガミと言われるだろうから、なるべく両親に遭遇しないような工夫をしながらこの夏を乗り越えなければいけない。