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グラウンドの東側にプールがある。その裏手は校舎からは完全な死角になっていて、レプと度々そこでタバコを吸っていた。喫煙ポイントとしては最高の場所にもかかわらず、他の生徒がほとんど来ない。まるでこの学校には、レプと僕しか学校で吸わないぐらいのかと思うぐらい誰も来ない。僕ら3人は各々のタバコに火を付けた。
葉桜が目立つようになってきた。フェンスの向こうに見える桜並木は若干薄紅色だが、鮮やかな緑の若葉が圧倒的に多かった。僕はこの季節が好きではなかった。3月から5月までの期間は何故かアンニュイな感じになる。それは、彼女と別れたからではなく、小学生の頃からそうだった。みんなが桜の木を見上げている中、僕は散っていく花びらばかりを目で追うような子供だった。散った花びらが風で隅っこに追いやられ、集まって地面にへばりつき、やがて変色して薄い煎餅みたいになる末路を想像してしまうのだ。そして、散ってしまった桜の木は、それが桜の木である事などみんな意識もしなくなる。ただの天邪鬼かもしれないが、僕にはどうしても朽ち果てた景色の方が美しく感じてしまうのだ。
「近ちゃんっ! 灰がズボンに落ちたど!」
「わっ! 焦げる焦げる!」
壁にもたれ黄昏過ぎてしまった。自分のズボンに灰が落ちている事に気付かないぐらいに。
「これ使いなよ」
「あっありがとう」
梅野君は、学ランの内ポケットから水色のハンカチを取り出した。
「自分、優し過ぎやろ」
「いやいや。普通だよ。てかさ、自分てひょっとして俺の事?」
「せや。なんで?」
「いや、東京じゃ自分は自分自身の事でしか使わないから」
「そうなんや! レプ、知ってた?」
「近ちゃん、俺は元々渋谷だぜ」
「嘘つけよ。大阪でもど田舎エリア出身やろが」
レプとのやりとりで梅野君は腹を抱えて笑っていた。
「腹痛え! 久々だわ。こんな笑ったの」
「自分、いつも寝てるもんな」
「そう。起きたら放課後になってないかなって」
「それな! ほんまそれやわ」
僕らは、横一列に並び、所謂『ヤンキー座り』でタバコを吸っていた。断っておくが、僕はそのヤンキーではない。むしろ、そういう類いの輩を見下していた。理由は、基本ダサい、五月蝿い、人様に迷惑をかける等々。よくそのヤンキーに間違えられる事があるが、僕の中ではそれが一番嫌な事だった。