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「間近で見るとやっぱり男前やね」
「急にどうしたんすか?」
「髪型は良いけど、黒髪の方が色気増すよ」
“色気”という言葉自体、あまり馴染みがない。本来は女性に向けて使われる言葉と思っていた。
「増すという事は、色気があると?」
「バリバリやろ。この間も君達が帰った後に話してたんやで」
レプの彼女である香織のマンションに行った時、レプは渋谷で撮った5人組の写真を見せていた。
「あの時、1番人気あったのは江戸やんでしたよね」
「優香と仲良くなった子やろ? 確かに大阪にはいてないレベルやな」
今までだと友達の事を褒められると嬉しかったが、今回は細い針でチクリと刺されたような痛みが走った。
「ただ、さっきも言ったやん? 君には影があるって」
「はい。確かにおっしゃってました」
「それが堪らなく良いのよ。みんな、君が10年後1番カッコいい大人になってるって言ってたわ」
10年後の自分──想像した事もなかった。いや、高3で進路を悩まないといけない時期に、自分の未来を考えた事もないとかあり得ない話しだ。きっと、“たかが知れている”と心の何処で諦めていたからだと思う。
「立派な大人になれるでしょうか?」
「道を間違えなければ」
「僕の明日はどっちなんすかね」
「それは君のこれからの大仕事やな。頑張りや」
考えないようにしていただけだった。とくに将来の事は。春先に女と別れてから、全てに臆病になっていたのは間違いない。彩乃の事も、これが高2なら今頃付き合っていて、幸せな夏休みを過ごしていたはずだ。
5人組でいる時もそうだった。孤独から救ってくれたし、一緒にいると最高に楽しいんだけど、何処で負い目を感じていた。この七恵という人は、そんな事も含めて僕には影があると言ったのか──。
「もっと楽にいかないと。じゃないと、自ら独りを選択してしまうよ」
僕は5人組の中で1番背が低い。5人組どころか、クラスでもかなり低い方だ。さらに、彼らは“超”がつくほどの男前だ。僕がその中にポツンといる事に僕自身が1番違和感を感じていて、その事が彼等への劣等感へと変わっていった。