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平成初期型!!  作者: 稲田心楽
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10ページ目

 

 七恵のお気に入りスポットに30分ぐらいいただろうか──学校付近に戻ってきた。彼女のリクエスト通り、行きつけの喫茶店に案内した。高級車が入っていくにはタイトな路地だ。



「ここです」


「ええわ。こういう店減ってきてるしな」



 彼女は難なく路地をすり抜け、店前に高級車を止めた。



「車大丈夫すかね?」


「大丈夫やろ。通れるよ。私やったら余裕。文句言われたら移動するし」



 お構いなしのようだ。偏見かもしれないが、お金持ちは自分が世界の中心と思っているのか──。



 僕は鈍い鐘の音がする扉を開いた。



「マスター、相変わらず暇そうやね」


「おっ! 来てくれたんや。ていうか、またどえらいべっぴん連れてるやないか!」


「はじめまして。車、大丈夫かしら?」


「大丈夫大丈夫。人すらあんまり通らないから。何処でも座ってください」



 マスターの顔がいつもに増して締まりがなく見える。マスターでなくても誰でもそうなるだろう。こんな田舎の喫茶店にはまず来ないであろう人種なのだから。



 僕はいつも座るゲーム機のテーブルに案内した。



「めっちゃ懐かしいやん。ヤバイ」


「僕はいつもこの席です」


「もう一周まわって最先端やわ」



 彼女も僕と同じで、少しズレた人なのかもしれない。普通、新地のホステスさんをこういう類の店にデートで連れて行こうという発想にはならない。いや、あってはならないだろう。僕の提案ではなく、自ら来たいと言った彼女は、間違いなく“変わり者”だ。



「何飲みます? 七恵さんがいつも飲んでるような果汁たっぷりジュースはないですよ」


「誰がそんなん毎日飲んでんねんな。逆に舌に残る気がして嫌やわ」



 思わず笑ってしまった。意外と庶民なんだと思った。



「何か可愛いすね」


「なっ何よ、不意打ちやわ」



 彼女は照れたのか、右手の平を団扇代わりにして顔を扇いでいた。



「じゃあ、僕が決めていいすか?」


「うん。そんなん好き」


「そんなん好きなんや。マスター、アイスレモネード2つ」


「あいよ。甘めのやつな」


「よろしく」



 彼女が僕の顔を見てニヤニヤしている。その顔は先程まで見せていた大人の雰囲気ではなく、同級生と言ってしまうと言い過ぎかもしれないが、凄く幼く見えた。



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