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確かに彼女を軽く見ていた。いや、そう見ないでいられるのか──。
部屋の中なのに水着姿で、制服着用をほぼ強制させて、普通なら乱行パーティーになっていてもおかしくない。それを、今更“軽くない”と言われても説得力はゼロである。だが、彼女がその時に見せた瞳は、彼女が僕に言ったような何処か影というか闇に近いもの感じた。
「すいません、調子に乗ってしまいました」
「いいんやけど、あの娘はどうするん? 諦めて私と大人の付き合いする?」
何故、終業式の日にこんな二択を迫られているのか──彼女の肩まである黒髪から、シャンプーの匂いがした。さっきまでタバコの煙が充満した車内にいたのに、彼女からは色々と混ざった匂いは微塵もしなかった。
「二股は嫌やから……」
「二股は嫌と言われても……」
彼女はそう言うが、彩乃とは付き合っている訳ではない。一方的にこちらが好意を抱いているに過ぎない。彩乃も同じ気持ちだと最高だが、僕が事を起こさないかぎり彼女の気持ちを知る事はないだろうし、このまま何も変わらないだろう。よくよく考えてみると、七恵には彼氏がいる。それは、彼女が言う“二股”ではないのか──。
「質問よろしいですか?」
「何でも言って」
「七恵さんには彼氏がいる訳で。それは二股にはならないのですか?」
「ならない」
真顔で言い切られてしまった。あまりにもの斬れ味で、八つ裂きにされた事に気付かない雑魚キャラのような状態だ。
「いや、おかしくないすか?」
「だって好きちゃうもん」
大人の女性を理解するには、まだまだ経験値が必要なのだろう。まるで旅立ちの村から、一気に物語の四天王クラスにバトルを挑むようなものだ。分からなくて当然だ。
「……。未熟者すぎて分からないす」
「好きでもないのに付き合ってるのは何でかって?」
「……そうすね。簡単に言えば」
「じゃあ、君は何で胸を触ろうとしたの?」
「触りたかったから」
「それと同じ」
同じではないと思った──僕は男で、極端な話し、好きでもない女性と色々できるが、女性はそうではないはずだ。いや、もう分からなくなってきた。
「七恵さん、僕をどうしたいんすか?」