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「なんかええわ。君、若いのに影あるしな。それが理由やったんか」
「影? 暗いって事?」
「いや、全く違うね。女はそれに弱いねん」
またよく分からないワードに戸惑った。“影”があるなんてもちろん言われた事はない。具体的にどういう意味か聞いたが、とりあえずは褒め言葉みたいだ。8つも歳が離れていると、異性を見る視点も大人というか、ただ顔がいいとか、背が高い、高収入であるとかではないらしい。顔はそこそこいけるんではないかと自負しているが、身長は低いし、まだ学生だし、高収入なはずもない。おそらくこの先も、そんなにお金持ちになっているイメージも湧かない──。
高速を降りて、七恵が好きなスポットに連れて行ってくれた。都会の海というか、倉庫や工場で囲まれた灰色の景色だ。
「降りよか」
「はい」
車を降りた途端むせ返るような暑さに襲われた。クーラーの効いた車内に小一時間はいたから、余計に暑く感じた。
七恵は防波堤の下を覗き込んでいた。魚でも泳いでいるのか、僕も彼女の後ろにつき、同じ場所を見た。
「うわっ! 小魚がいっぱいいますね!」
「そうやろ。こんな都会の汚い海でもたくましく泳いでるわ」
夏の日差しが灰色の海を輝かせていた。ずっと見ていると目がおかしくなって、近くにいる七恵もぼやけて映っていた。
「ここは私が落ち着く場所やねん。近本君もそんな場所ある?」
七恵の言う落ち着く場所とは、自分の家のトイレとかそういう意味ではないのだろう。自分だけの場所、仲間が笑って過ごせる場所──。
「行きつけの喫茶店ですかね。仲間で行っても、1人でも落ち着きますね」
「行きつけの喫茶店? そこに連れて行って!」
七恵は笑顔で抱きついてきた。ふくよかとは言えない胸が、僕の理性という壁を削っていった。彼女は大人である。別に胸ぐらい揉んでも何とも思わないだろう。
「だめっ! 好きな娘いてるやろ。その娘を諦めるなら好きにしていいよ」
シャツの上から胸を触ろうとしたら、両頬をつねられそう言われた。
「彩乃を諦めろと?」
「当たり前でしょ。私、そんな軽くないんやから」