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「タバコ吸っていい?」
「いいですよ。僕もいいすか?」
彼女はメンソールのタバコをドアポケットから取り出して、シガーライターで火を付けた。僕もそれを借りて、タバコに火を付けた。いつも江戸やんからもらったジッポライターを使っていたので、あの独特の香りがしないシガーライターに物足りなさを感じた。
「近本君、ベル持ってる?」
「はい。持ってます。昨日からですけど」
「昨日まで持ってなかったん?」
5人組とは学校で毎日会っていたし彼女もいない。必要ないと思っていたけど、夏休みに入ると連絡も取りにくいという事で、全員がポケットベルを持つ事になった。
「後で教えくれる?」
「いいですけど、あんまり使い方分からないです」
車内は2人の副流煙で少し曇っていた。彼女は、黒のミニスカートにぴったりとした白のシャツ、金色でどこかのブランドのロゴがプリントされていた。見るからに高そうである。ハンドルを握っている左手首には、ダイヤモンドが散りばめられた高級腕時計が輝いていた。
「七恵さん、この間聞きそびれたんですが何の仕事をなさってるんですか?」
「言わなかった? 北新地でホステスやってるけど。今度遊びにおいで」
北新地──行った事はもちろんない。同じ大阪ではあるが未知の世界だ。綺麗なお姉さんとお酒を飲むエリアという事は、高校生の僕でも知っている。
「いやいや、無理ですよ。芸能人とかが遊ぶところですやん」
「お笑いの人来るよ。師匠クラスやけど」
「お金持ってそう。その時計も客のプレゼントですか?」
「これはお母さんに買ってもらったかな」
そんな時計を買ってもらえるという事は、所謂“ええとこの娘”である可能性が高い。それなら、何故ホステスをしているのか聞きたかったが、それよりもミニスカートから出ている脚がどうにも気になって仕方がなかった。
「近本君、さっきから、めっちゃ脚見てない?」
普通、見ていても、『見てるわけないです』とか言うもんだが、僕は正直に言った。
「見てますね。ガツガツに」
「正直でよろしい」
信号が赤になり、七恵は挑発するように美脚を見せてきた。