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僕とレプは教室を後にした。9月1日までここに来る事はない。扉を開ける前、背後に視線を感じたが、足早なレプにつられて振り返る事が出来なかった。最後にじっくりと彩乃を見たかったが、またバイト先に顔を出せばいいだろう。明日は江戸やんと遊ぶし、月末はリーくんの家に行く。明後日あたりに彩乃に会いに行こう。出来ればその日に告白出来れば最高だが──。
靴箱から黒のスニーカーを取り出して正門に向かった。とりあえず学校から早く立ち去りたい。あんな派手な歳上女と正門で長話などしている所をクラスメイトに見られたりしたら、とんでもない事になる。ましてや、彩乃に見られたら完全に終わりである。そんなハイリスクな事に何故巻き込まれているんだろうか──。あの時七恵には好きな人がいるとはっきり言ったはずだし、水着姿ではあったが、人生の先輩から金言等も頂いた。それなのに何故会いに来たんだろうか。本当に香織の付き添いなのか、あるいは別の目論見があるのか、いずれにしても正門での長居だけは絶対に避けないといけない。
「うわっ! マジで高校生やん。正門から出てきたし」
「近本君も来たし」
真正面にビカビカの赤いスポーツカーと黒のセダンが止まっていた。夏の日差しが、さらにボディをギラギラに光させていた。いくらするのか分からないが、普通に働いて買える代物ではないだろう。それを25歳でオーナーになる彼女達って一体──。
「めっちゃ懐かしいわ。終業式やろ」
「8年前か」
「言うな! それを」
レプは赤いスポーツカーの前に駆け寄り、香織と話し出した。僕は黒いセダンにもたれている七恵にお辞儀をした。
「近本君、元気やった?」
「普通すね。ていうかまだ3日ぐらいしか経ってないですやん」
「そう。随分昔に感じるわ。ところで好きな人ってあの娘?」
「えっ? どの娘すか?」
僕は振り返って七恵の視線の先を追った。
「……」
「あの背の高い娘やろ?」
全てが音を立てて崩れていった。正門の内側2メートルぐらいのところに、彩乃と安奈がこちらを見ていた。
残念ながら終わりである──。