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正直、七恵はタイプだ。彩乃と出会っていなければ、あの怪しげな黒いベッドの上で事に及んでいただろう。だが、あの日は手を出さなかった。いや、正確には出せなかったと言った方がいいか。簡単に言うと、全く反応しなかったのだ。毎朝、痛いぐらいなのに何故かあの時は鳴りを潜めていた。一瞬、病気なのかと考えたが、そういう時もあるだろうと無理矢理納得した。好きでもない女とそういう事が出来ないタイプだったとは、実は自分が一番驚いている。彩乃と付き合えたら褒めて欲しいぐらいの案件だが、七恵の事は口が裂けても言えないだろう。
担任から1人ずつ通知表を受けとり、夏休みの過ごし方等をくどくどと聞かされた。
『さっき、校長から聞いておりますさかい』と、たてが楔を打ってくれなければ、後5分は聞かされたであろう。たては何万回かに一回は良い仕事をする。彼自身も早く帰りたいのだ。話しによると、この後ルカと“大人の遊園地”に行くと行っていた。その昭和な言い方がなかなかのツボで、腹を抱えて笑った。
何万回に一回は彼に失礼だ──『大人の遊園地』と、担任に打った楔で、五千回に一回は良い仕事をすると訂正しておこう。
「近ちゃん、8月に入る前に時間あるか?」
足早に帰る準備をしているクラスメイトの中、リーくんが話し掛けてきた。
「30日やったら空いてるよ」
「そうか。ちょっと俺ん家に遊びにこいや」
「分かった! みんな誘ってるん?」
「いや、お前だけや。色々話したくてな」
「ほなら直接家に行くわ」
「夜の8時な」
そう言い残し、リーくんは教室から出ていった。彼も以前に行われた食堂合コンで知り合った、歳下の女とかなり良い感じらしい。
あまり進展していないのは僕だけかもしれない──レプは香織さんがいるし、たてはルカと大人の遊園地、江戸やんは優香とどうなってるのか知らないが、安奈と急接近。僕も夏休みに入るまでになんとかしたかったが、慌ててノープランで挑むのもリスクが高い。完璧なプランを練ったたところで、最終的には面と向かって告白するしかないのだけども──。
「近ちゃん、もう来てるわ。香織と七恵さん」