東京の男
短縮授業が終わり、2週間が過ぎた。新しいクラスもみんな慣れてきたのか、自然とグループに分かれている。僕は相変わらず重い日々を送っていた。マスターからもらった助言を、自分なりに実行に移してはいるが、なかなか気持ちは晴れてこない。
「近ちゃん、一服行くべ」
「ちょっと待ってくれ」
「どったの?」
「いや、ちょっと気になる奴がおるんや」
「女か?」
「いや、男やけど」
何日か前から気になっているクラスメイトがいた。僕の席は真ん中の列の真ん中。左斜め後ろの席から、強烈な香水の匂いを漂わせる彼の名は、転校生の『梅野圭』だ。東京から転校してきたらしい。彼は独特のオーラを放っていた。例えるなら、まるで芸能人のような、どこか非現実的なそんなオーラだ。実際、彼は芸能人顔負けの男前である。肩まで伸びた黒い髪のサイドには、レイヤーが入っており、長髪男子によくいる不潔感などは一切ない。暑苦しいどころか、むしろ清潔感に溢れていた。制服の着こなしも、見たことのないスタイルだ。何の変哲もない黒い学ランの金ボタンを全て排除、下のズボンは、大阪で流行っているスキニータイプとは真逆で、標準のズボンを腰で履き、ダブついてだらしなく見える足元が何ともお洒落に見えた。
「誰?」
「梅野君」
僕は、彼の置かれている状況を自分に当てはめてみた。あと1年で卒業というのに、東京から大阪に転校。地元に友達や恋人、見慣れた風景や歴史があったはずなのに、親の仕事なのか何なのか理由は分からないが、もしも自分なら、早くこの1年が終わるように祈っているはずだ。そう、まさに今の僕の心境と酷似していると思った。あくまでも想像だが、僕自身はレプやマスターのおかげである程度救われた部分がある。今度は僕が彼の救いになれるかもしれない。ウザいと思われるかもしれないが、思い切って声を掛けてみた。
「自分、暇やったら一緒にタバコ吸いにいかん?」
「自分? 俺の事?」
「そうそう。暇やったら行かない?」
彼は不思議そうに自分の事を指差していた。
「おっおう。付き合うよ」
「よっしゃ行こう!」
僕ら3人は、秘密の喫煙所へと向かった。ちなみにタバコは成人してからですよっと。