終業式ドライブ
いつからだろうか──時の流れるが早く感じる。春先は、1分、1秒がとてつもなく長く、重かった。振り返ってみたら、彩乃との事があってからだ。明日が待ち遠しく、自分の体内時計が良い意味で狂い始めて、彼女の事ばかり考えている。だから今日という日が来るのが嫌で仕方なかった。何故なら、明日から夏休みで、彼女と会う事が出来なくなってしまうからだ。会いたければバイト先まで行くしかない。当然バイトのシフトなど分からないから、運に任せないと会えないのだ。
「近ちゃん、明日空いてる?」
江戸やんが僕の席に来た。何か言いたくてウズウズしているように見えた。
「空いてるよ。飲みにでも行くか」
「いいね。そっちの地元案内してよ」
「OK。何かあったん?」
「とりあえず最初に話しておきたくてさ」
そう言うと江戸やんは教室から出て行った。
何の事だろうか──頭の中をフル回転させたが全く思い浮かばない。この間の歳上女性の件だろうか。とにかく江戸やんが幸せそうで何よりだ。出会った頃は、僕と同様にこの世の果てでもがいていたから──。
無駄に長い校長の話しを校庭で聞かされ、担任が来るのを教室で待っている。自分の席で座っているのは、僕を入れて数人程度。明日から夏休みで浮かれているんだろう。勉強などクソくらえな学校だから、みんな遊ぶ事しか考えていないのだ。大学などこの学校からは10人も行けないだろう。ほとんどが就職するか、専門学校に行くかだ。我が5人組も、集まって進路の話しなどした事がない。彼等の進路に興味がない訳ではないが、集まると、楽しすぎてついつい色んな事がどうでもよくなってしまうのだ。
「近ちゃん、ちょっとええか?」
「どないしたん?」
レプがポケベルをいじりながら話しかけてきた。
「この間の女やねんけどな」
「七恵さん?」
「そうや。今日、学校に来るみたいや」
「何しに来るん?」
レプの女である香織さんが学校を見たいと言い出して、お迎えにくるらしい。それに便乗して、七恵さんも一緒に正門前で待っているとの事だ。 何故か背中が妙に寒くなったのは、気のせいであろうか──。